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ギデオンは訝しげにリオを見て、箱から酒とグラスを取り出す。そしてなぜか二つあるグラスの一つに酒を注ぎながら、「先程の質問だが」と口を開いた。
「幼少期の頃からあらゆる武術の訓練を受けている。剣はもちろん、素手でも十分に戦える」
「へぇっ、すごい!だからそんなに筋肉があるんだねっ……あ」
「筋肉?」
慌てて口を押さえたけどもう遅い。口を押さえたままギデオンを見上げると、すごく真面目な顔で答えてくれた。
「これくらいは、成人男性ならば普通にあるのではないのか?…まあ、リオも今から鍛えれば…」
「俺、武術とか剣とか苦手なんだよな。それに別に騎士とかになりたい訳じゃないし。今のままでいいんだ」
「だが、一人で旅をしているのだろう?危ない目に合うこともあるだろう。それなら多少は鍛えた方がよいのではないか?」
「あっ、大丈夫。俺には魔…」
「ま?」
「いやっ、俺は話上手だからさっ、そーゆー危険な状況になっても、うまく切り抜けられる自信がある」
へへっと笑って「じゃあおやすみ」と背中を向けて出て行こうとした。しかし素早く腕を掴まれて椅子に座らされてしまう。
「え?いやいやなんで?」
「少し付き合え。一人で飲んでもつまらぬ。それにリオは、話上手なんだろ?」
「えー…」
余計なことを喋ってしまったと、思わず顔をしかめた。しかしリオのことなどお構い無しに、ギデオンはもう一つのグラスにも酒を注いでリオの前に置く。
「ほら、おまえも飲め。よく眠れるぞ」
「……はい」
端正な顔の男の目力が怖い。目の下の隈がより怖くしている。
しかたなくグラスを手に取ったけど、リオはグラスの中の薄桃色の液体を見つめて、密かに息を吐く。
酒ってあんまり好きじゃないんだよな。飲めるけど量は飲めない。それに辛い酒は好きじゃない。これってさ、もう匂いからして辛そうだし強そうなんだけど。初めて見る色だし。それにそもそも、俺はまだ成人していない。
リオは不満タラタラでグラスに口をつける。少し傾けて口内に酒を流し込む。
「ん?あれ?おいしい…」
「そうか。口にあったなら良かった」
酒は想像していたように辛くはなく、どちらかというとほんのり甘い。それに例えようがないけど、すごく好きな匂いに思えてきた。
自分の好みの味だとわかった途端、リオは残っていた分をごくりごくりと飲み干した。
「これ気に入った!おいしい!」
「すすめた俺が言うのもなんだが、あまり飲みすぎるなよ。成人したばかりだろう?」
「してません。冬で十八になるの」
「えっ!嘘だろ…。いや、幼いなとは思っていたが、一人で旅をしているから、てっきり成人しているものだと思っていた。では酒はダメだ。もう飲むな…あっ!」
飲むなと言われてももう遅い。リオは手酌で注いだ二杯目を一気に飲み干し、より一層怖い顔になったギデオンを見てへらりと笑った。笑った瞬間目が回り、その直後の記憶が無い。暑くて息苦しく感じて目を開けると、目の前に筋肉があってひどく困惑した。
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