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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「あれ? また同じ瓶だ……」


魔女の館の片付けを始めてから、一階のいろんな場所で空の瓶を見つけることが頻繁にあった。木箱に入っていたり、棚にまとめて置かれているものもあれば、床に転がっていたりと乱雑に放置されているのだ。

形は様々だけれど、細長い青色の瓶の発掘率がずば抜けて高く、保管状態が悪くて割れたり欠けたりしているものも少なからずある。


どれも中身は入っておらず、使い残しや飲み残しという類いの物は無い。どちらかと言うと、これから何かを入れる為の物なのだろう。


あまりにも気になり、魔女本人に聞いてみても「えー、そんなことしなくてもいいのに」とやる気を削ぐ返事をされてしまいそうなので、とりあえずは部屋の片隅に木箱を置き、種類別に仕分けていくことにする。

見ようによっては、瓶の回収日のゴミステーションみたいだ。


実際に一か所に集めてみると、空瓶の大半が青色で、赤や黄色の小瓶や透明の丸いケースが少し。


「あら、こんなに溜まっちゃってるのね。大変だわ」


奥の部屋で作業していたベルが顔を出し、積み上げられた瓶の山に気付いて、全く大変そうじゃない口調で笑いながら言う。

しばらく本数を数えたりしていたが、あまりの多さに途中でやめたようだ。


「これ、何を入れる瓶なんですか?」

「調合した薬を入れる物よ。青は回復薬で、赤は解毒剤、えっと黄色は何だったかしら……そうそう、解熱剤。あとの小さいのは傷薬だったり、火傷の薬だったり」


瓶にはラベルは無いので色と形で中身を区別するらしい。

森で採取した薬草などで薬を作って街に卸しているとは聞いていたから、葉月はすぐに納得する。薬作りとはいかにも魔女っぽい。


「回復薬が一番よく売れるから、瓶がいっぱいあるんですね」

「いいえ、回復薬は作るのが面倒なのよ。だから溜まっちゃうのよね」

「?」


聞けば、必要な薬があればその専用瓶が街から送られてきて、中身を入れて送り返すという合理的なシステムを取っているらしい。

だけど、ベルは調合に時間と手間がかかる回復薬づくりは後回しにして、簡単に作れる薬ばかりを優先してしまう。その結果、納品されてない青の瓶の山が出来たという訳だ。


街側からすれば、毎回のように青い瓶を送って催促しても、いつまで経っても回復薬が手に入らない困った状態が続いている。


簡単な事だけして仕事をやった気になり、手間のかかる事は後回し。その結果、ギリギリになって慌てるタイプなのだろう。葉月の世界で例えるなら、夏休みの宿題は最終日に徹夜するタイプだ。


――大丈夫なのかな、この人……。


「回復薬、作った方がよくないですか?」

「そうねぇ、そろそろ怒られちゃうかしら?」


普通に考えて、すでにめちゃくちゃ怒られてそうな気がするが、気付いてないのだろうか。


「今日あたりに来ると思うから、少しは作っておこうかしら。とっても面倒だけど……」

「今日、ですか?」

「ええ。葉月も欲しい物があれば言えばいいわ。次に来る時に持って来てくれるから」


少しも焦った素振りもなく、どちらかと言えばウンザリという顔をしながら、森の魔女は奥の作業部屋へと戻って行く。

薬を調合する為の素材はとっくに揃っていたようで、あとは彼女のやる気が足りなかっただけみたいだ。


ベルが作業部屋へ渋々ながらも籠ってから随分経った頃だろうか、バサバサと外から大きな翼音が聞こえてきた。

ソファーに積み上げられた書物のタワーの上で寛いでいた猫は、耳をピクピクと動かして窓の外を見る。釣られて葉月も視線を送ると、大きな何かの影が目に入ってくる。


「あら、もう来ちゃったのね」


張り巡らされた結界が揺らいだことで、来訪者の存在に気付いた魔女が、奥の部屋から顔を出す。

こちらに来てからベルと魔獣以外に会ったことがない葉月は、何が来たのかと少しドキドキ。ベルの後ろをついて一緒に外へと出てみる。

くーはというと、特に興味なさそうに欠伸を一つしてから、また眠り直すことにしたようだ。


バサッ、バサッ、バサッ。


館の前でゆっくり羽ばたいていたのは、大きな鳥。葉月の知っている鳥種だと見た目はワシが近いが、サイズが全く違う。三倍はあるだろうか。

二メートル近い体長に鋭利な爪を携えた脚には、ロープで吊るされた木箱を握っている。一辺が一メートルはある箱をそっと地面に下ろすと、鳥はその傍に自分も着地する。


「まあ、ブリッド。いつもご苦労様」


ブリッドと呼ばれたオオワシは、森の魔女の契約獣らしい。普段は森の中にある巣を拠点にして自由に過ごしているが、十日に一度の物資運搬やベルから呼ばれた時だけ姿を現す。


木箱に入れられていた荷物を葉月も一緒に、二人で手分けして取り出し、代わりに中身の入った薬瓶を詰め込んでいく。

木箱いっぱいに様々な色形の瓶を詰めていたが、青色の瓶はその一割弱というところ。それでも無いよりはマシだろうか。


「あら、大変だわ……」


届いた荷物を確かめながら、ベルが溜め息交じりに呟く。


「またいっぱい届いちゃったわ」


分厚めの麻袋に大切そうに入れられていたのは、大量の青色の瓶。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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