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#怪異
イキリ火の玉
946
親分達が出て行って静かになると梶は島の所に行った。
「島の様子は?」
「ほとんど死んでいます」
沢村がボソボソと答えた。島は壁際に敷いたボロ布団に寝かされていたが生きているのか死んでいるのかわからないくらい動きがなかった。
「一応まだ呼吸はしているが、朝までは無理だろうな」
すぐ側で観察しながら梶がつぶやいた。仲が良かったのか沢村は辛そうな顔だ。
それからはほとんど会話もなく過ごしているとちぃこと安田が外に出て行った。沢村は島と反対側の壁でまどろんでいる。梶は囲炉裏の側でお堂から持ってきた書物を読んでいた。
会話する気も梶のように書物を読む気もしなかったので努も外に出た。
「サブッ」
思わず声が出た。まだ春には早い季節。こんな田舎では夜は特に冷える。白い息を吐きながら歩いた。
時間は九時か十時ごろだろう。朝が早かったからこの寒さの中でも眠気は感じたけど、もう少し一人になりたかったのでお堂に向かった。
街灯のない夜道でもほとんど満月の月の明かりで道はなんとか見えた。昼に登った時より息を切らせてお堂までついたけど中は暗くてすぐに出た。
月を見上げてから村を見下ろす。人気のない寒々しい光景。本当に自分一人が村に取り残されている気がして急に恐くなって早足で来た道を降りていった。
人恋しかったけどまだ集会所には戻る気がしなかったので外車の置いてあるトンネルに向かった。
本当に村人は誰もいない。途中、誰に会うこともなく外車のところまでやってきた。中に誰もいないことを確認してドアノブを引いてみたけど鍵が掛かっていた。
開いていればスマホや何か道具が手に入れられたのにと思いながら外車に背を向けると目の前に人が立っていた。
「ヒャッ」
変な悲鳴が漏れて尻もちをついた。
「あはは、ビックリさせちゃった?」
ちぃこが楽しそうに笑って手を差し伸べる。努は恥ずかしさもあってちぃこの手は借りずに立ち上がった。そしてパンパンとズボンの土を払うと睨むつもりでちぃこを見て思わず見入ってしまう。
初めて見たときは肩の下まである濃い茶髪も少し潤んだ大きな瞳も可愛い子犬をイメージさせたが、今は違う。銀色の月明かりに照らされてどこか儚く幻想的なちぃこは不思議と可愛さよりも美しさが勝っていた。
「ねぇキミ、わたしのこと怒ってる?」
「あ……いや……」
「本当? ちぃこ嬉しいよ?」
少し首を傾けたその微笑みもいつもの明るく元気なものではなくて、落ち着いた、まるで自分より年上のような、そんな気がした。
「ふぅぅぅ、寒いねぇ?」
ちぃこは自分の手に白い息を吐きかける。そんな動作も二十歳前後の女の子には見えなかった。
「ん? どうしたの?」
ジッと見つめる努を見返してちぃこが訊いた。
「あ、いや、怖くないの?」
「なにが?」
「なにがって、この村から出られない事とか森の妖怪とか……」
「あはは、怖くなんてないよ?」
何故かちぃこは笑って答えた。ちぃこはヤクザに拉致されたときも怖がっていた様子がなかった。頭が悪いのか、あるいは恐怖という感情がないのか、とにかく普通じゃないことだけはわかった。
「ねね、寒いから戻ろう?」
小首をかしげてそう言うとちぃこは努の手を掴んで歩き出した。引っ張られるままついていくと途中で腕を組んできたので思わず頬が緩む。
我ながら単純だと思いながら集会所まで戻るあいだ努はささやかな恋人気分を満喫した。
集会所に戻ると島以外、誰もいなくなっていた。
「ふぁぁぁぁ、ちぃこ眠いよ?」
大きなアクビをするとちぃこは村人からもらったボロ布団の一つを持って囲炉裏の近くで横になりすぐに寝息を立てた。
努も囲炉裏の側にいってちぃこの寝顔を見た。月明かりの下とは違い最初のイメージの可愛い女の子がそこにいた。
それから10分ほどで梶と沢村が帰ってきた。何でもない会話をしたあとその二人も布団を敷いて横になった。
努も自分の布団を敷いて横になったけど眠いのに眠れなかった。今日は色々ありすぎた。村人、森の妖怪、島の姿、そしてちぃこ。
眠れずに何度も寝返りをうっていると安田も帰ってきて彼だけが島の近くで横になった。
コメント
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お疲れさまです、第20話読了しました。 月明かりに照らされたちぃこの「可愛い」から「美しい」への印象の切り替わり、すごく鮮やかで一瞬で情景が浮かびました。あの場面、努が思わず見入っちゃう気持ち、よくわかります。それまで明るく子犬みたいだった子が、夜の静けさの中でふと違う顔を見せる——このギャップがとても効いていて、ページをめくる手が止まりました。 それから、動きのない島の描写とか、静まり返った集落の寒々しさ。誰もいないのに誰かに見られているような不気味さがひんやり伝わってきて、夜に読んでちょっと背筋が冷えました。 暗く重い空気の中で、努とちぃこの腕を組んで戻るシーンが一服の清涼剤みたいで、ほっとすると同時に切なくもあって——このバランスが絶妙ですね。次が気になります!