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ねええええ!!ニノさん大好き!!(昨日に続き2回目の告白)あそこのタイミングでの登場はカッコ良すぎましたね笑 そしてまさかあの二人が付き合ってたとは、、あとがきもじっくり見させていただいたのですが、ネックレスのシーン、伏線があったんですね!!??メンカラ被り最高です🫠🫠今度私、最近公開された「8番出口」見にいってくるのでニノさんにより浸ってきます笑(どうでもいい) ついに結ばれましたね、、😭😭おめでとうと心から祝福します。そして、協力してくれた⛄️の🖤💚も、感謝しきれない、、今度テレビで見た時に直接感謝しとこう😂(テレビ越し)二人にも彼らのやり方でもっと幸せになって欲しいです🫶 あとチョットセンシティブニキタイシチャッタリ。。。 すごい話変わりますが、涼ちゃん明日からめざましテレビ出ますね!!りょうちゃん推しとしてはすごい嬉しかったです笑 きっと七瀬さんもそうなのでは!?と思って話したかったんですよ!あと、コメント動画?のビジュがかっこいい&可愛いすぎて死にました。誰かお墓、、 伝えたいこと書いたらすごく長くなってしまった笑 すみません!!
はーしんど&めいちゃんの嘘じゃないもんに大爆笑しました🤣❣️ 本編ももちろんなんですが、私七瀬さんのあとがきも好きです🤭 垣間見える本音が面白くて!笑 そして鈍感な私はえ、かずさんて誰?!ってなってました😇 💛ちゃんがすぐに💜くんに同情しちゃうとこやメンカラのお洋服着ちゃうとこ、可愛いポイント多くて癒されました🫶
ニノ先生強、てかマジ、最高だった
クリスマスイブ当日、僕は、菊池さんにもらったネックレスは、着けなかった。というか、もらった時のまま、箱を開けてすらいない。
今日、全てが解決するならば、これを菊池さんにちゃんと返すんだ。そう、決めていた。
左耳に、元貴のピアスを着け、青色の髪の毛にふわふわの白いニット帽を被り、赤いセーターに白色のズボン、白いコートを羽織る。そして、カバンにネックレスをショッパーごと丁寧にしまって、待ち合わせへと向かう。
街はすっかりクリスマスモードで、聴こえる音楽も、街に並ぶ街路樹も、心なしかすれ違う人たちみんなも、全てがキラキラしているように感じる。
僕の足取りはというと、楽しげな雰囲気とは対照的に、重く暗いものだった。
待ち合わせ場所に近づくと、全身を黒っぽいモノトーンコーデで決めた菊池さんが、高く手を振る。
「えめっちゃ可愛い〜。赤いセーターがいいアクセントだね。」
菊池さんが、僕の色を褒めた。
セーターの赤は、元貴の色。
髪の毛の青は、ひろぱの色。
ひろぱには伝えられていないけど、お誕生日のケーキをもし作るなら、海のように青いケーキを作ろうと思っていた。
元貴の内なる情熱が赤なら、ひろぱの静かな優しさは、青だ。そう、僕は感じていたから。
その二人の色と一緒に、僕は今日、ここに来た。
「じゃあ、恋人たちのクリスマスイブのディナーへと行きますか。」
菊池さんが僕の手を取る。優しい力で握ってくれるが、僕は力無く握りもしない。
前回同様、これまたお高そうな高級フレンチでディナーをご馳走してくれる。お金持ちのボンボン、というのは、やはり本当のようだ。僕なんかじゃ、とてもじゃないけど手が出ないお値段のようだった。
こんなに、表情もなく、楽しい会話を繰り広げるでもなく、ただ淡々とそこに居て、それで義務は果たせているとでもいうような僕に対し、菊池さんは、一人笑顔で話し続ける。
こんなことに、何の意味があるんだろう。菊池さんは、何がしたいんだろう。僕は、食事を終えて、両手からカトラリーをテーブルに置く。
「あの…菊池さん。」
「わ、涼架ちゃんが喋った。」
少し驚いた後、嬉しそうに笑う。
「風磨でいいよ、何?」
「…風磨くんは、何が目的なの?」
笑顔を崩さず、でも確かに言葉に詰まって、風磨くんが僕を見つめる。
「…目的って?」
「僕のこと、好きじゃないですよね。」
「好きだよ?」
「僕はそう感じません。」
「うっそーん…。こんなお高くて美味しいご飯ご馳走してさ、ネックレスのプレゼントまで…あれ、ていうかネックレスは?」
「ほら、ネックレスのこと、忘れてたでしょ?」
「…忘れてないよぉ、涼架ちゃんこそ、忘れてきたの?着けてるとこ見たかったなー。」
「…ごめんなさい、これは、やっぱり受け取れません。」
カバンからネックレスを取り出し、風磨くんに差し出す。
「なんだ、開けてもないじゃん。なかなかつれないねぇ、涼架ちゃん。」
「…答えてください、なんでこんな事してるんですか。」
「…涼架ちゃんが可愛いから。」
風磨くんが、静かにネックレスの袋を掴んで、椅子の下の荷物入れに仕舞う。
「ま、とりあえず今日のところは受け取るけど、また欲しくなったらいつでも言ってね。」
風磨くんがニコッと笑って、ワインを飲む。僕の質問には、一切答える気がなさそうだ。
もう一度話を戻そうとしたが、タイミング悪くデザートが運ばれてきてしまい、風磨くんはそっちに気がいって、僕の話はもう耳に入っていないようだった。
「はー美味かったね〜。」
「…ごちそうさまでした。」
「いえいえ〜、偉いね涼架ちゃん、ちゃんとお礼言えるの。」
お店の外で、頭を撫でられる。僕は首をすくめて、少し驚いた。
「じゃ、俺の部屋でも行きますか。」
また僕の手を取って、歩き出す。僕は足元を見つめたまま、黙って着いて行く。
だんだんと、表通りから外れて、夜の繁華街へとやってきた。背の高いビルには、所狭しと様々な店が看板を掲げて自己主張している。
こんな雑多なところに住んでいるのか、と少し周りを見回していると、風磨くんが歩みを止めた。
「はい、着いたよ。」
目の前のビルを見ると、明らかに華美なホテル。大きな表看板には『ビジネスにも』と書かれてあるが、じゃあビジネス以外はなんなのかといつも思う。
「…ふざけてます?」
「え?ここだよ、俺んち。」
「さすがにこれは、無理です。」
「いやいや違う違う!マジで!ここ見て!」
風磨くんが、焦ったように建物の隅につけられた金属製のパネルを指差した。
そこには、『KIKUCHI Co.』と刻印されている。
「き、く、ち…。え?」
「ここ、俺の親父の会社がやってるホテル。ここ大学から近いから、住めって言われてさ。」
「…話の規模が…。」
「ね、引くっしょ。フツー息子をこんなところに住まわすかね。でもま、言うこと聞いてる内は、カード好きに使えるし、別にいっかーって。」
「はぁー…すごい世界…。」
「だからさ、ここに俺が出入りしてるし、たまに友達遊びに来るんだけど、それを勘違いして『男も女もホテルに連れ込む、キチクの菊池』なんて呼ばれちゃってます。」
「え…、じゃあ、元貴が言ってた話って…。」
「噂におひれはひれ、ついでに翼まで着いちゃって。バサバサ〜。」
菊池さんが、両手を肩の横でパタパタと羽ばたかせて、おどけて見せる。僕は、少し自分を恥ずかしく思った。元貴からの話と、見せかけの軽い態度だけで、この人を極悪人のように考えてしまっていたのだ。今まで得体の知れない怖い人だと思っていた彼が、急に二つ下の、歳相応の青年に見えて、ついクスッと笑ってしまう。
「…え、涼架ちゃん、笑った?」
「…ごめんね、風磨くん。僕も噂信じちゃってて。結構怯えてた。」
「もぉー、俺どんなイメージよー。」
「だって、最初酷いことしてきたし…。」
「あれは、勢いっていうか…俺も、『男』見せなきゃって結構必死で…まぁ、ごめんね。」
風磨くんが、バツの悪そうな顔をして、謝ってくれた。僕は、もう少し意地悪をしてみる。
「それに、見た目も態度もチャラいし。」
「チャラいんじゃないの、お茶目なの!」
「あはは。」
僕がすっかり声に出して笑うと、風磨くんも安心したように笑った。
「ね、中にカラオケもゲームもあるし、おつまみお酒も食べ放題。最高の家でしょ。」
「すごいね、どんな部屋なの?」
「来て、一番上だよ。」
中に入ると、すぐにフロントが現れた。小さな四角い穴が空いて、対面しないタイプのフロントの横に、様々な部屋の写真パネルが掲示してある。
僕がどの部屋だろう、と眼で探していると、風磨くんがフロントに近づいて言った。
「あ、そこには無いよ、今俺の部屋だから、外してもらってる。」
「そっか、お客さんが泊まりに来ちゃったら大変だもんね。」
「そーそー。ねぇ、帰ってきたんだけどー。 上あがるよ〜。」
フロントの呼び鈴を鳴らしながら、風磨くんが奥に声をかける。
「あ、風磨さん、お帰りなさい。」
「ん、ただいまー。友達来てるから、後でゲームとか頼むかも。」
「はーい。」
慣れたように、会話をしている。本当にここに住んでるんだ、と改めて驚くと共に、つい『友達』と言ってしまって、僕のことを恋人だなんて思っていない事が透けて見えた気がして、また僕はクスッと笑った。
ホテルのフロントスタッフさんに帰宅の挨拶を済ませた後、エレベーターで最上階へ向かう。廊下を歩いて、一番奥の角部屋に着いた。
「ここ?」
「うん。はいどーぞー。」
カバンから鍵を取り出し、ドアを開けると、内装は確かにホテルらしいものなのに、棚の上に積まれた洗濯物やハンガーラックなど、様々な生活感のあるものが置かれていて、確かに風磨くんの部屋なのだ、と僕は思った。
「お邪魔します。」
「はいはい。荷物、ソファーにでも置いといて。」
「うん、ありがとう。」
言われた通り、ソファーに荷物を置かせてもらい、上着を、これはホテルのものであろう木製の上着掛けに吊らせてもらった。
「何飲む?ビール?」
「うーん、さっきワインもらったから、今はお水でいいや。」
「そ?俺ビールもらっていい?」
「もちろん。あ、ホントにカラオケある!部屋にカラオケあるって、面白いね。」
「でしょ、友達来るとめっちゃ盛り上がるよ。」
「いいなー。カラオケ、最近全然行ってないなぁ。ね、つけてみてもいい?」
「いーよー。おつまみ適当に注文しちゃうねー。」
「うん。」
僕は、ワクワクしながらテレビのボタンを押す。
「…え?」
その時、大画面に裸の男女が絡み合う映像と共に、爆音で女性の喘ぎ声が部屋中に響いた。
「わ!わ!えっ、ちょ、これどうやって、風磨くん!」
慌てて風磨くんに駆け寄り、リモコンを手渡す。慣れた手つきで特定のボタンを押し、カラオケ画面に変えてくれた。
「ありがとう、あービックリした。」
心臓を押さえて顔が赤くなるのを感じながら、僕は風磨くんを見た。
僕をじっと見つめたかと思うと、ベッドにリモコンを投げた。
「…誘い方、コントじゃん。」
「え?」
ゼミ室でしたのと同様に、僕の両手首を掴んだ途端、ものすごく広くてフカフカのベッドに勢いよく倒れ込む。
ギシ、と音が鳴って、風磨くんが僕の上に跨った。
「…せっかく良い人になれてたのに…涼架ちゃんのせいだよ?」
「ふ、風磨く」
勢いよく顔が近づいて、唇を塞がれる。舌が中に入ってきて、僕の舌を執拗に捕らえてきた。
「ふ、あ、や、やだ!風磨くん待って!!」
「…うるさいな。」
両手を風磨くんの片手で軽々と頭の上に纏められてしまい、もう一方の手で頭を固定される。
「あーあ、我慢できてたのに、あざといんだから。」
「違う!違う!!」
僕は、涙を流して否定するけど、風磨くんは聞き入れてくれない。
「いいよ、やってあげる。」
「や…。」
「…俺が『男』だってこと、分からせてやる。」
風磨くんが、顔を歪めてそう呟いた。なんだか苦しそうな顔に見えて、僕は一瞬戸惑った。
風磨くんの顔が僕の首筋に沈み、手が服の中へ入ってきた。さわさわと腰やお腹、胸の辺りへと順に昇ってきて、僕は身を捩って抵抗する。
「やめてよ!いやだぁ!」
「すぐ良くなるって、大丈夫。」
もうダメだ、次にキスしてきたら噛みついてやろうか。涙でぼやける視界の中で風磨くんを睨みつけた、その時。
ガリッ
ドアの方から、鍵を差し込む音が聞こえた。
瞬間。
耳をつんざくほどのけたたましい音が鳴って、ドアが開いた。開いた、というより、蹴られた。その勢いでドアが壁にぶつかり、ものすごい音を立てたようだ。
二人で身体をビクッと震わせ、思わず顔をそちらに向けて入り口を二人で見ると、片脚をまさに蹴ったその形のまま上げている人物が立っていた。
僕の、見知らぬ人。不思議に思って、自分の上にいる風磨くんを見ると、その顔が驚きと恐怖に歪んでいた。
「…カズ…。」
風磨くんがそう呟くと、その人は脚を下ろして、こちらに近づいてくる。
白シャツに柄物のセーターベスト、スラックスを履いて、黒いロングコートを腕に掛け、両手をポケットに仕舞って歩く。
その首には、黄色いマフラー。
顔は、幼く見えるが、眼鏡をかけたその利発そうな見た目は、おそらく僕よりかなり歳上に見えた。
「…何やってんだ、オマエ。」
一見優しそうに見える顔で、口からは思ったよりも粗暴な言葉を吐いた。
「どけ。」
コートを床に投げ、片手で風磨くんを押すと、風磨くんは力無く僕の横に尻餅をついた。
その人は、そっと僕の手を取ると、優しく身体を起こしてくれる。
「ごめんなさいね、怪我はないですか?」
「…は、はい…。」
「どうぞ、お待ちです。」
僕の手を取ったものとは反対の手で、入り口を示す。僕がそちらに顔を向けると、見慣れた面々が立っていた。
「…元貴、ひろぱ…。」
「…涼ちゃん。」「涼ちゃん。」
二人が、同時に僕の名前を呼ぶ。僕は、よろけながら、入り口へ急ぐ。二人も駆け寄って、僕を両側から抱きしめてくれた。
「元貴、ひろぱ…!ごめんなさい…!」
「…うん。」
「…もう大丈夫だよ。」
二人の袖で涙を拭かれ、僕はちょっと痛くて顔を歪めた。
「…どういうこと?あの人は、誰?」
僕が不安そうに部屋の中を振り向くと、その人がこちらを見てニコリと笑った。
「どうも、ご挨拶が遅れました。私は、心理学ゼミで助手をしております、二宮和也と申します。」
両手を前で合わせ、先生のようにきちんとした言葉遣いで話す。
「ニノ先生だよ、涼ちゃん。」
元貴が、僕に笑いかける。ああ、この人が…。僕はぺこりと頭を下げた後、首を傾げた。
「え?でもなんで先生が…。」
「後で説明するから。」
元貴がそう言うと、ニノ先生はニコッと微笑んだ後、表情を消して風磨くんに向き直る。
「…さて、どうしようかね。」
「…カズ…あの…。」
パシン、と乾いた音が響いて、ニノ先生が風磨くんの頬を叩いた。
「言い訳は聞かないよ。人様を傷つけるのはダメだ。」
「…ごめん。」
ニノ先生は、溜め息をついて、黄色いマフラーを外して風磨くんの首に優しくかけた。
と思ったら、グイッと力強く引き寄せる。
「…オマエ、何が不満なわけ?」
また、優しそうな顔から、物騒な声。
「…不満…だよ…!」
「…何が?」
「…だって、どう考えてもおかしいじゃん!なんで俺がネコなんだよ!!」
猫?なんで急に猫?僕が両傍にいる元貴やひろぱの顔を交互に見るが、二人とも明らかにニヤニヤしてあの二人のやり取りを眺めている。
「…はあ?」
「だって、カズの方がちょっと小っちゃいし、可愛いし、絶対俺がタチだと思ってたのに!」
「オマエね…あんだけ鳴いてたクセにまだ言うわけ?」
「う、うるさい!鳴いてないわ!だから、俺は男だってところを、カズにちゃんと見せようと思って…!」
ニノ先生が、カチャリと眼鏡を外して、ベッド横のテーブルに置いた。
「…じゃあ、ちゃんと納得するまで、教えてあげないとなぁ。」
「え…や、やだ…!」
風磨くんの顔がみるみる赤くなって、小さく首を振っている。
「風磨。」
ニノ先生が名前を呼ぶと、風磨くんの眼が、揺れた。そのまま、深いキスを落とす。マフラーを握りしめて、風磨くんを逃さない。
「ん゛…!」
風磨くんが腕でニノ先生の胸を押して抵抗するが、力無く行われるそれは、なんの意味もなさそうだった。そのまま、ニノ先生の下へと、風磨くんが組み敷かれる。
「…良い子はもう帰りなさい。」
チラと僕たちに視線を遣って、ニノ先生が呟く。僕らはビクッと動いて、慌てて荷物を纏める。
「や、ま、待て!助けろ!大森元貴!!」
風磨くんが、元貴に向かって手を伸ばして叫んだ。元貴は、しばらく睨んだ後、口の片端を上げた。
「良い声で鳴けよ、ニャンコちゃん。」
行こ、と元貴が僕の背中に手を当て外へ出ると、ドアを閉めた。
「下に、亮平くんが車で待ってくれてるから、早く行こう。」
「え?う、うん…。」
ひろぱにそう言われ、僕は二人に手を繋がれて、エレベーターへと乗り込んだ。
車の中では、蓮くんも待ってくれていて、僕ら三人は後部座席へと乗せてもらった。
「おかえり、上手くいったんだね。」
「うん、サイコーだったよ。キチクが泣きそうになっちゃってさあ。」
「え、それはちょっと見たかったかも…。」
「蓮くんも来てたら爆笑してたかもよ。」
僕以外の四人が、ワイワイと話している。
「あ、あのー…。」
僕が口を開くと、全員でこちらを見た。
「…あの、この度は、皆さんに大変なご迷惑をおかけして、本当にごめんなさい。」
深く頭を下げると、元貴とひろぱが僕の手をギュッと握ってくれた。
「…俺の為だったんでしょ?」
元貴が、眉を下げて困ったように笑う。僕は、その言葉に、その顔に、堪えていたものがグッと込み上げてきて、涙が零れてしまった。
「…ホント、バカだなぁ、涼ちゃんは。」
元貴が、嬉しそうに言って、頭を撫でてくれる。
「そもそも付き合うのがおかしいけどね。でもまあ、亮平くんに素直に話したところは、涼ちゃんにしては偉いよね。」
ひろぱが、割とさらっと嫌味を付けて笑った。
「…あの、これは何がどうなってるのか、僕にも教えて…もらえますか…?」
自分のせいでみんなにお世話になってる自覚はありまくるので、おずおずと訊いてみる。
「えーと、平たく言うと、キチクはニノ先生と高校生の時から付き合ってて、んでキチクが二十歳になった時に、まあ…ちょっとすれ違いがあって別れた。そっからキチクが破天荒な事するようになって、今回でブチ切れたニノ先生にお仕置きされてる、って感じ。」
「そうだったんだ…。え、でも、じゃあ結局風磨くんの目的はなんだったの?」
「ふーまくん…?」
ひろぱがぴくりと眉を動かす。僕は慌てて両手で口を押さえて、小さく首を振る。
「はぁ、何を絆されてんだか全く…。まぁいいや。キチクさんは、元貴がニノ先生と仲良くしてるのが気に食わなかったんだろうって。だから、元貴にちょっかいかけたし、元貴の大事な涼ちゃんを奪おうとしたらしい。ニノ先生によると。」
「ニノ先生が、そんなに協力してくれてたんだ。」
「亮平くんがね、相談してみたらって。」
元貴が、亮平くんに笑いかける。
「最初に涼架くんの話聞いてさ、とりあえず、蓮を通じてひろぱくんからもっくんに連絡してもらって、って、大変だったんだから、そこが一番。」
「そう、最初俺ら滉斗くんと元貴くんとは連絡先まだ交換してなかったから。でも、滉斗くんがみんなを繋いでくれて、そっからはグループLINEで四人で話し合って、すぐニノ先生の話になって。」
「僕がね、もっくんに、そのニノ先生に相談してみたらって。ちょうど部屋に置いてもらってるわけだし。一応は同じゼミ生の揉め事なんだから、仲良いなら話して損はないだろうって。そしたら、ね。」
「そう、朝、大学行きながらニノ先生から、実は、ってさっきの話をしてくれて。それ聞いて俺は、ああキチクはニノ先生が目的だったんだって分かって。そんで、俺がそれを亮平くんに伝えたら、すぐにキチクに、ニノ先生と住んでるって伝えてごらんって。だから、大学でキチクにすぐ会いに行って、今涼ちゃんと喧嘩して、ニノ先生のところに泊めてもらってるってわざと話したんだ。そしたらアイツ、目の前で涼ちゃんのことデートに誘ってさ。多分俺に嫉妬させて、ニノ先生から引き離そうとしたんだと思う。そこからは、今日、ここへキチクを来させる為に、涼ちゃんにデートに乗ってもらう作戦を立てたの。」
「す、凄いなみんな…そこまでしてくれて、ホントにありがとう…。…あれ、でも、なんでここに来させたの?」
「マスターキーで乗り込むため。外じゃ周りの迷惑になるし、あの部屋が一番勝手がいいからって。ニノ先生、昔はキチクの親の会社で働いてて、キチクの家庭教師だったらしいよ。だから、あのホテルにも顔効くし、先生の一声でマスターキーまで借りられたって訳。」
「え…ニノ先生すご…。」
僕は、ホテルを見上げて、今頃ニノ先生からお説教を受けているだろう風磨くんに、少し同情した。
「あ、そういえば、風磨くんが猫ちゃんがどうのって言ってたのは」
「亮平くん、車出そっか。」
「はーい。」
元貴が僕の言葉を遮って、亮平くんがそれに応えて車を発進させた。
ひろぱが蓮くんに何か耳打ちして、蓮くんとクスクス笑う。
「…なに?」
「なんとなく分かるけど、多分ペットの話じゃないかな。」
僕が怪訝な顔でみんなに訊くと、亮平くんがそう答えて、みんなもうんうんと頷いた。
「そうか…猫ちゃんとか、イタチがどうとか言ってたもんね。」
ブハッ、と元貴が吹き出して腕で顔を隠し、やめてよ涼ちゃん、と震える声で肩を叩いてきた。みんなも、それぞれ顔を背けて肩を振るわせている。なんだろう、少しバカにされてる気がするんだけど。
亮平くんが、僕らの家の前まで送ってくれて、トランクからそれぞれの旅行カバンを取り出して、並んでお礼を言った。
「蓮くん、泊めてくれてありがとね、また遊ぼうね。」
「うん、また連絡して。」
「亮平くん、いろいろありがと。アドバイスくれて助かった。」
「うん、もっくんもお疲れ、一番動いてたから大変だったでしょ。」
「ううん、元々は俺の問題だったから。」
なんだか、今回の件でみんながすごく仲良くなっていて、僕は嬉しい気持ちで顔がニヤけてしまう。いやしかし、ここはもう一度、亮平くんと蓮くんにキチンとお礼を言うところだ。
「亮平くん、蓮くん、本当にありがとう。今度なにかお礼させてね、」
「うん。あ、涼架くん。」
「うん?」
「宿題、ちゃんと二人に提出するんだよ。」
「え?」
僕は、元貴とひろぱの顔を見て、亮平くんに向き直る。
「…うん。」
「うん。じゃあね、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
みんなそれぞれに手を振って、亮平くんの車を見送った。僕が、二人の手を握ると、二人とも少し驚いた後、微笑んで優しく握ってくれる。そのまま、部屋の中へと入って行った。
ソファーに、僕が座らされて、僕の前に二人が床に胡座をかいて座る。
「…まずは、本当に、ごめんなさい。」
「…なにがショックだったか、分かってる?」
元貴が、僕に尋ねる。
「え…風磨くんと付き合った…から…?」
「はあー…、やっぱな…。若井、言ってやって。」
「あのね涼ちゃん。俺ら別に涼ちゃんが本気でキチクさんと付き合うなんて思わないから。わかるから、そんくらい。」
「え?」
「なんか事情があんだろな、って。だから、そこじゃないよ。」
「え…じゃあ…。」
「考えて?」
元貴が、じっと見つめる。二人が、僕に怒った理由…。
「え…と、二人に、本当のことを、言わなかったから…かな。」
「うーん、半分正解。」
「えー、難しい。」
「考えろ、こんだけ迷惑かけたんだから。」
「は…はい…。」
元貴が、厳しい顔で僕を見ている。僕は目を泳がせながら、一生懸命に考える。
「…涼ちゃんが、亮平くんにして、俺らにしなかったことは? 」
「若井。」
「だって、涼ちゃん泣きそうじゃん、可哀想なんだもん。」
二人が少し小競り合う。僕が、亮平くんにした事…?
「…相談?」
「そう!あたり!だよね?」
「お前な…。まあいいけど。そうだよ、なんで俺らに相談しないのって、それがいっちゃん頭に来たんだよ。わかる?」
「うん…。ごめんなさい…。」
「もうさ、これからもし同じ事したら、マジで許さないからね。」
「困ったときは、まず俺らに言って。わかった?」
「はい。」
僕が、両手を膝に置いて、しっかり頷いて真面目な顔で頷くと、二人ともふっと笑って空気が和らいだ。
「…それで、宿題の答えは?」
ひろぱが僕に問いかける。緊張して、膝の手をギュッと握り込んだ。
「えっと、うーん…なんて言えばいいのかな…。」
僕が言い悩んでいると、元貴がスマホを取り出して何か操作している。
「…これなんじゃないの?答えって。」
元貴が僕に画面を見せてきた。そこには、亮平くんのお店で座っている僕が映っている。
『…二人に、会いたい?』
『…寂しいんだ、すごく。前までは、こんな事なかったのに…。二年、離れて暮らしてたのに。今なんて、たった二週間ほどしか離れてないのに…。でも、でも今は、…二人がいないのが、すごく苦しい…。』
『…そっか。』
『…でも、僕が自分でやった事だから、ちゃんと、解決しないと。亮平くんのこと頼ってばっかだけど、でも、これが解決したら、僕、今度は僕が二人を迎えに行きたい。』
『うん、それがいいね。』
動画が再生されて、僕が涙を流しながら話していた。顔が真っ赤になって、慌てて二人を見る。
「え、これ、なん…!」
「亮平くんが動画撮って送ってくれたの。ちなみに俺も持ってまーす。」
ひろぱも、スマホを見せてくる。同じ動画が映し出されていた。
「あ…あの時、動画撮ってたんだ…!」
「どうなの?涼ちゃん。」
元貴が、僕の手を握る。ひろぱも、反対の手を握って、僕を見つめた。
「涼ちゃん、俺らと蓮くん、どう違う?」
僕は、二人の眼を交互に見て、深く息を吸う。
「…蓮くんは、2週間会えないくらいじゃ、なんともない。だけど、二人と、…二人が、出て行って、…れ、連絡も無くて…、ずっと、頭で、二人のこと、考えて、どうしてるかな、って、考えて、…さ、寂しくて…ずっと、苦しくて…嫌だって、このまま離れるのは、すごく嫌だって、思った…。」
話している途中から、涙が止まらなくなって、嗚咽を漏らしながら、なんとか話し続ける。
「ふ…二人に、もう、嫌われ…たって、思ったら、すごく…すごく、嫌だった…!帰ってきてくれなかったら、どうしようって…怖かった…!」
二人の眉が下がり、なんだか二人も泣きそうな顔になってる。それを見て、僕は余計に泣けてきた。
「…ねえ、ちゃんと、涼ちゃんの気持ち、言って?」
元貴が、小さく声を漏らす。
「俺たち、涼ちゃんから言ってもらえるの、ずーーーーーっと、待ってたんだけど。」
ひろぱも、涙目で僕に笑いかける。
僕は、少し視線を落として、自分が言うべき言葉を、一度心で確かめた。
大丈夫、僕の気持ちは、もしかしたら間違っているかもしれないけど、決して間違いじゃない。
顔を上げて、二人を見つめて、はっきりと、心を声に乗せる。
「僕、元貴と、ひろぱが、大好き。幼馴染としてだけじゃなくて、恋として、大好き。」
ひろぱが、腕で眼元を拭って、鼻を啜る。元貴も、泣きそうなのに、笑っていた。
「俺も、涼ちゃんが、大好き。恋として、ずーっと前から、大好き。」
元貴が、僕の手を両手で包む。
「俺も、大好きだよ。もちろん、恋として。ちっちゃい時から。ずっと大好き。」
ひろぱも、両手で僕の手を包んでくれる。
「ね、これからも、ずっと三人で、暮らそう?俺たち、どっちかが涼ちゃんを諦めるとか、不可能なんだよね。」
「俺ら、覚悟決めてここに来たんだ。二人で、涼ちゃんのこと愛そうって。」
「だから、涼ちゃんも、俺たち二人を愛して?あの時、二人の間でブランコ押してくれたみたいにさ。」
幼い頃を思い出し、心が暖かくなる。しかし同時に、僕は、少し困った。そんなこと、許されるのだろうか。間違ってると、言われることなんじゃないだろうか、と。
「でも…僕を半分こってことだよね、それで、ホントにいいの?」
「半分こじゃないよ。倍だよ。」
元貴が、笑って言った。
「倍?」
「うん、俺らは涼ちゃんに100%の愛情を注ぐから、涼ちゃんは俺たちそれぞれに、100%で愛すんだよ。」
「だから、涼ちゃんは200%の愛を持って頑張らなきゃいけないからね。50-50なんて認めないよ。」
なんか、よく分からなくなってきた。だけど、二人が昔と変わらない、イタズラっぽい楽しそうな顔で僕を見つめるから、僕はなんだか嬉しくなっちゃったんだ。
僕らにとって、間違いじゃなければ、きっと、それでいい。
「…うん、僕も、頑張る。二人とも、大好きだから。大切に、したいから。」
「うん。涼ちゃん、キスしていい?」
突然の元貴の言葉に、唖然とする。
「…え?ここで?」
「うん、逆にどこで?」
「え、だって、ひろぱも…いるし…。」
「え、俺もするけど。」
「え…?ここで?」
「だから、どこでならいいの。」
二人が笑うから、僕がおかしいのかな?と思ってしまう。元貴が、下から僕を見つめる。
「…ダメなの?」
瞳に潤いを湛えた、上目遣い。カッコいい元貴もドキドキするけど、この可愛い元貴は、胸が、きゅう、となる。
「ダメじゃ、ない、です…。」
僕が小さく答えると、だよね、と言って、元貴がキスをした。優しく、唇に触れるだけの、キス。僕も眼を閉じて、それを受け入れる。しばらくして、そっと顔が離れた。
「じゃ、次、俺ね。」
「…う、うん…。 」
やっぱり、これって、大丈夫なの…?と不安になったが、ひろぱはお構いなしに、僕の頬に片手を添えて、唇を重ねてきた。僕はまた、眼を閉じて受け入れているが、これ、元貴が見てるんだよなぁ…さっきも、ひろぱが見てたんだよなぁ…と思うと、少しソワソワしてしまった。ひろぱの顔が、そっと離れる。
「…なんか、これ、ホントに大丈夫…?」
「大丈夫大丈夫。俺たち、もうキスしてるから。」
「え?あ、ああ、『練習』でね…。」
「違う違う、涼ちゃんの誕生日に。」
「…ん?」
僕は、自分の誕生日を思い返す。確か、ソファーで眠ってて、夢の中で元貴とひろぱに順番にキスされて…。
「…え!!あれ、夢じゃなかったの?!」
「いやぁ、寝てる涼ちゃん見てたら、我慢できなくなって。」
「まあ、ちょっとならいっかって。」
「いやいや、よくないでしょ…。」
「ま、これが、俺らの形ってことで。」
元貴とひろぱがあまりにキッパリと言い切るから、僕も、もう腹を括って二人を僕の200%で大事にするしかない、と心に決めた。
ふと思いついて、今度は僕から、ひろぱと元貴に、それぞれ軽くキスをした。
「…メリークリスマス。」
二人がびっくりした顔をして、後ろの壁掛け時計を確認する。時計の針は、夜中の0時を過ぎていた。二人は僕に向き直り、にっこりと笑いかける。
「「メリークリスマス、涼ちゃん」」