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アイビーの間には、応接セットが二つある。

一つは、気軽にお茶を飲む場所として用意された、カフェスペースにある丸テーブルと椅子のセット。

二つ目は、応接室でよく見かける、長椅子と数点の椅子に囲まれた長テーブルのセットだ。


先ほどまでヘザーは、カフェスペースの方でジェシーと話をしていた。双方の距離が近いのと、扉から大分離れているため、内緒話をするのに適した場所だったからだ。


だから当然ヘザーが戻るのも、その場所。だったのだが、後ろから腕を掴まれ、引っ張られた。


そんなことをする相手は、この場では一人しかいない。


「カ、カルロ様!?」

「こっち」


そう言って、長椅子に座らされた。

すでに長テーブルには、カップが二つ置かれている。その一つをヘザーに渡すと、当然のようにカルロは隣に腰をおろした。


その真意が分からず、カップを渡されても、ヘザーはすぐに口をつける気にはなれなかった。普段の彼女ならば、ここでカルロの真意を見抜けていただろう。

しかし、前後のやり取りさえも忘れてしまうほど、この状況に動揺していた。


「姉様と何の話をしていたの?」

「え?」

「話だよ。話」


そこでようやく、ヘザーはカルロが何を言っているのか思い出した。


確か、言い淀んだ私を見て、ジェシー様に弱みを握られたんじゃないかと、勘違いされていたんだわ。だから、ここで話していた会話がそうだと、思っていらっしゃるのね。


ならば、答えは決まっている。ヘザーはあぁ、と微笑んで見せてから答えた。


「お茶会の話をしていました」

「お茶会? 姉様に何か言われたんじゃなくて?」

「はい。そのようなことはありません」


カルロに本当のことを話すわけにはいかなかった。ジェシーも望まないし、ヘザーもまた同じ気持ちだったからだ。


けれど、下手なことを言うと、ジェシーを困らせることになり兼ねない。ならば、後でカルロが尋ねても、辻褄が合わせ易い話題を選ぶことが、妥当だと判断した。


「でも、最近の姉様は変だから、ヘザー嬢に無理難題を言っているんじゃないかと思ったんだ」

「それも一切ありませんが、どう変なんですか?」


ヘザーは首を傾げて見せた。


なるほど。カルロ様が納得されない理由は、まだあったのね。だけど、これといってジェシー様に可笑しいところなんてあったかしら。


「七日前。パーティーから帰ってきた時、様子が可笑しかったって聞いたんだ。それから次の日には、ユルーゲルがやって来て。それもロニ兄様と一緒に」

「まぁ、ユルーゲル卿が」


天才魔術師の名をほしいままにしている、ユルーゲル・レニン伯爵令息。同じソマイア公爵家の傘下であり、魔法を扱える者として、ヘザーも交流がある人物だった。


よくジェシーに頼まれて、魔導具を作っていることも知っていたので、ユルーゲルがソマイア邸に行くことは、何も不思議なことではなかった。


何せ、今ヘザーが右人差し指にはめている指輪は、ユルーゲルが作った魔導具だからだ。八年前に魔法を暴走させてしまった際、魔力のコントロールを補助する魔導具を作って貰ったのだ。


「ロニ様と一緒というのは、確かに可笑しいと感じないことはないですが、特に気にかけるものではないかと……」

「グウェイン嬢は? 今日もだけど、その前にも一度来たんだ。七日前までは、王子と同じくらい文句を言っていた相手をだよ」


可笑しいじゃないか、とヘザーに詰め寄った。途端、持っていたカップが揺れ、お茶を零しそうになった。さらに受け皿がカップの動きについていけず、音まで鳴らす。


ヘザーは一旦、カップに口をつけ、間を置くことで動揺を抑えた。そして、テーブルにそっと置く。


「実はそのことで、今日こちらへ来たんです。グウェイン嬢、いえコリンヌ嬢を新たな側近にしたことを私たちに紹介され、さらにそのお披露目を兼ねて、ミゼル嬢にお茶会を頼んでいらっしゃいました」

「……何で、七日前まで嫌っていた相手を側近にするの?」

「そうですね。あっ、男性同士でもよくあるじゃないですか。喧嘩した後に、仲良くなることって。それと似たようなものかと……」


ちょっと強引な辻褄合わせだったかしら。


ハラハラしながら、ヘザーはカルロの顔色を窺った。


「カルロ様の心配も、ごもっともです。ジェシー様はセレナ様を、妹のように大事にされていますから。その敵とも言えるコリンヌ嬢を側近にするなんて、信じられないかと思います」


うん、と小さくカルロは返事をした。

社交界にまだ出ていないカルロですら、王子の動向は耳にしている。いや、王家に近い四大公爵家の令息だからこそ、知っておかなければならない事案だったのだろう。


「しかし、これも全てセレナ様のためだと考えてみたらどうでしょう」

「セレナ姉様の?」

「はい。その証拠に、今のコリンヌ嬢の恋人は、王子ではありません。レイニス・ヘズウェー伯爵令息です」

「確か、王子の側近だったよね。どっちにしても、姉様の側近には相応しくないじゃないか。いいの? そんなのと同じに思われるんだよ」


不満を露わにするカルロに、ヘザーは呆気に取られてしまった。そして、真意を悟った途端、思わず笑みが零れた。


「えっ、ちょっと、僕変なこと言ってないよ」

「分かっています。ジェシー様と私の心配をしてくださったんですよね」

「ね、姉様の心配なんかしてないよ。いざとなったら、ロニ兄様がどうにかしてくれるだろうから」

「では、私のですか?」


意地悪く、カルロに詰め寄った。さっきされたのとは違い、顔を覗き込むようにして。

すると、顔を背けられてしまった。図々しかったかな、と反省をした直後、少し赤らんだカルロの顔が、目に飛び込んできた。


「そうだよ。僕みたいなガキに心配されたくはないと思うけど、ヘザー嬢は何処か抜けているというか、なんていうか。優しいところがあるから」


心配なんだ、という小さな声は、ヘザーの耳には入らなかった。何故なら、カルロに抱き着かれた衝撃で、頭が真っ白になってしまったからだ。


「カ、カルロ様!?」


こ、これは抱き締め返してもいいのかしら。頭を撫でても許される?


軽くパニックになりながら、手を上げたが、カルロの背中までは届かなかった。


「さっき、お茶会って言ってたけど、ウチでやるの?」


照れ臭そうにしながらカルロは、少しずつヘザーから距離を取っていく。


「……いいえ。恐らく、ミゼル嬢の屋敷で行われると思います」

「それじゃ、こっそり参加することもできないね」


元々、グウェイン子爵家を傘下にしてくれる家門を探す場だから、カルロ様まで参加してしまうと、萎縮してしまう可能性があるわ。

ロニ様はともかく、サイラス様まで参加するらしいから、余計に来てほしくない。


「では、こういうのはどうでしょうか。後日、その時の様子を報告に伺う、というのは」

「いいの?」

「はい」


笑顔で答えるが、カルロの表情は明るくならない。むしろ、俯いてしまった。


「今日じゃなくて、今度。今度でいいから、こないだのパーティーの様子も教えに来てくれる?」

「も、勿論です」


すると、ようやくカルロは顔を上げ、笑顔を見せてくれた。


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