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「なぁ、阿部ちゃん。パーティーに参加してくれない?」

「…へ?」


その出会いは突然の誘いから始まった。





「いやね、今度芸能人を沢山集めたパーティーが開かれるんだけど、そこに参加して欲しいのよ。」

そいつは大学時代の友人で、社会人になって5年経った今でも交流の絶えない貴重な存在だ。

しかし、今こいつが言っていることが全く理解できない。

「俺が?一般人だよ?同じ芸能人を誘った方がいいんじゃない?」


その友人は芸能界に関わる仕事をしていて、いつもあちこちを駆け回るように働いている。今日も「緊急で話したいことがある」と突然呼び出されたのだ。


「常に業界人と関わってて、パーティーまで同じ顔ぶれだと何かと疲れが取れないらしくてさ。芸能関係の仕事をしてる人間から、外に情報を漏らさないような一般人を1人選んで誘ってくれって上司から言われててよ。阿部ちゃんだったらそこまでこの世界に興味もなさそうだしと思って。」

「うん?なるほど?」


俺じゃなくても他にいくらでも誘える人はいるのではないか、という思いは詳しい説明を聞いてみても消えることはなかった。しかし、職場と自宅を行ったり来たりの生活と、これといった楽しみもない俺の世界に1日だけでも刺激が生まれるのは悪くないかと、友人の誘いを了承した。



「じゃあ、日時と場所はまた連絡するから。あ、ドレスコードあるからいつもみたいなしわくちゃのスーツなんかで来るなよ、用意しとけよー!!」

友人は上司からのNoと言えない業務命令が片付いたことに気分を良くしたのか、上機嫌で仕事に戻っていった。






パーティー当日、しっかりとした作りの招待状を持って会場へと足を運んだ。


「いらっしゃいませ。パーティーに参加される方ですね。」

「あ、はい・・。」

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「阿部亮平です。」

「阿部様でいらっしゃいますね。お名前の確認が取れました。まっすぐ進んでいただきAホールが会場でございます。いってらっしゃいませ。」

「どうも…」



会場のスタッフの方に案内された通りに通路を進みAホールに辿り着いたものの、入って良いものかと躊躇われた。入り口付近で戸惑っていると、後ろから来た人が通りづらそうで、仕方なく意を決してドアをくぐった。



…しかし気まずい。

見渡す限り高そうなブランドものを身にまとった人ばかりで気後れするし、話しかけられる人もいないし、場違いという言葉はこういう時に使うんだろうな、なんて考えていた。

くそ、あいつどこにいるんだよ。

「俺もそばにいるから安心しろ」なんて言ってたのはどこのどいつだよ。

「はぁ、、、お酒もそこまで得意じゃないし、端っこにいよう」

幸い立食形式のパーティだし、数合わせで呼ばれたくらいに構えて終わったらすぐに帰ろう。






「…ぇ、ねぇ、君」


誰かに声をかけられてはっとする。

やばい、ぼーっとしてた。えーっと、、、この人は、、誰?


「ねぇ、大丈夫?」

また話しかけられる。なにか返事しないと。


「あ、はい、大丈夫です。ちょっとぼーっとしちゃって、あはは…。」

「人多いもんね、気分悪かったりはしない?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと気後れはしてますけど。」

「まぁ、テレビに出てるような人ばっかりだもんね。無理もないよ。気分が悪くなったら言ってね。無理してずっといるような場所じゃないし。」

そう言って微笑む彼はとても綺麗で、顔が熱くなる。息が苦しい。か細くありがとうございますと伝えるので精一杯だった。


「よければ話さない?俺も賑やかなのは苦手なんだ。せっかく今日会えたんだし、君の事知りたい。ねぇ、名前教えて?」

「あっ、、阿部、亮平、、、です。」

「阿部君か。いくつなの?」

「31です。」

「俺の3個上なんだ。ねぇ、敬語じゃなくていいよ。俺も年上だと思わなくて今更だけど、仲良くなりたいからさ。俺は、目黒蓮っていうの。」

「あ、あぁ、、わかった。目黒、さん?」

「もう!さん付けも!!」

「ははっ、、わかったよ、よろしくね?目黒くん」

大人びた見た目の割には人懐っこくて、犬みたいな子だななんて思ったら緊張も解けた。普通に笑えている自分がいて、少し前までこの場所に連れてきた友人を恨んでいたのが嘘のように楽しい時間を過ごすことができている自分に驚いていた。もともと、外交的な性格ではないし、適当に時間を潰そうと思っていたから、一夜限りの友人ができたことはとても嬉しかった。「阿部ちゃんって呼んでいい?」なんてキラキラした瞳で聞いてくる。





かなりの時間を目黒くんと過ごしていると、飲み会ではお決まりの話題、

「ねぇ、阿部ちゃんは彼女とかいないの?」と一言。ちょっと苦手な話題。

「いないよ、そういうの苦手なんだ。」

「へぇ、どうして?」

「うーん…。誰かと本気で向き合うこととか、その人の全てを知りたいとか、そういうの少し怖いなって思うんだ。正直、自分のことで精一杯だから、誰かのことなんて背負えない気がするんだ。」

「そうなんだ。じゃあ、いつか、阿部ちゃんがそういう難しいこと全部忘れちゃうくらいの人が現れるといいね。」

「そうだね、そんな日が来るといいね。」

「そういう目黒くんこそ、彼女とかいないの? あ、でもそういう話はあんまりしない方がいいよね、ごめん…。」

「いいよいいよ、阿部ちゃんは内緒にしててくれそうだから、特別に教えてあげる。なんて言ったけど本当にいないんだ。」

ケラケラと笑う目黒くん。こんなに綺麗な人なのに勿体無いな、忙しくて恋愛している暇なんて無いのかなー、 芸能人にも色々あるんだな、なんて呑気に考えていた。




遠くの方で、今日のパーティーが終わるというアナウンスが流れた。目黒くんと話せてよかった。正直、終わるまでどうやって時間を潰そうか、なんて考えていたくらいだったから。楽しい時間が過ぎるのはあっという間だ。


「そろそろ、終わりみたいだね。俺も帰る準備しないと。」

受付で荷物を預けたからクロークカードを出しとかないと…



「ねぇ、阿部ちゃん」俺を呼ぶ目黒くん。


「ん?」

「俺さ、今日この上の階に部屋用意してもらっててさ、よかったら2人で飲み直さない?俺、阿部ちゃんとまだ話してたい。阿部ちゃんが良ければだけど…」

おすわりをして待つ犬のように伺いの眼差しを俺に向ける目黒くん。俺は幸い明日も休みだ。俺もこの子といるのは苦じゃない。むしろ話していて心地良い。せっかくの出会いだし、明日になれば会うこともなくなるなら、もう少し同じ時間を過ごしたいと心から思った。


「うん、俺で良ければ」

「…っ」

嬉しさから自然と笑みが溢れ、快諾の返事をすると目黒くんは目を逸らしてしまった。耳が赤いけど酔っちゃったのかな?飲み直すなら潰れないように見ててあげないと…。





「お邪魔します」

「どうぞー」


目黒くんの部屋に案内され、ソファーに腰かける。


「適当にルームサービス取るけど、阿部ちゃん何か欲しいものある?」

「ううん、もうお腹いっぱい、ありがとう」

「はーい」





今日初めて会ったとは思えないほど目黒くんと話をした。程よく酔いも回ってきて

「阿部ちゃん」

ふと名前を呼ばれる。ぼーっとする頭で振り返ると目の前には彼の顔。

「阿部ちゃん、ねぇ、しない?」

「んー?なにを?」

「ふふ、はぐらかしてるの?それとも天然なの?」

「てんねんじゃなぃ…んむ、、」


…なにこれ、ふわふわする、甘い。さっきまで飲んでいたワインの味がする。

口の中で温かいものが這い回っている。きもちい。口の中から水の音がする。

体が倒れていく、そんなに酔ってたかな、あ、ちがう。目黒くんが押してくるんだ。疲れてるのかな。服の中にも手が這い回って…って!?


「めぐろ、く…んっ!!!なにするの!!はぁっ、ん…はっ、」

「なにって、しようよ。」

「なにを?」

「こういうこと」

そう言ってもう一度、俺の服の中に手を入れてくる目黒くんの目はなんだかギラギラしていて、

刹那ーー


あ。食べられる。



「って、待って待って!落ち着いて!?どうしたの!?」

「どうしたのって、そういう気分」

「いや、今日知り合ったばっかり!!」

「そうだけど、阿部ちゃんとならいいなって、ね、お願い。俺、阿部ちゃんのことすき。」

「だめなものはだめ!好きって、友達としてでしょ?もう寝よう?」

「やだ」

「やだって…子供じゃないんだから…」

「俺寝れないの」

「不眠症なの…?」

「そう、寝ようとすると不安なこととか怖いこととか頭の中にたくさん浮かんで寝られないの。だから寝たくない。」

「そうだったの」

「ねぇ、寂しくて不安なの。怖いの。阿部ちゃん助けてよ…。」

「目黒くん…」


どうしたものか、、、目黒くんのことはもちろん心配だけど、出会って間もない人となにかするとか、ましてや目黒くん芸能人だし、角が立つ予感しかない。炎上とかしたらどうしよう。かと言って見捨てることもできないし…。





「…わかった。」

「あべちゃん?」

「手を繋ぐことならできる。目黒くんの体心配だし、寝て欲しい。目黒くんが寝るまで手繋いでてあげる、これなら寂しくないだろうし、不安なことがあったら全部聞かせてよ、そばにいるから。どうかな?」


きょとんとする目黒くん。 次の瞬間笑い出した。


「あはははっ!!!阿部ちゃん面白いね!うん、わかった。阿部ちゃんとできないのは少し残念だけど、よろしくお願いします」

「残念ってなに笑、 ほら、ベッド行こう?」

「はぁい」





大人しくベットに入った目黒くんは、俺の手を取る。指を絡め取られて親指を撫でられる。安心するのかな?



「阿部ちゃん、俺ね、毎日失敗するんじゃ無いかって怖いんだ。自分が有名になっていけばいくほど、ミスできない、完璧でいなきゃってそればっかり頭に浮かんで、何か間違えたらみんな俺のことなんか嫌いになって忘れちゃうんじゃないかって。」

「そっか、失敗するのは怖いよね。うん、うん」

「でも、みんなの前では格好よくいたい。頑張らないとって思うんだ」

「うん、そうだね、でも俺は目黒くん格好いいなって思うよ。今こうしている瞬間も格好いいって思うよ。」

「こんなに弱音吐いてるのに?」

「うん、誰だって弱音を吐きたいときはあるでしょ?それでも頑張りたいって思える人は格好いい人だと思うよ」

「そっか、、おれ、かっこいぃ…か、な、、」


言葉が途切れていく彼を見ると、寝息を立てていた。

何時間でも付き合うつもりではいたが、すぐに寝落ちるあたり、余程疲労が溜まっていたのだろう。一安心だが、まだ考えるべきことが残っている。…いつ帰ろうか。

生憎タイミングも終電も逃してしまった。おまけに目黒くんの力は強くて、手を離してくれる気配がない。困った。仕方がないのでしばらくはこのままでいることにしよう。目黒くんの手の力が抜けてきたら帰ろう。


「やっぱり綺麗な顔だな、まつ毛長いな…」


しっかりしているように見えても1人の人間で、たくさんの期待と自分自身から生まれる不安と闘っている。俺なんかじゃ想像もできないほどの苦労をしているんだろうな。

なんて考えているうちに睡魔が襲ってくる。


「ふぁぁ…おれ、かえら、、なきゃ、、、」


重たい瞼が閉じる。俺は高級ホテルのベッドの片隅に頭を預けた。







「…ん、ふぁ、あれ、あさ? ん、眠れてる?」

目覚めると明るい部屋だった。悪い夢を見て飛び起きることも、目覚めて真っ暗な部屋にいるわけでもなく、一度も起きないまま朝を迎えることは本当に久々だった。

ふと、視界の端に黒い球体が見える。人の頭だ。その人と手を繋いでいる。思い出す。昨日初めて知り合った人とたくさん話をしたこと、俺の誘いを断っても見捨てることはせずに一晩中手を繋いでいてくれたこと。ベッドに突っ伏すように眠る彼の顔を眺める。不思議な人だな、この人といると絶対に人前じゃ言えないこと、なんでも言える。でも、もう会えないんだもんな。寂しい。やだな。欲しいと思ってしまった。まだ一緒にいたいな。申し訳なかったな、この体勢じゃ体痛いよな。寝息小さい。可愛い。もう一回キスしたら怒られちゃうかな、なんて考えていると、聞き慣れた着信音が鳴り響く。

液晶にはグループのメンバー【佐久間大介】の文字が表示されている。


「はい、もしもし?」

「おっちー!!おはよー!!れん!!!!!」

「朝からうるさいっすね、佐久間くん。どうしたんですか?」

「どうしたって、今日は午前中振り入れでしょー?珍しいね、蓮が遅刻なんて。」

…最悪だ。完全に頭から抜けていた。

「やっべ。抜けてました。そうでした。今すぐ行きます。すいません。」

「あれあれー?もしかして昨日のパーティーで可愛い子でも引っ掛けて夜遊びしちったんかにゃー??」

「笑えないっすよ、そういうの。」

「にゃははー!お堅いね〜!」

「…でも、まぁ、見つけましたよ。…俺のお嫁さん。」

「んにゃ??」





電話を切り、阿部ちゃんと握ったままの手に名残惜しさを感じながらも、俺は今日のスケジュールをこなさなければと、彼をベッドに寝かせて部屋を後にした。






ふと目を覚ますと、高級そうな天井。俺の家こんなに豪勢だったっけ?

…いや、ちがう。昨日初対面の人と夜遅くまで飲んで、その人の手を握ったまま寝ちゃったんだ。あれ、その人がいない。夢だったのかな。いや、現実か。


とりあえず、帰ろうか。

いい思い出になったな。一夜限りのお友達なんてのもいいかもしれない。


忘れ物はないか。

部屋中を見回していると、机の上にメモが置いてあることに気づく。



『昨日はありがとう。楽しかったよ。またどこかで会おうね。めぐろれん』



「どこかってどこだよ」

思わず笑ってしまう。彼は忙しい人だろうに律儀な人だ。気を遣ってくれたのだろう、良い時間だったと言ってくれるのはとても嬉しかった。再会は叶わないだろうに、「また」と言ってくれる彼の優しさが温かった。








あれから一ヶ月ほど経った。煌びやかな世界とは正反対の世界で、俺は今日も自分が片付けなければいけない仕事をひと段落させ、疲弊し切った体をなんとか動かして改札へ向かう。


「阿部亮平さん」


誰かに名前を呼ばれて振り向く。そこには帽子とマスクで顔がよく見えない男性が立っていた。

いや、誰。しかも何故フルネーム。


「やっと会えた。阿部ちゃん」


終電間際、人通りの少ないコンクリートの上、その男性はマスクを外し、俺に微笑みかける。少し懐かしい苦しくなるほどの眩しい笑顔で。



「め、めぐろ、、くん…っ!?」


「迎えに来たよ、俺のお嫁さん」






「………はい?」





To be Continued…………………………

お迎えダーリン、戸惑いハニー

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