テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
れもん
2,187
思い出してから。
空は、変わった。
⸻
「……空?」
「ん?ああ、ごめん。何?」
呼ばれてから反応するまで、少し間が空く。
そんなことが増えた。
「最近ぼーっとしすぎだろ」
海が軽く言う。
「ちゃんと寝てんのか?」
「寝てるよ」
笑って答える。
――けど、その笑顔が浅い。
⸻
夜。
誰もいない部屋。
空は一人で座っていた。
暗いままの部屋で、膝を抱える。
思い出してしまったから。
忘れられない。
⸻
――「悪いな」
あの時、自分は確かにそう言った。
二人の顔を思い浮かべながら。
それでも、行った。
⸻
「……最低だな」
ぽつりと呟く。
止められるって分かってたから、言わなかった。
悲しむって分かってたのに、置いていった。
「……約束、したのに」
拳を握る。
爪が食い込むくらい強く。
「守る気、なかったじゃん」
自嘲みたいに笑う。
⸻
次の日。
「空、今日帰りどっか寄るか?」
海が声をかける。
「……ごめん、先帰る」
即答だった。
「は?」
「ちょっと用事」
目も合わせない。
そのまま行ってしまう。
⸻
「……おい」
海が舌打ちする。
「さすがにおかしいだろ」
陸は、何も言わない。
ただ、分かっていた。
⸻
その夜。
「……いない」
空の部屋。
電気もついていない。
「どこ行った……」
海がスマホを握る。
既読はつかない。
⸻
見つけたのは、近くの公園だった。
街灯の下。
ベンチに座っている空。
俯いたまま、動かない。
⸻
「……何してんだよ」
海が近づく。
反応がない。
「おい、空!」
肩を掴む。
その瞬間。
空がびくっと震えた。
まるで、何かに怯えるみたいに。
⸻
「……触んな」
小さな声。
「は……?」
海が固まる。
空は顔を上げないまま言う。
「俺に、関わるなよ」
その言葉。
明らかに、拒絶だった。
⸻
「……なんでだよ」
低くなる声。
「なんでそんなこと言うんだよ」
しばらく沈黙。
そして。
⸻
「俺さ」
空がやっと口を開く。
「二人のこと、裏切ったんだよ」
⸻
空気が止まる。
⸻
「約束したのに、勝手に死んだ」
「止められるって分かってて、黙ってた」
「悲しませるって、分かってたのに」
一つ一つ、噛み締めるみたいに言う。
⸻
「そんなやつと、また一緒にいようとすんなよ」
顔を上げる。
その目は、ぐちゃぐちゃだった。
「また同じことするかもしれないだろ」
⸻
「……は?」
海の中で、何かが切れる。
⸻
「ふざけんなよ」
低く、押し殺した声。
「それ、本気で言ってんのか?」
空は何も言わない。
⸻
次の瞬間。
バチン、と音がした。
⸻
海の手が、空の頬を叩いていた。
⸻
「……っ」
空が目を見開く。
⸻
「勝手に決めんなよ!!」
叫ぶ。
「俺たちがどう思うか、お前が決めんな!!」
⸻
呼吸が荒い。
止まらない。
⸻
「確かにお前は勝手だったよ!!」
「ムカついたし、今でも腹立ってる!!」
「でもな!!」
一歩、近づく。
⸻
「それでも一緒にいたいって思ってんのは、俺たちだろうが!!」
⸻
沈黙。
空の目から、また涙が落ちる。
⸻
そのとき。
後ろから、腕が回された。
⸻
「……一人で全部決めるな」
陸だった。
静かな声。
でも、逃がさない力。
⸻
「許すかどうかは、俺たちが決める」
「お前が勝手に“許されない側”に行くな」
⸻
空の呼吸が崩れる。
⸻
「……でも……」
かすれた声。
「俺、自分が嫌だ……」
⸻
「じゃあ嫌いなままでいい」
陸は即答する。
⸻
「その代わり、逃げるな」
⸻
海も横から言う。
「嫌いでもいいから、ここにいろ」
⸻
挟まれる形。
逃げ場はない。
でも――
一人でもない。
⸻
空が、ゆっくりと顔を覆う。
⸻
「……ずるい」
涙混じりの声。
⸻
「そんなの……離れられないじゃん……」
⸻
海が小さく笑う。
「最初から離す気ねえよ」
⸻
陸も、ほんの少しだけ笑った。
⸻
その夜。
三人はしばらくそのままだった。
泣きながら、何も言わずに。
⸻
許されたわけじゃない。
許せたわけでもない。
⸻
それでも。
ここにいていいと、言われた。
⸻
それだけで、少しだけ――
呼吸ができた。