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「じゃあ具体的にはどんな感じになるんでしょう」
ほのりも流石に黙ったままは良くないと、会話に参加した。
「うち、営業事務はいないんだよ。営業が自分で入力作業やってるから」
「そうみたいですね、向こうで少しは聞いていました」
「だから、基本的にお願いしてたのは一般事務。伝票整理とファイリング、小口関係は経理に提出するまでをやってもらっていた。あとは請求書関連。月次の数字合わないってなったら俺に回ってきてたし」
そこまで、うんうんと頷きながら聞いていたほのりだったが次の言葉でカチンときてしまった。
「ま、そこまでやること多くはないから楽でしょ」
「楽……」
「そう。なのにすぐ辞めていくから、困る」
中田はヤレヤレといった様子で肩をすくめた。
(瀬古といい、このおっさんといい……)
関東では、受発注業務の他に担当営業の顧客ごとに請求書の発行までは携わっていたので全くわからないわけではないが。
それでも。
「楽ではないと思いますけど」
「ん?」
中田は首を傾げた。
「関東とは事務の人数が違うから、この環境で支店長が事務の仕事を楽でしょ、なんて切り捨てたら彼女には味方がいなかったんじゃないですか」
他の会社のことなどほのりにはわからないが、この会社のことならばわかることだってある。
関西支店に事務は一人だと言った。
一人きりで、在籍する正社員たちに各々の提出日を伝え、急かし、月末月初には追い込まれて。
外出が多い営業やサポートの面々、そこに理解されなくとも。
状況を見据えて判断し、より良い環境を作ってあげられる人に……楽な仕事だと見下されることがどれ程精神的負担になるか。
加えて瀬古の態度を見れば、どんな状況下での毎日だったのか想像がついてしまうじゃないか。
「支店長にそんな言い方されて、事務って営業とは揉めやすいし、事務所で長く一緒にいる上長が表向きだけでも味方してくれなきゃ、孤独感半端ないと思います。そりゃ続かないと私は思います」
ポカンとする中田を前に、ほのりは瞬時にやってしまったと理解した。
「……なんやねん、今日来たばっかの奴がデカい口叩くなや」
案の定、思ったとおりの言葉が届く。
「すみません」
「あんたに関係ないやろが」
しかし次の言葉には、すみませんを返せない。
「あります。抜けた穴を埋めるのは私になるんですよね、今の感じだと」
その言葉にグッと何かを飲み込んだ様子の瀬古が「そんなんやから婚期逃したとか言われんねやろが」と呟いた。
どこからの情報だと疑問と怒りが噴き上がったが、瀬古は営業だ。
関東支店ともやり取りはあるのだから、誰かから何かを聞いていても少しもおかしくはない。
向こうではこの性格で、ほのりのことをよく思わない人たちがいたことは事実だし、コソコソとそんな感じのことを言われていたことも知っている。