テラーノベル
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入学式の翌週。まだ机の上には教科書よりも連絡プリントのほうが多くて、クラスの空気も少し固い。
私は1番後ろの窓際、斜め前の通路側に律がいる。
先生の話が長くなると、律は時々こっちを振り返って、口の形だけで「眠い」って言ってくる。
私は笑いをこらえながら、小さく首を振る。
それだけで昔からの空気が戻ってくる。
たまにある男女合同体育ではペアを組むのが自然な流れになっていた。
ソフトボールの授業で、私が空振りばかりしていると、律は後ろから私の手を取ってフォームを直す。
「こう、腰を回して」
ちょっと強引な声に、私の心臓が変なリズムで打つ。
「……はいはい」ってごまかすけど、顔が熱くなるのは隠せない。
放課後は部活見学の時期で、とにかく運動神経がいい律は迷わずサッカー部へ。
グラウンドでボールを追いかける背中は、見慣れているはずなのにやけに遠く見えた。
私が帰ろうとすると、律が駆け寄ってくる。
「お前、帰り待ってろよ」
「はいはい」
当たり前みたいに並んで帰る。
道端の花壇で四つ葉のクローバーを見つけてはしゃいだ幼い頃と、何も変わらないはずだった。
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