(いつもご愛読ありがとうございます。主人公愛嶋のプロヒーローの姿です。書きたいところだけ書いてあります。愛嶋は常闇と同じ事務所でお仕事しています。どうぞお楽しみください)
ヴィラン・20名。プロヒーロー・10名。
有利な個性で押し切ったと思っていた。
ヴィランの個性は把握済み。数は倍だが、半分は強化の個性持ち。それに対してこちらプロヒーローは全員が攻撃要因。
問題ないはずだった。問題ないはずだったのに。データに無い個性が現れた。
臨機応変に対応し、自分たちのできることをしたのに。周りのプロヒーローはほぼ全滅状態。後方支援が得意な私だけが残ってしまった。
「ヒーローアクア!増援を待て…..!」
「お前だけではこの数は押し切れん、」
現在戦闘要員私だけに対して、敵10名。強化個性の敵5名。攻撃個性5名。そろそろ操れるストックの水も切れて来たというのに、敵には私の水では相性が悪い電気や高熱を操る個性持ち、接近戦タイプ、パワー系個性が2名…..今引けば、私は救かるだろう。
でも、常闇くん含め、重症を負ったプロヒーロー9名は?後ろの倒壊した瓦礫にまだいるかもしれない市民は?
ここで私が引いたら、プロヒーローたちは確実に殺されてしまう。今立ち上がる力も気力も残っていない。
「ヒーロー…..負けちゃうの、」
「ヒーロー……勝てないの?」
安全圏にいる市民の声が聞こえる。市民誘導も間に合っていないのだ。下がっていろと指示を出したのに。これは指示が行き届かなかった私の責任だ。
プロヒーローも、市民も、全員守らないといけない。
まずは市民に水の壁を張って、それからプロヒーローたちを浮かばせる水を、…..まずい、攻撃に回せる水が足りない!!
地下の水道管を使えばなんとかなるかもしれないが、被害は広がるだろう。天候は晴れ。乾燥した空気。これでは、自分の力でどうにかするしか、
「なぁ諦めろよプロヒーロー」
「市民と倒れたヒーローを守って攻撃して来ない…..水が足りないんだろ?」
「俺たちの好きにさせてくれよ」
「今なら、まだ間に合うだろ?」
「俺たちを見逃して、彼らを医者に診せればいい」
本当はそうしたい。でも、そんなことをしたら、彼らは止められない。
彼らは個性を使って、市民を脅かしていた。今までも何件もヒーローたちが出動し、ついに私たちに話が持ち上がってきた。
勇気と無謀を吐き違えるな。今まで安全策を取ってきた私なら、ここで引いていた。そうするメリットがあったから。
じゃあこの状況はどうだ?
引くことで、プロヒーロー9人を救けられる。
でも市民の安全は守れない。敵たちはどんどん力を増すだろう。
引かなければどうなる?
最悪私までやられ、市民もプロヒーローも守れず、敵は力を持つ。
引きたい。引いた方がいい。そんな状況…..
でも、どちらにしろ市民は守れない…..。
違う!守る!
私が!ここにいる全員を守るんだ!!
「頑張って…..」
「頑張ってよヒーロー、」
増援は呼んだ。それまでの時間稼ぎでいい。彼ら9人を守って、市民も守る!
『勝ってよヒーロー!!』
私の目に写った市民たちの涙。
そうだ!それだ!!
学生の頃は出来なかった。でも今ならできる!水の個性….周りのある水分を利用して戦う。昔、何度も個性調査でやって来た。
海水を使って波の高さ大きさを測った。
なら、できるはず!!
「市民の皆さん!!プロヒーローの皆さん!!」
『?!』
全員の目が私に集まる。
「不甲斐ないヒーローですみません!皆さんの力を貸してください!」
話している間にも、敵は攻撃を仕掛けて来る。必死に避けるが、火傷や関電。出血は免れない。
「どうか、どうか応援してはいただけませんか?!絶対にお守りします!!」
「愛嶋っ、」
ありがとう常闇くん。常闇くんは同じクラスになってから、インターン先も一緒で、たくさん相談相手になってくれた。いつも救けてくれた。だから私が守る番!
『アクア!!』
「ありがとうございます!!」
市民やプロヒーローたちの目から流れる物。それは涙。涙は水分。しょっぱいのは、塩分を含むから。
ボロボロになりながら、出血しながら。それでも昔みたいに脱水を起こさないのは、みんなのその涙が、言葉通り力になるから!
「その涙、頂きます!!」
1人1人の流す涙は少なくとも、それが私の個性を強化する。扱える水が多いほど、私の個性は威力を増すんだ!!
敵も人間。苦しいことはさせたくない。けど、市民とヒーローを守るために!
みんなの涙を操って、敵の器官に入れる。
残っていた水だけではダメだった。
みんなのおかげで、希望が見えた!!
苦しくて膝を着く者。必死に気道を確保しようともがく者。敵の攻撃が弱まって来たところで、ようやく増援が来た。
「まだ動きが止まった訳ではありません!拘束をお願いします!」
本当は私も動きたかった。けど、市民の壁を解除して、常闇くんたちを安全な場所に移動させたところで、視界がぼんやりしてきた。
これはダメだ。どうやら使い切ったらしい。斜めになる地面。受け身が取れない。
衝撃が走っ……らない?
「ヒーローアクア!お疲れ様」
誰が受け止めたのか、市民は無事か。身体を動かしたいが、痺れて動かない。痛みが走って、視界がぼやけて。
「君のおかげで市民に重傷者はいない。さすがだ!」
「…..私の、おかげでは、ないです…..ヒーロー、たちが、ここまで、削ってくれて、優しい市民の、皆さんの、声援があったから…。それに….増援の皆さんが、いらっしゃら、なかったら、私は、…..ダメ、でしたから……」
ぼんやりだった視界が暗くなって、声だけ聞こえるようになってきた。
「ありがとうヒーロー・アクア!」
「かっこよかった!」
違う…..皆さんが、頑張った、から…….。
ピッピッという機械音。目が覚めて、白い視界になった。戦場では無い空気。ここは、安全なところなのだろう。
「愛嶋!気がついたか」
「アイジマ!」
常闇くん….と、ダークシャドウ…..。
「起きなくていい。10人の中で、1番重症だったのは愛嶋だ。無理するな」
重症?そんなはずは….。
「市民の防御と俺たちの移動。自分の防御に回せる水がない上で集中攻撃を食らっていた。火傷に関電。打撲に骨折。切り傷に脱水。目が覚めたのは4日目だ。我々は2日後には仕事に復帰している」
言われてみれば….なんか全身だるいし痛いし….。
「ミロ!アイジマ!」
ダークシャドウが視界にパサパサとやるのは新聞の一面。
「 “ 凶悪ヴィラン20名。逮捕 ” 」
見出しはそれで…..内容は….、
「 “ ヒーロー・アクア。市民とプロヒーローを守りながらヴィランの撃退に成功。重症者多数。死者ゼロ名。アクアの支持率上昇に期待 ” だそうだ」
ありがとう全部読んでくれて。でも….。
「みんなの力があったから、あれで済んだ….。市民の応援を借りた、しがないヒーローだよ」
「謙虚なのは愛嶋らしいが、もっと堂々とするべきだ。我ら師であれば、細かいことは言わないだろう」
そうだろうけど。
「だが、それだけ話せるのなら安泰だな。今後メディアの取材が立て込むだろう」
う….目立つことは苦手なんだけど….。
「我々の事務所の花形だ。頼むぞ」
う…う〜ん…..。どっちにしろ、あの時の市民にはお礼を言いたいし….。
「また様子を見に来る」
「あ、常闇くん」
「なんだ?」
病室の扉に手をかけながら、常闇くんは振り返った。
「ありがとう。常闇くんがいてくれたから私は、」
「受け取っておく」
常闇くんの頼もしい背中。バイバイと手を振るダークシャドウ。病室の扉が、トンと閉まった。
あ、そういえば、私をここまで運んでくれた人は誰だったんだろう。
「経過、良好かな?」
「愛嶋に、会いに行かなくていいんですか」
常闇の言葉に対し、それは、ヘラヘラとした笑みを浮かべた。
「俺が行ったら、また泣いちゃうよ。脱水、マシになってきたのに」
「それもそうか」
愛嶋の病室の窓から零れる光を見ながら、常闇とそれはなにか言いたげな様子で佇んでいた。
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