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サイド黒
「ただいまー」
いつものように、玄関のドアを開けると弟に声を掛ける。
「おかえり」
短くてどこか素っ気ない返事。でもこれも通常運転だから。
「ごめんね、遅くなって。ちょっと仕事が長引いて…」
僕は美容師としてヘアサロンで働いている。
「ううん、大丈夫」
「すぐ晩ごはん作るから。何がいい?」
「んー、なんでも」
またその答えか、と心の中で思いながら夕飯の準備を始める。
樹は、生まれつき目が見えない。だから料理などの家事も出来ず、いつからか家の仕事はほぼ僕がするようになった。
でも最近は、掃除とか出来ることをしてくれるようになってきたので助かる。
冷蔵庫の中を見て、昨日の残りがあったことを思い出した。もうこれでいいや、と簡単に調理を済ませ、食卓に並べる。
「昨日の余りだけど…」
「全然」
「3時の方向にハンバーグ、9時にご飯。12時にサラダね」
「いただきます」
お皿がある場所もわからないから、いつもこうやって時計の針の方向で示してあげるんだ。
箸を口に運び、顔をほころばせる樹。「おいしい」
そんなかわいらしい笑顔を見ていると、今日も一日頑張ってよかったな、なんて思う。
そして、僕はふと考えたことを口に出す。「ねえ、一回俺の美容室来てみない? 髪切るよ」
樹は、普段は家の近くの散髪屋でササッと整えるくらいしかしない。どうせ見えないから興味ない、と言って髪型や色もずっと同じ、黒のまま。
「…うん、行きたい」
思いのほか反応が良かったため、少し驚く。「ほんと?」
「だって北斗の仕事場行ったことないし、どんな感じで働いてるのか気になるから」
「そっか。じゃあ明日にでも、閉店後にやろうか。店長に許可は取っておくよ」
ほかの人がいる営業中は嫌かな、と思い、提案する。
「ありがと」
食べ終え、2人分の食器を片付けているとき、樹が話しかけてきた。
「ねえ、北斗ってお客さんの髪、染めたりしてるんでしょ?」
「うん? そうだよ。金髪とか、茶髪とかよくしてる」
「俺も…染めてみたい…」
もじもじしながらそう言った。思いもよらなかった言葉で、「え?」と声が出る。
「染めたいの?」
こくん、と頷いた。なんだ、樹もちょっとは髪を変えたいって思いがあったんだ。
「わかった。じゃ、ちょっと時間長くなるけどいい?」
うん、と言って樹はニコリと笑った。
樹のことを一番わかっている僕だからできる、カラー選定。どんなイメージにしようかな、とワクワクが止まらなかった。
続く
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