テラーノベル
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「オブォォォォォッ!!」
この痛みを想像出来るかい?
急所中の急所を刺されるその痛みは、現実にある“神経に触れた”なんて生易しいものではない。
死んだ方がまし。本気でそう思える程だ。てかいっそ殺せ。
刺された感覚から、恐らく箇所は付け根中間部分なのはせめてもの救いか。
「――ッ!!」
女は約二センチは刺したであろう針を、俺自身分身より引き抜く。
迸る熱いパトスが箇所へ集中する。その熱さは正に煉獄の業火だ。
「まるでルビーの噴水! 素晴らしいわ!」
女の愉悦。今まさに血孔から、俺の気高き血が流出している最中なのだろう。
それでも尚、硬度は些かも衰えないのは不思議だった。
このままでは集中した血流が全て排出され、失血死は必然。
いや、このまま死んだ方が良いのかも知れない。もう取り返しが付かないレベルに達してしまったのだ。
「いただきまぁ~す」
「――ッ!?」
不意に覆い被さってきた口蓋の滑らかな、そしてざらつく感触に俺は声にならない嗚咽を上げる。
「んふふふ……んまぁぃ」
断続的に繰り返される吸引音。
見えなくても分かる。こいつは直接、俺の血液を吸飲しているのだ。
それは余りにおぞましく、常軌を逸せねばなし得ない行為。
痛覚と悦楽が同時に襲い掛かる不思議な感覚に、俺の脳髄は正常な思考がおぼつかない。
“ジュルジュルルルル”
「――ッゥ!!」
口蓋と舌の感触が、痛覚のそれを上回った。
やばい。つまりはパトスの強制射出。これは自分の意思で止められるものではない。
待てよ? よく考えたら耐える必要等、何処にも無いのだ。
寧ろエネルギーを使い果たす事で膨張は収まり、血液も分散するそれは正に一石二鳥。
ならばこのままアポトーシスの大海に、身を委ねていれば全てが終わる。
「おいひぃ……」
よし、奴は血液を貪る事に夢中で気付いていない。
“アーマードライフル エネルギー充電”
お前の一方的な饗宴もそこまでだ。
“地球自転及び、重力の誤差修正”
感じるぞ、もうすぐだ――
“エネルギー充電120%超を計測――第二宇宙速度により、地球重力脱出準備完了”
終焉の刻。俺の背筋から全身にかけて稲妻が走る。
『さらばだ』
“発射っ!”
凶暴な意思を以て放たれるレールガン。その威力はオーバーストラトス(成層圏超)まで突き破る。
全てが終わる――その瞬間の時だった。
「――ッ!?」
第二宇宙速度で射出されるはずの超弾道。それが寸前で止められたのは。
「うふふ、何を考えてるのかしら?」
銃身にのし掛かる圧力。それは女の手により止められていたのだ。
「――フゴゥッ!!」
万力を掛けられたような圧迫に、俺は声無き呻きを上げる。
この細指の何処にそれ程の力が?
何より強制的に止められた為、行き場の無い銃身は暴発寸前だ。
「勝手な事は許さないわよ? 血が無くなっちゃうじゃない……」
甘かった。こいつには全てがお見通しだったのだ。
俺は自分の浅はかさを恥じる。
「うふふふ……勝手な事しようとした罰として、お仕置きしなきゃね」
しかし後悔しても、もう遅い。
お仕置きだと? 何をされるか分からない、見えない恐怖に俺の心は押し潰されそうだった。
「――っ!!!!!!」
一瞬の間の後、更に訪れる銃身への圧力。それは根元が千切れそうな程の。
一体何をしたんだ?
だがすぐに疑問は氷解する。
「おほほ! 根元をゴムで縛ったわ。これで出したくても出せないでしょ?」
何て事を。その事実を認識した時、俺の全身から脳内思考まで震撼が行き渡る。
それは最悪の状況、そして深淵の絶望。つまり――絶頂が常に訪れ続けるのだ。しかも戒めが解かれない限り、楽になる事すら許されない。
羨ましい? 否、これ以上の生き地獄は存在しないだろう。
「これで安心ね」
気を良くしたのか、奴は再度貪り始める。
「――ンンンッ!!!!!!」
途端に訪れる絶頂の無限回廊。果てなき地獄極楽門。
“キャハハハハ”
“ジュルルルル”
“ウマインマイ”
***
――果たしてどれ程の饗宴が続いたのか。
脳内エンドルフィンは垂れ流し続け、もはや俺に正常な思考は皆無。
早く終わって欲しい……。楽にして欲しい……。
僅かに残る理性が願うは、それのみだった。
「――あぁ……美味しかったわ。満足満足」
ようやく口蓋から離される。
悠久の刻にも感じた饗宴が終演を告げたのだ。
「それにしても凄いわねぇ……。あれだけ飲んだのにまだこんなに」
そう。それは決して収まる事は無い。
無限にも近い生命力を持つ、俺だからこその特権。
不意に俺に掛けられたアイマスクが外される。
希望の光ではない。
「ねえジョン、貴方の血で私綺麗になったかしら?」
瞳に映るその毒々しい輝きは誘蛾の如く。
“ルシファー”
神すらも背く、正に愚の象徴。
御満悦に問い掛けてくるその表情は、醜悪なまでに美しいと思った。
悪魔に神の血を施す。その相乗効果は禁断の領域。
禍々しい極彩色に輝くのは、ある意味当然なのだ。
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