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「えー結局何話してくれたのか教えてくれないの!?」
「そうですね、そのために部屋をわけて話してたので」
「ブライトってそんな、意地悪だったけ?」
ブライトとグランツが戻ってきて、私はブライトなら何を話していたか教えてくれるだろうと思い話しかけたが彼は上手くはぐらかして教えてくれなかった。
ブライトにしては少しお茶目な断り方なような気がして、何か吹っ切れたものでもあったんじゃないかと思うぐらいだった。逆にグランツはいつも通りで安心したというか。いつも通り過ぎて、内容が何だったのか予想しようがなかった。
まあ、ブライトの言うとおり聞かれたくないから部屋をわけて話していたんだし無理に聞きだろうとするのはダメだろうと、自分でも反省した。
でも、それでも気になってしまうのは仕方ない。
そんな感じで、ブライトに絡んでいると、彼は思い出したかのように帰りの馬車の準備が出来ていますと私達に伝えてくれた。
「すみません、本来なら転移魔法で送るべきなのでしょうが……先ほどの事もあり、魔力の残っている魔道士がいないのです」
彼曰く、私達が乗ってきた馬車は先ほどのドラゴンの襲撃で壊れてしまったらしい。そんなことになっていたなんて初耳だった。というか、まず乗ってきた馬車の事なんて覚えていない。
最近は、アルベドの転移魔法でひゅんひゅんといろんな所に飛んでいた気がしたから、馬車に乗るのは久しぶりだった。ブライトの言うとおり、転移魔法が使える魔道士の魔力が残っているとは思っていない。ドラゴンの爪痕は結構残っているみたいで、負傷者や、建物の再構築に魔道士達を当ててるようだった。それぐらいの魔力しか残っていないと言うことだ。
光魔法の魔道士は、闇魔法の魔道士と違って人の魔力を自分の魔力に変換できないためである。
「そう、だよね……大変そうだもん」
私はブライトに同情するように言葉をかける。
ブライトは、魔道騎士団の団長の父親の不在中屋敷を守る管理する役目を背負っていて、それで今回こんなことになってしまって、色々と仕事や指示に追われているのだろう。そんな彼に、無理は言えないし、早く帰った方が良いだろう。客人がいたら落ち着かないだろうし。
皆に目配せすれば、皆も同じ意見だったようでコクリと頷いてくれた。
忙しい中、変わりの馬車を用意してくれただけでもありがたい。それに、本当は呼ばれていないかも知れないのに彼の家を訪ねてしまった私達は、これ以上ブライトに迷惑はかけられない。
でも、ブライトは少しだけ考える素振りをして、大丈夫ですよ。と私達に笑顔を向けた。
「こちらも、本当にすみませんでした。手紙を出したのは僕の方なのに、まさか、このような事になるとは思わず」
「ううん、気にしないで。こっちこそごめんね、急に訪ねたりして」
「いえ、来てくださってとても嬉しかったです」
ブライトは、申し訳なさそうに頭を下げて謝る。
そりゃ誰だって、ドラゴンがいきなり暴れ出すなんて思わないだろう。だから、ブライトに非はないし誰も悪くないと思っている。
彼は、あくまで「自分が手紙を出して呼んだ」と言っているが、やはりまだそれを私は信じ切れていなかった。彼は丸く収めようとしているようだったので、私もこれ以上何も言うつもりはなかったし、彼が言ってくれるまで突っ込まないでいようと思った。彼は忙しくて秘密の多い人だから。
可笑しな話である。
忙しいというのに、ブライトはグランツに話したいことがあると言って二人きりになった。忙しいなら、ユニーク魔法のことでならまた個別に手紙を出せば良いし、今日じゃなくてもよかった筈なのだ。だけど、彼はそうしなかった。今日話す理由があったのだろうか。
ああ、分からないな。と、私はブライトを見た。彼の髪色はまだ毛先がアメジスト色に染まっており、綺麗なグラデーションになっていた。まだ、私の魔力が抜けきっていないと言うことなのだろうか。だから、疲れた様子も見えないのか、また、みせないのか。
まあ、もうどっちでも良いけれど。
私達は、ブライトに案内されるまま馬車の所まで行くと、そこには既に御者が待機していて、私達の姿を見ると、帽子を取って深々と頭を下げた。それにしても大きな馬車を用意してくれたんだなあと感心してしまう。普通の馬車の二倍はある大きさで、五人乗っても余裕で座れそうなほど大きかった。
(さすが、侯爵家……)
あの双子は爵位的には伯爵の位置だけど、富豪だしもうそれは豪華でメルヘンチックな豪邸に住んでいるわけだけど、ブライトも侯爵家の人間でそれなりに財力はあるんだなあと思った。貴族の金銭感覚は未だに分からないけれど、それでも短時間で用意できる所を見ると凄いのではないかと思った。
私はそんなことを思いながら、用意された馬車に乗り込む。馬車の中は意外と広くて、ゆったりとした空間が広がっていた。座席にはふかふかのクッションが敷かれていて、座り心地が良い。内装は白を基調としており、上品な作りになっている。天井はガラス張りになっていて、そこから光が差し込んでいた。
窓枠には花模様のレースが施され、キラキラと輝いていた。すると、トワイライトが私の隣に座ってにこりと私に微笑みかけた。
そうして、皆が乗り込んだところで、私は一人「あっ!」と声を上げる。
「ど、どうしたんですか、お姉様」
「エトワール様どうしたんです?」
と、トワイライトとアルバは二人揃って私を見てきた。
私は、わざとらしく声を上げてしまったので、何だか怪しい人、挙動不審な動きをしていると思われたのではないかと皆の方を見たが、何てこと無い、皆何事かと心配そうな顔で見ていた。あまり、演技は得意ではない。
「あ、えっと、さっきの部屋に忘れ物しちゃって」
「そうだったんですか、なら私が取りに行ってきましょうか?」
「ううん、自分で取りに行ってくる」
アルバが率先して手を挙げたが、それではわざと声を上げた意味がないと私は彼女の言葉を蹴って馬車から飛び降りた。リュシオルは何となく察したとでも言うような顔をしていたが、聞いてこなかったため、後から理由を彼女にだけ説明しようと思った。
私は馬車から降りて、すぐには先ほどの部屋に向かわず見送る姿勢で私達を見ていたブライトに駆け寄った。彼は、私が近付くと驚いたような顔をしてどうしたんですか? と尋ねてきた。
「わ、忘れ物しちゃって……一緒に取りに行ってくれないかな」
「ええ、良いですけど。僕がとってきましょうか?」
「ううん、でも、ついてきて欲しい。ブリリアント家って広いし、迷子になりそう」
「分かりました」
ブライトは、少し困りながらも笑顔を浮かべて了承してくれた。
私達は、二人で屋敷内に戻る。ブライトとは、特に会話はしなかったが、彼は私を疑うような目で見てきた。本当はこんな回りくどい真似したくはなかったのだけど、しょうがない。
私は、誰もいない静かな廊下で立ち止まった。後ろからしていた足音が止ったため私は振返る。
「ねえ、ブライト」
「どうかされましたか? エトワール様」
彼は、私が何を言いたいのか理解していないような表情をしていた。本当に何も知らないのだろうか。
いや、違う。
彼は私に何も言わなかった。ただ、じっと見つめてくる。その瞳に映る感情は読み取れない。私は、目を閉じて大きく息を吸ってから、ゆっくりと目を開いた。
そして、口を開く。
「ねえ、ブライトの弟のこと教えてくれない?」
そう私が尋ねれば、彼は言えないとでも言うように口を閉ざしてしまう。予想していた反応だったし、きっと私と二人きりになったところでいってくれないだろうなとは思った。でも、私だって引き下がれない。トワイライトがああなっちゃったのもあるし、これまでブライトと関わってきて彼は毎度弟のことになると情緒が乱れると思ったからだ。隠し切れていない。
暫く沈黙が続き、私はブライトが何か言い出すのを待つ。
彼は、諦めたかのように小さく溜息をつくと視線を落として、静かに話し出した。
「エトワール様が何を聞きたいのか何となく分かりますけど、弟については……まだ言える勇気がないのです」
「また、逃げるの?」
「…………」
「今回、トワイライトが体調崩しちゃって、それは昨日の疲れが取れていないからってだけじゃないと私は思う。絶対に、アンタの弟に何かあるって思った。それでも、まだ隠すの?」
私は彼を問い詰める。
それでも、ブライトは頑に口を開かなかった。
相変わらずの秘密主義。今回は苛立ちとかはなかったけれど、それでも、この沈黙は嫌だと私が口を開こうとしたとき、彼のほうからしゃべり出した。
「ただ、今言えることは、きっとこれを言ったらエトワール様は僕を軽蔑するでしょう……ということだけです」
ブライトはそう告げると、悲しそうにアメジストの瞳を揺らした。