注意事項
・一次創作
・死ネタ
※去年書いた作品のため
書き方が今と違います。
予めご了承ください。
肌寒さが目立つ季節に温かな珈琲を飲みながら、とても栄えているとは言い難い街を見下ろす。
「うわー、あそこの棒に紐付けたら首吊りできそー」
簡単に問題発言をしているのは昔ながらの友人だ。私はいつも呆れている。
「それ、何回目?」
「うーん、八回?」
余裕で五十は超えているだろう。
友人はとにかく死にたがっていた。
これでも良くなった方だ。
昔は未遂が何度あったことか、覚えていない程だ。
理由は分からない、時に精神を病んでしまったのではと心配したが、
『何?心配してくれてんの?やっさしー』
とにやにやしながら言う程だ。絶対病んでいない。
「なんかさー、この世界に飽きちゃったっていうか」
「新しい風吹かせよっかなって」
あははと笑いながら話す君。感情が狂っているのだろうか。
珈琲の残りを飲み終え、スタスタと歩く私に焦りながら着いてくる。日常茶飯事だ。
「あそこだと首吊り、あのデカさの水槽なら溺死かなー」
周りの視線が痛い。
けれど私は赤の他人を装って前に進んだ。
目指していた場所に着いたのは歩き始めて十分だった。友人は息切れをしている。
「もう少し体力つけたら?」
「そしたら首吊りの時とか通常の時より苦しい時間続くじゃん。これくらいがちょうどいいの」
言い訳にしか聞こえない。体力があるないだけで苦しむ時間は変わるのだろうか。それならいっそ、私が刺そう。
けれど、まだそのときでは無い。
「ほんっとここ好きだよね、飽きない?」
「ほんっと自殺好きだよね、飽きない?」
「真似しないでもらっていい?てか自殺は飽きる飽きないじゃないし、精神的な問題だし」
早口で何を言っているのかさっぱりだった。
「それなら精神科とか行って対策すれば?」
「やだ、めんどくさい」
イラッとした心を沈め、会話を続ける。
「ほんとに、死因考える癖治した方がいいよ」
「なんで?」
「私が恥ずかしい」
「なら君が離れれば良いだけだよ。僕は何があろうと君から離れる気はないから」
これが彼氏とかだったらかっこいいと感じるかもだが、生憎こいつだ。かっこいいなんて感情が一切湧かない。
少しずつ日差しが消えていき、夕暮れとなった。
「そろそろ帰ろーよ」
友人は早く帰りたそうにしている。
なら何故私に着いてきたのかは彼にしか分からないのだろう。
そして、咄嗟に口から質問が出てしまった。
「君は、どうして死にたい?」
「どうして?うーん、そうだな〜」
少しの間沈黙が流れる。
友人は頭を捻らせ、結果的に出た答えが
「死ぬのに理由をつけるとか、難しすぎるって」
友人は疲れた顔をしている。
死、それは生まれたら避けきれない運命。
どんなに人生を楽しんでも、いつかは来る終わり。
それに理由を付けろ、というのは私の質問が悪かったのだろうか。
「ねーもういい?早く帰ろー!」
辺りを見渡すとすっかり日は暮れていた。
「ばいばい!また遊ぼうね!」
「うん、ばいばい」
分かれ道で私たちは言葉を交わした。
時は経ち、太陽の光が目立つ季節となった。
「熱中症になる〜……」
汗をかきながらコンクリートに横たわる友人。
そこにいたら轢かれるのではないか?
「今君が考えたことを当てて見せよう」
急に預言者気取りになった友人。
自覚があるのだろうか。
「ずばり!僕にアイスを奢りたい!」
「はずれ、罰ゲームでアイス奢りな」
「ちょっと!嘘つかないでよ!」
私が友人にアイスを奢りたいなど考えたことは片手で数え切れないほどない。
「ちぇっ、騙せると思ったんだけどな」
「そんな間抜けじゃねぇよ」
あははっとおもしろそうに笑う。
客観的に見れば友人は人生を謳歌している。
こんな奴が死にたがっているなんて、誰がわかるのだろうか。
「そういや、何考えてたの?」
沈黙が流れる。
正直に言えば済む話。
なぜ私は黙る?
「君と居ると暑さが増すなって」
「はぁ!?それどういう意味!?」
なぜ、私は嘘をついた?
私は別に友人に特別な感情を抱いている訳では無い。
それなのに、どうして嘘をついた?
「ねぇってば!話聞いてる!?」
「聞いてなかった」
「表出る?ねぇ?」
珍しく怒っている。感情が豊かなのだろう。
「僕だって、相談に乗るくらいはできるんだからね」
正直驚いた。
友人は他人に興味を持たないと勝手に思っていた。
けれど違った。
彼にも、人の心というものはあった。
「大丈夫。ただ、今日の夕飯何にしようかなって悩んでただけ」
嘘をついた。自分でもよくわからない。
「僕ならそうめんかな、夏の食べ物と言えばそうめん!」
「私は焼きそばなんだけど」
「あれ?」
てへっと笑う顔。今日は不思議な気持ちになることが多かった。
夢だ、これは夢だ。
そうだ、きっとそうに違いない。
君が本当に死ぬわけが無い。
あんなに楽しく走り回っていた君が、死ぬはずない。
こんな────
────野菜如きに
「無理!ピーマン無理!死ぬ!」
「死なないから好き嫌いしないで食え」
「この鬼!悪魔!人殺し!」
「なんとでも言え。食うまでぜってー帰さねぇからな」
「ひどっ!」
結局、友人は私の家へと泊まることになった。
そして、友人のリクエスト。
「僕好みのそうめんにしてよ」
だから、私好みにしてやった。
いつもの復讐だ、沢山苦しめ。
「君がそんな極悪非道な奴だと思わなかったよ」
「お、食べてんじゃん」
「君が食えって言ったんでしょ?」
友人は怒っている。私は笑いを堪えた。
だが堪えきれなかったらしい。
「笑うなー!」
拗ねてしまったが、私は気にしない。
なぜなら、
「アイス食うか?」
「食べる!」
目を輝かせ一目散に飛びつく。
やはり、単純な奴だ。
「このご褒美が毎回あるなら何回でも食べるよあの料理」
美味しそうに食べる友人。
「なら今度は二倍の量入れようかな」
「やっぱり悪魔、人殺し」
コロコロと感情が変わる友人を見るのは、とてもおもしろい。
「んー!食べた食べた!」
「そろそろ寝よ!」
「私は食器片付けてから寝るよ。先寝てて」
「ほんとに?それじゃあ遠慮なく寝るね。おやすみ〜」
ほんとに遠慮がない。私じゃなければ殺されていただろう。
友人が事故にあったらしい。
それも、轢き逃げ。
犯人の行方は警察の人が追っているらしいが、まだ見つかっていないらしい。
静かに病室のドアを開ける。
「お?君が最初の見舞いに来るなんてね」
「私が1番最初なの?」
「うん、親は縁切っちゃったし」
「ふーん、まぁいいや。これ、フルーツ」
「美味しそ!一緒に食べよ!」
「そう言うと思った」
私は呆れた雰囲気を出しつつ、果物ナイフを取り出した。
順調に剥いていく。
「……僕ね、轢いてきた人の顔少し見たんだ」
ドキッとした。ずっと沈黙で友人は黙っていたから。
「それ、警察の人に言ったの?」
「ううん、確証が持てないから言ってない」
なぜ言わないのだろう。「多分」という言葉をつければ万が一違っても大丈夫。なのに、それを隠すのは何故だろうか。
「轢かれて死ねないなら、いっそさ」
私の手に触れて、彼はこう言った。
「君が、僕のこと殺してよ」
長い沈黙だ。時間的には三分、いや、一分も行っていないだろう。なのに、長く感じた。
「こんなこと頼めるの君だけなんだよ」
「親に言ったって迷惑かけるだけだし、君以外に仲のいい友達なんていない」
「君にしか、頼めない願いなんだよ」
友人の目から水が滴った。
今まで、友人が泣いた姿を見たことは一度もなかった。
飼ってるペットが死のうが、悲しい映画を見ようが、どんな事があっても泣かなかった彼が、泣いた。
私が、やるしかないのか?
友人を救えるのは私だけなのか?──
───いいや、違う。
他に方法があるはず。
「……また今度ね」
そう、はぐらかした。
「あはは、君らしいや」
彼は苦笑いをし、この話題に区切りをつけた。
なかった。
幾ら考えてもいい案が浮かばない。
どうすれば、彼を殺さず楽にしてやれるのか。
精神科なんて役に立たない。そこは処方箋とアドバイスを貰うだけ。楽になる確証なんてない。
また、見舞いへと来た。
「来たね」
待ってましたと言わんばかりだった。
「ここじゃ話しずらいから、外出ようよ。許可もらってるし」
私たちは楠野原公園という場所へと来た。
「この前はごめんね、混乱させたよね」
「全然、こっちこそいい案言えなくてごめん」
「……君ってやっぱり不思議だね」
「え?」
「僕ね、友達が今まで一人もいなかったの」
「君の性格じゃ友達なんてわんさか……」
「理由はやっぱり、癖になっちゃってる死因を考える癖」
癖なら仕方がないと私は思う。慣れてしまっただけなのかもしれないが。
「みーんな怖がっちゃって、みんな離れてった」
「でも、君だけだったんだ。離れないで居てくれたの」
きっかけは、何だっただろうか。
「嬉しかったんだ、友達できたの」
「最初は驚いたよ?『お前が噂の変人か、俺と仲良くしろ』って、あんまり聞かないセリフだったかな〜」
「黒歴史を掘り下げるな」
友人はニヤッとした。
「そっか〜、あの時は中二病期間?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。だから嫌だったんだ。
「だったら悪い?」
「いや?べっつにぃ〜?」
本当にこいつはイラつく奴だ。
「本題に行くね」
真剣な空気が流れた。
「もう一回、よく考えたんだ。それでも、答えは変わらなかった」
「君に殺してもらいたい。他でもない、僕を」
「そしたら私人殺しになるんだけど」
「別に今更いいじゃん、だって、僕のこと轢いたの君でしょ?」
「……違うけど」
「嘘つかなくていいよ、僕はこの目でしっかりと見たんだから」
そう言い、目で見た、とジェスチャーで表している。
そうだ、私は彼をはねた。その事実は変わらない。なら、なぜ──
───「怒らないの?」
「怒らないよ。だって、僕ずっと望んでたでしょ?君はその願いを叶えようとしてくれたヒーローなんだから」
「人殺しは、犯罪なんだ。ヒーローなんかじゃなく、ヴィランになって、悪者になる。それを成敗するヒーローが、正しく君なんじゃないか」
「死のうとしてる奴がヒーローとか似合わないって」
「明日を生きようとする君がヒーローなんだ。それを邪魔するヴィラン、それが僕だ。だって、今君の明日を奪おうとしているからね」
私が友人を殺せば私は捕まる。明日は無い。なのにどうして提案するのだろうか。私がこの手の提案には容易く乗らないことを友人は知っている。
「君の明日を予言してみせよう」
ゆっくりと、時が流れたように感じた。
それでも彼は口を止めなかった。
「僕を殺さなかったら君は明日、罪悪感に満たされ死んでしまうだろう」
「……」
「……ね?今殺した方がお得なの」
「この前君が病室に持ってきたあれ、持ってるよね?」
「それで、僕の心臓を一思いに刺してよ」
「それが、僕が君にねだる。最期の願いさ」
「恨まないでよ、一生呪うとか、怖いから」
「もちろん、ヒーローだもん」
「じゃあね、また会えたら会おう」
「君は早く来すぎちゃダメだよ?」
「その約束はきっと出来ない」
「そっか」
「……ねぇ、最期に一つだけ」
「何?」
私の手は最大限に震えていた。これ以上待たせるこいつは、悪魔だ。
「君の名前、ずっと聞いてなかったなぁ」
「名前なんて今更どうでも……」
「最期なんだから!ね?」
これはずっとねだるパターンだ、長年の付き合いの私ならわかる。いや、私しか分からない。
「……成川正(ナリカワセイ)。君は?」
「僕の名前は葉月(ハヅキ)つばさ!」
「そう、それじゃあ、またね、つばさ」
「うん、またね、正」
死んだ。
今度は本当に死んだ。
私が刺した、この手で。
赤色の液体が指に滴っていくのがわかる。
これが、人を殺した感覚。
私は立派な犯罪者だ。
人殺しをした。
体温は冷たくなり、生気を感じられないはずのつばさは、どこか笑っているように感じる。
「ごめんね、つばさ」
「私はもしかしたら、君に叶わない好意を抱いていたのかもしれない」
「もう伝わらないけれど」
つばさ、今から───
────「逢いに行くからね」
テレビでニュースが流れる。
『昨日、楠野原公園にて、成人男性2名が遺体として発見されました。警察は、殺人の疑いがあるとして、調査を進めています』
私は死んだ。罪滅ぼしと、私の罪を隠すため。
「正、いくら何でも早すぎだよ」
「つばさ……」
「でも、殺してくれてありがとうね」
「やっぱり正は、僕にとってのヒーローだ」
きっとつばさは天国へ行き、私は地獄行きだ。
そんなのとっくのとうに了解している。
それでも、彼が私に着いてくるのは、私の願いが彼に届いたからではないかと自惚れてもいいのだろうか。
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