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「はい、あ、いえいえ大丈夫です。はい……え、吉川さんすか、いますよ」
応答した木下の口から突然自分の名前が出たことに驚いたほのりは、聞き耳を立てる。
「えー、そりゃ急っすね、あちゃ〜」
困った様子の木下は通話を終えた後、ほのりに言った。
「吉川さん」
「何事??」
「支店長が飯食ったらすぐ戻ってきてって」
だから何事だと眉を寄せていると。
「ここ何日かうちの事務員さん休んでたんやけど、辞めるって連絡あったんですって」
「……そうなの?」
そういえば、先月挨拶にここを訪れた際に女性が一人いたはずだ。そして確かパートで事務をしていると名乗ってくれていた。
朝も休んでいる人が一人いると、中田が口にしていた記憶がある。
その女性のことなのだろう。
「なんや、ずっと瀬古さんやらとうまくいってへんかったんですけど……」
木下が水の入ったグラスを持ちつつ、瀬古の名を出した。
ほのりは頭の中で朝の刺々しい態度を思い返しながら、なるほどなぁ、なんて妙に納得してしまっていたのだった。
急いで麻婆豆腐をかき込み、会社へと戻ると、中田とすでに戻ってきていた瀬古がいた。
「瀬古さん戻ってたんですね。松井さん辞めてもたんすか」
「元々体調悪いや何やゆうとったやろ、しょうもな」
木下が駆け寄ると、瀬古がうんざりと行った様子で吐き捨てる。
「ええ……しょうもなって……」
「使えん奴ばっか入ってきよって、挙句仕事ほっぽりだして辞めるとかどないやねんな」
「瀬古さん、言い方言い方」
苛立った口調の瀬古を木下が宥めている。
すると、
「吉川さん、お疲れさん。早いこと昼休み切り上げてもらって悪いね」
木下の後に続いたほのりをみて、中田が手招く動作を見せた。
「どうしましたか?」
「本社に連絡したら、うちは元々コスト関係でパートの事務員さんしかいなかった上にしょっちゅう人が入れ替わってるから。人が定着するまで兼任してもらってくれって言うんだけど」
「はい?」
営業の仕事も覚えつつということか?
まだ環境にも慣れていないのでとりあえず素っ頓狂な声が出た。
「え、待ってくださいよ。さすがにどっちも仕事覚えろって……新しい人入れへんのです?」
まだ喋り続けている瀬古を放って、割って入ってきた木下に中田は冷静に返した。
「まぁ、元々吉川さん向こうでは事務やってたから。また募集はかけるけど……うちは監査入ったら目も当てられん状況だから、お願いした方がいいかもしれないなってね、上と話してた訳だけど」
それを堂々たる態度で語る支店長とは。
営業としてはピカイチでも、統括する立場としてはいかがなものなのだろう。
(大丈夫なの? ここ)