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昼休みの終わり。校内放送が鳴る。
放送「内田くん。校長室へ来なさい」
柔らかい声。
だが拒否権はない。
廊下を歩くと、生徒たちのざわめきが自然と消える。
紙の床が、わずかに軋んだ。
校長室。
机の向こうに座るのは、
グレース校長。
微笑みを浮かべているが、目は鋭い。
グレース「最近、均衡が揺れている」
単刀直入だった。
グレース「あなたの存在が無関係とは言い切れません」
内田は静かに鞄からカメラを取り出す。
黒いボディ。
見た目は普通のデジタルカメラ。
内田「ここに来たときに、カメラが異能化したようです」
校長の視線がわずかに細くなる。
グレース「異能化?」
内田「フラッシュが特殊です」
続ける。
内田「過去の邪悪を記録する。
敵対的存在を数秒間、行動不能にする」
校長室の空気が一瞬、張り詰めた。
だが内田は補足する。
内田「ただし――」
カメラを構え、フラッシュを使わずシャッターを切る。
カシャ。
何も起こらない。
内田「通常撮影は、ただのカメラです」
さらに続ける。
内田「フラッシュも、世界そのものには無害。
どうやら何らかの“エンティティ”に反応するタイプのようです」
校長は指を組む。
グレース「つまり、基盤である紙には干渉しない?」
内田「そのはずです」
昨日、アリスの空間で使用しても、
紙そのものは裂けなかった。
反応したのは“存在”。
校長はしばらく沈黙した。
やがて、静かに言う。
グレース「均衡を直接壊す力ではない、ということですね」
内田「はい。ですが、エンティティに作用するならば――」
グレース「教師にも作用する可能性がある」
否定はしない。
数秒間。
それだけでも、戦況は変わる。
校長は立ち上がり、窓の外を見る。
グレース「この世界は創造と破壊の均衡で成り立っています」
振り向く。
グレース「あなたのカメラは、そのどちらでもない」
静かな声。
グレース「“観測”ですね」
観測。
記録。
止めるが、壊さない。
グレース「均衡を乱す存在でないならば、排除対象ではありません」
わずかな許可。
グレース「ただし」
空気が冷える。
グレース「濫用はしないこと。
エンティティ同士の衝突に不用意に介入しないこと」
内田は頷く。
内田「了解しました」
校長は微笑む。
グレース「あなたはまだ“白紙”に近い存在です。
どちらにも塗られていない」
その言葉が妙に重い。
グレース「色を選びなさい、内田くん」
退室の許可。
廊下に出ると、空気が軽くなる。
カメラを見下ろす。
ただの機械。
だがフラッシュは、
エンティティにだけ反応する。
世界には無害。
均衡にも直接は触れない。
だが――
もし外部因子が“エンティティですらない何か”だったら?
カメラは、反応するのか。
廊下の奥で、
蛍光灯が一瞬だけ瞬いた。
次に揺れるのは、
観測か、均衡か。