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みら

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白い紙を前にして。
最初こそ警戒していた九人だったが。
気がつけば。
全員かなり真剣に間取りを考えていた。
阿部と目黒は、一枚の紙を二人の間に置いている。
「リビングは広めがいい」
阿部が大きな四角を描く。
「九人来ても座れるくらい?」
「うん」
目黒が覗き込む。
「じゃあダイニングも大きくしないと」
「そうだね」
阿部は紙の端にキッチンを書く。
「キッチンも広め」
「アイランド?」
「そこまでじゃなくてもいいけど、二人で立っても邪魔にならないくらい」
「じゃあ広くしよ」
目黒が即答する。
阿部が少し笑った。
「めめ、何でも広くするじゃん」
「好きに決めていいって言われたから」
「光熱費」
その言葉と同時に。
後ろから天使の声がした。
二人が振り返る。
天使が腕を組んで紙を覗いている。
「リビング広くしすぎると、冷暖房代すごいよ」
阿部が鉛筆を止めた。
「……もうチェック入るの?」
「あとから全部直す方が大変でしょ」
「夢なのに現実的だなあ」
「現実に住むんだからね」
天使は真面目だった。
目黒が聞く。
「じゃあ、このくらいなら?」
「断熱ちゃんとするなら大丈夫かな」
魔王が少し離れた場所から口を挟む。
「断熱も最高のやつにするよ」
天使が振り返る。
「ちゃんと現実で使える素材にしてね」
「大丈夫だって」
「前に魔法間違えた人が言っても信用できない」
阿部が小さく笑った。
「それはそう」
「ひどくない?」
魔王だけが不満そうだった。
阿部は間取りへ戻る。
「ここ、本棚」
かなり大きめの壁を指す。
目黒が。
「それだけで足りる?」
と聞く。
阿部は少し考えて。
線を伸ばした。
「じゃあこっちまで」
天使がすぐ来る。
「待って」
「また?」
「本棚これ全部?」
「うん」
「本の重さ考えてる?」
阿部が固まる。
「……床抜ける?」
「普通に作ったら心配かもね」
阿部はすぐ魔王を見る。
魔王は胸を張った。
「床めちゃくちゃ強くする」
天使が。
「その説明じゃ駄目」
と即答する。
「ちゃんと床荷重考えて」
「分かったって」
魔王は少し面倒そうに返事をした。
阿部は天使を見る。
「じゃあ本棚減らさなくていい?」
「構造ちゃんとするなら」
「お願いします」
即答。
目黒が笑う。
「そこは譲らないんだ」
「本棚だからね」
その隣へ。
勉強机。
ドレッサー。
収納。
広めの寝室。
阿部が一つずつ書き込んでいく。
目黒はリビングのソファのところへ。
小さく文字を書いた。
『充電スペース』
阿部がすぐ消した。
「何で消すの」
「いらないから」
「いるよ」
「ソファって書けばいいでしょ」
目黒はもう一度。
『充電スペース』
と書く。
阿部がまた消す。
天使が横から見て。
「そこは好きにしていいよ」
「天使まで!」
目黒が笑っていた。
少し離れたところ。
岩本と深澤もかなり進んでいた。
「ここトレーニングできる部屋」
岩本が書く。
深澤がすぐに。
「広すぎない?」
「機材置きたいし」
「俺、その分リビング広くしたい」
「じゃあ半分ずつにする?」
「トレーニング部屋とリビングを?」
「違うよ」
「分かってる」
深澤が笑う。
最終的には。
岩本のトレーニングスペース。
深澤がゲームをしたり、だらだらできる場所。
大きなリビング。
寝室。
という形になっていく。
天使が途中で覗いた。
「このリビング、大きすぎない?」
深澤が紙を見る。
「そう?」
「この広さ全部冷やすんだよ?」
「……ちょっと小さくする?」
岩本も頷く。
「十分広いしね」
深澤が素直に線を引き直した。
宮舘と渡辺の紙は。
一番整っていた。
「キッチンはここ」
宮舘が描く。
「パントリーも欲しいな」
渡辺が横から。
「風呂広くして」
「うん」
「洗面台二つ」
「うん」
「クローゼット広め」
「分かった」
「床暖房」
宮舘が手を止める。
「全部?」
「リビングと寝室」
そこへ天使が来る。
「床暖房、電気代かかるよ」
渡辺がすぐに聞く。
「どれくらい?」
天使が説明を始める。
阿部が少し離れたところから見て。
「翔太だけ現実的な相談してる」
目黒も笑う。
宮舘はすでにキッチンの収納まで細かく書いていた。
天使が紙を見る。
「ここはかなり現実的」
渡辺が少し得意そうに言う。
「でしょ?」
宮舘が笑う。
「翔太が快適さにうるさいから」
「大事でしょ」
佐久間は。
完全に別方向だった。
「ここ漫画!」
大きな部屋。
「ここフィギュア!」
もう一つ。
「ここグッズ!」
さらに一つ。
「ここアニメ見る部屋!」
天使が後ろに立つ。
「さっくん」
「何?」
「エアコン何台置くの?」
佐久間の手が止まる。
「……全部?」
「光熱費」
「うっ」
「あと壁全面棚にしたら地震対策必須」
「夢ない!」
「現実のマンションだから」
「魔王! 何とかして!」
魔王が。
「棚倒れないように魔法かける?」
天使がすぐに。
「現実で魔法前提にしない」
「厳しいなあ」
「当然です」
結局。
佐久間は部屋を少しまとめることになった。
「じゃあオタク部屋一個にする……」
「広めにしたら?」
ラウールが言う。
佐久間の顔が明るくなる。
「それだ!」
天使が。
「広くしすぎないでね」
とすぐに釘を刺した。
康二は。
写真関係ばかりだった。
「ここ撮影スペース」
「ここ編集部屋」
「ここ写真置くところ」
阿部が覗き込む。
「家というよりスタジオじゃない?」
「ちゃんと寝室あるで」
「小さっ」
「寝るだけやから」
天使が来る。
「暗室作るなら換気ちゃんとして」
康二が頷く。
「はい」
「水回り増やすなら管理も考えて」
「はい」
「あと写真の保管、湿度」
「はい!」
天使のチェックを真面目に受けている。
康二はそのまま。
リビングの壁に大きく、
『九人の写真』
と書いた。
「ここにいっぱい飾る」
阿部が笑う。
「夢のアルバムも?」
「もちろん」
ラウールは。
一番見た目にこだわっていた。
「窓大きくしたい」
「どれくらい?」
魔王が聞く。
「壁一面」
天使が即座に。
「夏暑い」
「遮熱ガラス」
「冬は?」
「床暖房」
「光熱費」
「……」
ラウールが黙った。
少し考えて。
「じゃあ半分くらい」
阿部が笑う。
「天使強いね」
「生活は毎日のことだから」
ラウールはクローゼットを広くし。
天井も少し高め。
大きな姿見。
シンプルなリビング。
そして最後に。
リビングを少しだけ広げた。
「ここ、みんな来ても座れるようにする」
佐久間が笑う。
「ラウも結局九人前提じゃん!」
「だって来るでしょ」
「来る!」
「即答なんだ」
結局。
六枚全部。
形は違っても。
九人が集まれる場所だけは共通していた。
全員の紙がだいぶ埋まってきた頃。
岩本がふと顔を上げた。
「これさ」
魔王が見る。
「何?」
「こんなの本当に建てられるの?」
「ああ」
魔王はあっさり頷いた。
「多分大丈夫」
渡辺が眉を寄せる。
「多分?」
「建築費の話でしょ?」
「それもだけど」
魔王は。
何でもないことのように答えた。
「マンション自体は俺が魔法で作るから」
全員が止まった。
深澤が。
「……魔法で?」
「うん」
佐久間の目が輝く。
「一瞬で?」
「多分」
渡辺が。
「また多分って言った」
魔王は気にしない。
「だから建築費はそんなにかからないと思う」
阿部が恐る恐る聞く。
「材料は?」
「出せるよ」
「設備は?」
「作れる」
「エレベーターも?」
「作れる」
ラウールが。
「建築会社いらないじゃん」
と言う。
魔王は嬉しそうに頷いた。
「だから家賃半分でも旅行代くらいは稼げるかなって」
天使が横から。
「でも現実に建てるなら、安全性とか法律とかはちゃんと確認するからね」
魔王が少し面倒そうな顔をする。
「分かってるよ」
「魔法で作ったから大丈夫、は禁止」
「はいはい」
阿部が笑う。
「天使いなかったら絶対住めない」
「なんで?」
魔王が不満そうに聞く。
「怖いから」
「最新セキュリティなのに」
「そっちじゃない」
みんなが笑った。
さらに少し経って。
六枚の間取りは。
ほぼ完成に近づいていた。
天使が順番に見て。
「ここもう少し収納増やした方がいい」
「この廊下無駄に長い」
「水回りこっちにまとめた方がいい」
と修正を入れていく。
魔王はその横で。
壁紙や床材の見本を選んでいた。
突然。
「あ」
と言う。
阿部が嫌そうな顔をする。
「何」
「土地見つけた」
全員の手が止まった。
岩本が聞く。
「今?」
「うん」
「さっきまで決まってなかったよね?」
「探してた」
魔王は机の上に。
一枚の資料を出した。
「ここ」
九人が集まる。
場所は。
事務所へも行きやすい。
道路から建物の中が見えにくい。
地下駐車場から直接エレベーターへ入れる。
周囲にもある程度距離がある。
天使が資料を見る。
「結構いいんじゃない?」
目黒も。
「仕事行くにも便利そう」
阿部は。
少し警戒しながら聞く。
「……いくら?」
魔王が首を傾げた。
「土地?」
「そう」
「知らない」
全員が固まる。
渡辺が。
「おい」
と言った。
魔王は慌てて資料を見る。
「あ、書いてある」
「先に見ろよ」
深澤が笑う。
阿部が。
「そもそも買えるの?」
と聞く。
魔王は少し考えたあと。
「土地代はいるね」
「そりゃそうでしょ」
「建物は魔法で作れるから大丈夫なんだけど」
「旅行する金ないんじゃなかった?」
ラウールが聞く。
「旅行代はない」
「土地買う金は?」
「ある」
沈黙。
康二が。
「魔王の金銭感覚よう分からんな」
と呟く。
「土地は資産でしょ?」
魔王は真顔だった。
「旅行は消えるお金じゃん」
天使が少し感心する。
「そこはちゃんとしてるんだ」
阿部が頭を抱える。
「もう分かんない」
魔王は。
楽しそうに六枚の間取りを見る。
「じゃあここ買っていい?」
阿部がすぐに顔を上げた。
「待って!」
「何?」
「まだ住むって決めてない!」
魔王が。
六枚の紙を見る。
そして。
阿部と目黒の紙を見る。
大きなリビング。
本棚。
勉強机。
ドレッサー。
広いキッチン。
寝室。
細かく書かれた収納。
魔王は阿部を見る。
「こんなに描いたのに?」
阿部が黙る。
目黒が横で笑った。
深澤も。
「もう住む気満々じゃん」
「違うって!」
佐久間が。
「俺もうオタク部屋の壁紙まで決めた!」
「佐久間は早すぎる!」
康二も。
「俺も写真飾る場所決めたで」
ラウールも。
「俺もほぼ完成」
渡辺が自分たちの紙を見ながら。
「……まあ、条件は悪くない」
宮舘も頷いた。
岩本と深澤も顔を見合わせる。
どうやら。
誰も本気で断るつもりはなさそうだった。
阿部は。
六枚の間取りを見る。
そして。
隣の目黒を見る。
目黒が小さく笑った。
「楽しそうじゃない?」
阿部は少しだけ口を尖らせる。
「……楽しそうだけど」
魔王が嬉しそうに手を叩いた。
「じゃあ決まり!」
「まだ決めてない!」
夢の中に。
また阿部の声が響いた。
コメント
1件
うわ、第66話、めちゃくちゃ楽しかったです……!みんなで理想の間取りを考える回、読んでてこっちまでワクワクしました。特に阿部くんと目黒くんの「充電スペース」の消し合い、微笑ましすぎて声出して笑いました(笑)。それでいて天使がずっと現実的なチェック入れてくるのに、魔王が「土地見つけた」ってサラッと爆弾投げてくる流れ、好きです。全員の紙に「九人が集まれる場所」が共通して入ってるのがじんわり良かった…。まだ「決めてない」って言いながらも、もう住む気満々なのが伝わってきて、あたたかい気持ちになりました!