陰キャのチー牛に対して、私は回答しなかった。というより、できなかった。マリアの末裔に対してこんなふうに怒っている投稿を見てしまったからだ。
(相談)マリアの末裔へ (トピ主)陰キャのチー牛
(投稿日時)9月20日04時01分
なんだ、その回答は? 人の心の傷口を刃物でえぐって楽しいか?
おまえはサイコパスか? いや、サイコパスである前に、おまえネカマだろ? 処女かどうかなんて、男が気にするほど女は気にしないもんだ。
ああ、そうだよ。おれは気にしてる。〈陰キャのチー牛〉と陰で呼ばれたことよりずっと、妻がかつて誰にでもヤラせるサセ子だったという現実が受け入れられない。
陽キャどもが好き放題にタダマンした女の最後の引き取り手が真面目な陰キャ? 知らなかったよ。真面目な陰キャってそんなに罪なことだったのか? 真面目に生きてきて損した。あんな女のために自殺なんて絶対しないけど、会社も辞めて世界を放浪したい気分だ。
ネカマとは女の振りしてネットに書き込む男のこと。それを言えば、私は男の振りしてネットに書き込む女。正式な呼び名は知らないが、ネカマと同類だ。それを見破られそうな気がして、彼への回答ができなかった。
それにしても、マリアの末裔がネカマなら私には困ったことだ。だって夫に黙って別の男と何度もチャットした、ということになるのだから。それは断じて浮気ではないが、そう疑われても仕方ない状況だろう。マリアの末裔による否定コメントを待ったが、それから彼女が陰キャのチー牛に何かを回答することはなかった。
陰キャのチー牛の相談と前後して、回答したいと思わせるような相談者が別にいたので、私の関心は俄然そちらに集中した。その人には花の名前の娘がいるそうだ。私の娘も二人とも花の名前であることもあって親近感が湧いたのだ。ただ、その人はシングルマザー。境遇は私とは全然違う。
(相談)彼を救いたい! (トピ主)菜の花ママ
(投稿日時)9月19日18時10分
菜の花は娘の名前です。私の名前が花の名前なので、娘のパパが四月に生まれた娘に春の花の名前をつけてくれました。ただし娘の本当の名前は菜の花ではありません。身バレが怖いので菜の花ということにさせて下さい。
私は未婚の母。フルタイムで仕事もしています。娘のパパとは正式に結婚できませんでした。もともと私と彼が恋人同士でした。突然現れた女に彼を奪われたのです。
彼には仕事上の都合でその女と結婚しなければならない事情がありました。私は彼の事情を理解しておとなしく身を引きました。
でも納得できない人たちがいました。私の友人たちと彼の友人たちです。彼らはリゾート地の教会に話をつけて、シークレット結婚式を企画して、私たちを招待してくれました。もちろん主役は私たち。結婚式の準備も当日の進行もその後の宿泊の手配まで友人たちが全部やってくれました。家族も呼べない内緒の結婚式なのに、みんなのおかげで一生の思い出となる素晴らしい結婚式になりました。私たちは教会の神父さんの前で永遠の愛を誓いました。
その日から七日間私たちはハネムーン気分でリゾート地のホテルで寝食をともにしました。
「あなたとの子どもがほしい。認知しなくていいし、お金もいらない。あなたに愛されたあかしを私に下さい」
私のたっての願いに彼は応えてくれました。七日間ずっと私たちはお互いを求め合い、望み通り私は妊娠することができました。
その後、彼は愛してもいない女と婚約し、翌年結婚しました。彼は今、女の実家で暮らしています。私が彼と会ったのはシークレット結婚式後の七日間のリゾートホテル連泊が最後。でも優しい彼は私を見捨てませんでした。既婚者となった彼と会うことはできませんが、SNSではつながっています。認知も養育費もいらないと伝えてあったのに、あって困るものではないからと毎月十万円も私の口座に振り込んでくれます。
私たちの愛の結晶の菜の花は来年もう高校生。私が菜の花の成長を伝えるとき、彼は本当にうれしそうに私に感謝の言葉を伝えてくれます。
前置きが長くなりましたが、相談はここからです。彼の妻は横暴な女で、彼はそれをよく私に愚痴ってきます。結婚してもらえなかった私に気を遣っているわけでなく、本当につらそうです。正直、最愛の彼にもう耐えてほしくありません。今度は私が彼を奪い返して、私と彼と菜の花の三人で幸せに暮らしたいといつしか思うようになり、その思いは毎日強くなるばかりです。
もちろん私のその考えは彼にも菜の花にもまだ誰にも伝えていません。ネックは彼と妻のあいだにも子どもがいること。私が彼を奪えば、その子は悲しむでしょう。横暴な彼の妻が彼を失うことは自業自得としか思えませんが、そのことで私は躊躇しています。
シークレット結婚式で私たちは永遠の愛を誓いました。お互いその気持ちは今も変わりません。彼は違う女と結婚しましたが、そこに愛はありません。
私は前に進むべきでしょうか? それとも彼の苦境をただ指をくわえて見ているしかないのでしょうか? アドバイスをお願いします。
(回答)すべてを失う覚悟はあるか? (回答者)人妻キラー
(投稿日時)9月19日18時59分
シークレット結婚式には驚かされた。第三者だから気楽にそう言えるが、彼の妻が知れば気が狂って憤死してしまうかもしれない。
つまり、彼は別の女と結婚したがそれはあくまで書類上のことで、彼と心から結ばれているのは自分だと主張したいわけだな。あんたの言う通りならそういうことになるだろう。ただし、それはあくまであんたの書いたことが全部正しかった場合。
彼の奥さんと書かず彼の妻と書くのは、それだけあんたが彼の奥さんに怒りを感じているからだろう。
あんたは彼を奪い返してやろうと考えていてネックは彼の妻が産んだ子どものことだけだと言い張るが、果たしてそうかな?
①かつて彼があんたを愛していながら仕事上の都合で別の女と結婚しなければならなかったそうだが、それが事実なら今だって彼が離婚してあんたと再婚すると、彼は仕事する上で大きな不利益を被ることになるのではないか? 〈仕事上の都合〉というのがどういう事情か分からないから断言はできないが。
②彼の妻が横暴な女というのは事実なのか? 妻子持ちの男が奥さんをけなしながら別の女を口説くことはよくあること。最近も、妻に夫婦生活を拒否されていると打ち明けられて不倫に応じたら、実は奥さんは妊娠中だったという女からの相談があったな。
③そもそも彼は今もあんたを愛しているのか? シークレット結婚式を挙げた頃は盛り上がっていたようだが、それから何年経っている? そのときできた子が今中学三年生。そのあいだ彼は離婚せずに奥さんとの子どもも生まれている。毎月十万円の養育費をくれるというのも、子の製造者としてのただの責任感からではないのか?
あんたが彼を略奪するに当たってネックになりそうなことは、ざっと考えただけでこれだけある。詳しく聞けばもっと増えるかもしれない。
認知もされていないのだから、奥さんは夫に隠し子がいることを知らないだろう。間違いなくその養育費は彼が奥さんに黙ってあんたに提供しているものだ。あんたが下手に波風を起こしたら、養育費がもらえなくなって娘さんまで困ったことになるのを忘れない方がいい。一度立ち止まって考え直すことをお勧めするよ。
(相談)人妻キラーさんへ (トピ主)菜の花ママ
(投稿日時)9月19日22時45分
人妻キラーさん、厳しい回答ありがとうございます。厳しいけどハッとさせられました。確かに波風を立てれば養育費がもらえなくなる可能性がありますね。
何人かのシンママ仲間に相談しましたが、奪っちゃえ! 奪っちゃえ! とみんな無責任に私の背中を押してくれるだけ。かえって不安になりました。
一方、人妻キラーさんの回答は本当に私のことを考えてくれているという点で信頼できそうです。さすが名物回答者としてほかの回答者から一目置かれているだけのことはありますね。
すべてを失う覚悟ですか? そんなものあるわけないでしょう。でも彼と菜の花と私の三人で暮らせるなら、ほかのすべてを失ってもかまいません。
挙げられた疑問に分かる範囲で答えます。
①について。彼の妻は彼の会社の役員の娘。当然退職せざるをえないでしょう。でも彼はずっと前から退職したいと言い続けていました。取引先の社長からうちに来いと言われていて、その気になればいつでも退職できるそうです。
②について。彼の妻は特に夫婦生活の面で横暴なのだそうです。いつ行為するかの決定権は100%彼女が握っていて、言われたとおり行為したからいいかと言えばそんなこともなくて、何度射精しても彼の意向を無視してもっともっとと言い続けて、自分の気が済むまで彼に行為を強制するそうです。しかも避妊するなとそんなことまで強要されるそうです。
「妻との行為のたびにおれは惨めな気持ちになる。女から男へのレイプがあると言っても信じない人も多いだろうが、おれはその被害者だよ。結婚前からずっと」
結婚前から彼はそう愚痴ってました。そのたびに何でも吐き出していいんだよと私は彼に寄り添ってきましたが、内心は腸が煮えくり返る思いでした。一刻も早く魂の牢獄から彼を救い出してあげたいです。
③について。彼が愛しているのは私だけです。妄想ではありません。シークレット結婚式こそが本当の結婚式だったと彼は口癖のように私にこぼします。彼の妻に嫌なことをされたあと、彼はシークレット結婚式の映像を見て、心を慰めるそうです。シークレット結婚式のあとのハネムーン――ハネムーンといってもずっとホテルに缶詰だったのでひたすら二人で行為していただけですが――の七日間、ベッドサイドに三脚を立てて撮影したその映像も結婚してから十五年、見なかった日はないくらいだと言ってくれます。
ちょうど昨日もこんなやり取りを彼としました。
〈おれは結婚してから一度もセックスしていない〉
《奥さんに三人も子ども産ませたのに?》
〈あれは子作りを兼ねた奉仕だ。苦行でしかない。本当のセックスは妻とはしたことがない〉
《本当のセックスって?》
〈愛のあるセックス。おれはそれを、おまえとしかしたことがないんだ〉
《嘘でもうれしい! でもそれが本当なら、奥さんも愛のあるセックスをしたことがないことになるよね? ちょっとかわいそうかな」
〈気にする必要はないさ。向こうはおれに愛されてると思い込んでる。おれに無理やり愛してると言わせて満足しているが、独りよがりもいいところだ〉
《無理やり言わせるのはひどいね》
彼が毎日欠かさず見ている映像の中の私は十五年以上前の私。今の私の体はその頃の私より確実に十五年分若さを失っています。
《でも今の私は映像の中の私と違う。会ったらがっかりするだけだよ》
〈何を言ってるんだ? おれたちはシークレット結婚式で永遠の愛を誓っただろう? おれが愛する女も抱きたい女も永遠におまえ一人だ!〉
《私も同じ気持ちです》
〈愛してる〉
《愛してる》
私は泣いてしまいました。横暴な妻から彼を奪い返したいという気持ちがさらに強くなりました。
私がしようとしていることは倫理的に許されないことです。そんなことは百も承知です。でもこれ以上彼の苦境を指をくわえて眺めていることはできないのです。彼と永遠の愛を誓った者として――
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