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尊さんがここまでこれたのはもちろんあの過去があったからでもあるけど、ほんと否定しないよね。どうしてかの説明は思わず頷ける✨ 田村に嫉妬してたんだね。ずっと!朱里ちゃんと一緒だ🤭
――彼氏がいるなら孤独じゃない。
――家にまっすぐ帰らなくて済む理由ができる。
――私はちゃんと〝リア充〟になれてる。
――私は〝可哀想〟じゃない。
そう思って安心した私は、昭人が自分にとって〝何〟であったかじっくり考えなかった。――考えたくもなかった。
「……凄く最低な事を言うんですけど、当時は本当に好きかどうかなんて、どうでも良かったんだと思います。……私はただ、実家以外に安心できる〝居場所〟がほしかっただけだった……」
呟くように言った言葉を聞き、尊さんは小さく頷く。
「自分を責めなくていい。本当に心の底から好きじゃないと、付き合ったらいけない法律はない。外見目当てだったり、金目当てだったり、体の相性、寂しかったからとか、付き合う理由は色々だ。当時の朱里は本気で恋愛する余裕なんてなかっただろうし、田村に依存するのは必要な事だった。……それでいいんだよ」
ポン、と頭を撫でられ、私は頷いた。
「……尊さんって、否定しませんよね。違う時は『違う』って言ってくれますけど、相手を傷つける否定をしない。……の、ありがたいです。昭人には嘲笑混じりに〝教え〟られていたので」
彼は小さく溜め息をつき、私の指を撫でながら言う。
「基本的にさ、過去の事ってどうしようもないから、傷口をえぐって塩塗っても人は成長しねぇんだよ。たとえ悪い事をしても『そうだったのか』って受け入れて、『じゃあこれからは気をつけた上で、どうやっていくか』って提案したほうがお互いのためだ」
そこまで言って、尊さんは脚を組む。
「他の部署に仕事で部下がミスした時にネチネチ叱責する奴がいるけど、なんも解決しねぇ。あれはただ、正しさを押しつけて〝教えて〟やって気持ちよくなってるだけだ。誰かを叱責するのと〝教える〟って行為はすげぇ気持ちいいからな……。そういう事をやってる奴って、公開オナニーしてるのと一緒」
「ぶふっ……」
まじめな話をしているのに、私は尊さんのたとえを聞いて噴きだしてしまう。
「部下の人格否定して、皆の前で恥を掻かせて、生産性が上がるわけねぇだろ。嫌な上司が一人いるだけで、職場の雰囲気はだだ下がりだし『仕事したくねぇ、職場行きたくねぇ』ってモチベの低下に繋がる。最悪、人が辞めてく」
「確かに」
「『気をつけてな』って一旦釘を刺して、あとはどうリカバリーしてくかを教えたほうが皆のためになるし、それをあとで共有すれば役立てられる。そもそも、褒めたほうが人は伸びて生産性も上がるって、論文でも発表されてるしな」
「……そうですね。……あなたが上司で良かったと、何回も思ってましたよ」
ちょっと前まで私は〝部長〟が嫌いだったけど、仕事の面では優秀な人だと思っていた。
そりゃあ部下がミスをしたら、上司が責任を被る事になるから、怒りたくなる気持ちは分かる。
でもその上司自身がアンガーマネジメントをして、感情的にならずどう部下を導いていくかがキモだと、以前尊さんが言っていた。
『そのために会社から認められて責任ある立場についてるんだから、自分を律して的確な指示を出せるメンタルをキープするのは、必須スキルだと思う』
それができる尊さんが部長だからこそ、部署内の空気はいいし作業効率もいい。
彼が庭師として常に〝全体〟を見て、微調整し続けてきたお陰だ。
「ありがと」
私の褒め言葉を聞き、尊さんは嬉しそうに微笑むと額にキスをしてきた。
「だから俺は朱里を否定しないし、たとえ間違えた事をしたとしても、なぜ駄目だったのか説明して、代わりにどうすればいいか提案したい。……勿論、子供にもそう接していきたいと思ってる」
彼の言葉を聞いて、私の気持ちがホッと暖かくなる。
「……しゅき……」
尊さんに抱きついて呟くと、彼はポンポンと私の頭を撫で、また額にキスをしてくれた。
私はしばらくその体勢のまま、尊さんの匂いを嗅ぎ、もう安心していいのだと自分に言い聞かせていた。
「……すっごい、ぶちまけちゃった」
やがてボソッと言うと、尊さんは小さく笑った。
「最後にあれぐらい言ってもいいだろ。俺だって田村の所業を聞いてドン引きしたよ」
「……ご飯はあったかいうちに食べたい」
「マジそれ。麺のびたら店主に怒られるわ」
彼のいつもの返しを聞き、私はクスクス笑う。
「尊さんとエッチするようになって、昭人としてた時なんて比べものにならないぐらい、感度が良くなったって言ってやれば良かった」
「ははっ、それは再起不能になるわ、あいつ」
尊さんは気の毒がりながらも、まんざらでもなさそうに笑う。
「……田村〝クン〟ってつけなくなりましたね」
「あー、それな。今までも本当はつけたくなかったけど、朱里が未練を持つぐらい好きな人だったから、一応つけてた。色んな感情のこもった〝クン〟だけど」
「それは、何となく感じてました」
小さく笑うと、尊さんは「バレてたか」と苦笑いする。