テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「まっーーまだだ!」
スクは起き上がろうと試みるが、全身は既に凍結し、勝負有りである事は明らかであった。
「何をしても無駄ですよ」
ユキが冷酷に、死に逝く者への言葉を送る。
「全ての細胞が凍結崩壊し、後は全て無に還るだけです。全神経凍結により、せめて痛み無く逝くといいでしょう」
それはせめてもの情けか。かつての彼には考えられなかったもの。
“今更あがいても仕方ないか。少しでも力を削いでおきたかったが……”
「ふ……認めよう。私の負けだ。特異点、私の敵う相手では無かった……」
“最期に強敵との闘いで死ぬなら本望か”
「だが、この地やお前達における実態調査は全て本部へ報告済み。直属部隊の方々も動くだろう……ふふ」
スクは可笑しくて仕方なかった。
結果破れたとはいえ、自分の調査報告により、この地が終焉に向かう事を。
個人的な闘いには破れたが、狂座軍団長としては勝利した事の意味であった。
「お前がいかに強かろうが、所詮戦は数の論理。お前一人の力だけでは、我等の戦力差を埋める事は決して出来ん!」
スクの身体が凍結崩壊し、塵になっていく。
「先に地獄で待っている」
それが塵となって消え逝く、スクの最後の言葉だった。
「……先に逝っててください」
ユキは塵になって、夜空に四散していくスクを見据え思う。
「地獄……か」
“私は自分がしてきた事を、無かった事にしようとは思わない”
“この報いは受けます……必ず”
ーーでもその時が来るまで、命の限りアミを守り抜く。
世の中がどうなってもいい。
“だがアミだけは必ずーー”
「それが私の存在意義なのだから」
ーー此処の情報が全て狂座に送られているなら、遅かれ早かれ攻めてくるのは間違いない。
直属部隊。おそらく幹部級が来る筈。
“それならそれで丁度良いです。これで全てのケリを付ける。アミやその他には黙っていた方が宜しいですねーー”
そうユキが考えあぐねていると、奥の方から声が聞こえてきた。
「ユキ~!」
アミが息を切らせながら、ユキの元に走り寄ってきたのだ。
「目が覚めたらユキがいないし、心配していたのよ」
「すみません……」
アミはこの場で何をしていたのか、敢えて聞かなかった。
狂座の者と戦闘をしていた事は明らかだったから。
ただ無事だった事にアミは心底安堵したが、彼の頬に切り傷が有るのを発見する。
「ユキ? 頬に傷が!」
ユキは指で頬をなぞってみると、指にうっすらとした血糊が付いていた。
「この位、大丈夫ですよ」
心配そうに見つめるアミに、ユキは笑顔で返した。
幾多もの死線を潜り抜けてきた彼にとって、傷など日常茶飯事であったから。
だからこそ、アミの次の行動は予想外であった。
不意にアミはユキを抱き寄せる。
「アミ?」
アミはユキの切り傷に唇を這わせ、血を吸い出していたのだから。
「あ、あの……本当に大丈夫ですから」
「駄目よ、消毒しないと黴菌が入っちゃうでしょ」
「それは分かりますが、恥ずかしいですよ……」
ユキはその行為を大袈裟だと思いながらも、心地良いので、されるがままとなっていた。
でもその心配が嬉しく思う。
「アミ……」
“お慕い致しております”
“ーーて、私何やってるんだろ!? ユキが呆れちゃってるじゃない”
アミは急に自分がした事が恥ずかしくなり、俯いて顔が紅くなる。
「アミ、ありがとう」
俯いてるアミにユキは笑顔で返す。
その笑顔があまりに美しくも愛おしくて、アミは再びユキを抱きしめた。
「ごめんね。でもあまり無理はしないで」
“これはきっと気休めだ”
“ユキはまた闘いへと赴いていく……”
“そんなユキに私は何もしてあげれないーー”
狂座の戦力を前に、アミ達は無力に等しかった。
だからこそ彼の力に縋る他、道は無い。
“私にもっと力があれば、ユキが傷付く事も無いのに……”
そんなアミの心を見透かしたかの様にーー
「大丈夫ですよ」
“私は貴女を護ると誓ったーー”
「では、家に戻りましょうか」
「うん」
二人は手を繋いで帰路へ。
“その言葉を違えるつもりはありませんから”