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「…え、、、っとぉ、、、どういうこと?」
「?? そのままの意味だけど。」
俺の前に一ヶ月ぶりに現れた目黒くんは、突然俺に「お嫁さん」と言う。
どういう状況?
何かの冗談なのかな?
そもそも、もう会うことはないと思っていたし、彼と俺は住む世界が違う。そんな俺に唐突に何を言い出すのだろう。そもそもお嫁さんって、俺のこと?
目黒くんと結婚した覚えないんだけどな。。。
「えっと、うん、ごめんね、あんまり理解できてない。」
「そうだよね、突然だったね。ごめんね。ちゃんと説明する。俺が阿部ちゃんのことどのくらい好きかわかって欲しいし。まずね、初めて会った瞬間に可愛いっておもっ」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って!?今ここで話すの!?」
「え、そのつもりだったけど…」
スピードが早過ぎる。ついていけてない。待って。どうしたらいいのこれ。
どこで働いてるとか、あのパーティーの時には伝えてないし、きっと仕事しながら俺の居場所を探してくれたんだろうな、と思うと振り切って逃げることも可哀想だし、、、目黒くん、芸能人なのにこんなところで立ち話とかしてて大丈夫なのかな、、どこか場所を変えたほうがいいかな。。。
今の状況に対応できていない頭で、せめて場所だけでも変えようと、目黒くんに提案する。
「目黒くん、ここじゃ人が通るかもしれないし、場所変えない?」
「!!話、聞いてくれるの?」
「うん、聞くから、ここじゃないところに行こう?」
「ありがとう。阿部ちゃんのそういう優しいところも好き。」
「はいはい、わかったから。」
話をするにもどこに行ったら良いのか悩まれたが、結局俺の家が一番近くて怪しまれないという結論に至り、2人で電車に乗って自宅へ向かった。
俺の部屋、今どういう状態だったっけ。…まずい…決して綺麗ではなかった、と人を招くことに今更ながら焦りと後悔を感じていたが、招かれる当の本人は「やばい、どうしよう、阿部ちゃんの家…緊張する…絶対いい匂いする…」なんて呟いていた。
自宅の最寄り駅に到着し、改札を抜ける。いつも通りの帰り道、隣にはウキウキという言葉が似合うほどに足取りの軽い会って2回目の友人がいる。誰かを家に招くなんて初めてだ。
そわそわと地に足がついていないような感覚を覚える。
「目黒くん、ご飯もう済ませた?」
「いや、まだだけど」
「俺もまだで、何か買って帰ってもいいかな?この辺コンビニしかないけど。」
「うん、いいよ。俺もついていく。」
「ごめんね、帰る前に聞いたらよかったね。」
「どうして謝るの?全然いいのに。」
「…目黒くんにコンビニのご飯って、なんだか申し訳なくて。」
「??阿部ちゃんと食べるご飯ならなんでもおいしいと思うよ?コンビニのご飯久しぶり、何食べようかな。」
そう言って目を細める目黒くんは、マスクをしていてもキラキラしていて、心臓がうるさい。優しいのは目黒くんの方だ、こんな俺なんかと一緒にいることがこの上なく嬉しいと、全身で表現している姿になんとも言えない気持ちになる。
コンビニにたどり着き、夜ご飯を選ぶ。
目黒くんはもう決まったのか、早々と小さなサラダとサンドイッチ、緑茶を抱えて、俺が選び終わるのを待っているのだが、なぜか隣にピッタリとくっついてくる。
「…目黒くん、近くない?」
「阿部ちゃんを守ってるの。」
「そ、そうなんだ…」
不思議な子だな、、守るって、俺成人男性なんだけどな…?疑問は残ったままだったが今日の夜ご飯を決めて会計のためにレジに向かおうとすると、手に持っていたものをすべて取り上げられた。
「ぇ、目黒くん?」
「俺のと一緒に、ね?」
「いいよ、そんな、悪いから。」
「いきなり押しかけちゃったし、阿部ちゃんの時間もらってるから。払わせて?」
「う…。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、、ありがとう。」
「こちらこそ。」
コンビニで買い物を済ませ、自宅に着く。
「お邪魔します。」
「散らかってるけど、どうぞ〜。ちょっと片付けるから、ソファー座ってて。」
「ありがとう。」
家の状態は想像した通りで、お世辞にも綺麗とは言えない。
散らかしているつもりは一切ないが、終電間際に帰ってくるような生活を毎日過ごしているこちらとしては、こまめに片付けるほどの体力も残っていない。
人を招くことなんてないので完全に油断していた。幻滅されちゃうかな、なんて少し心配になる。
…でもどうしてそう思うのだろう。まだ2回しか会ったことのない人なのに、目黒くんにどう思われるかをすごく気にしている自分がいる。どうやら嫌われたくないようだ。普段、人の目なんて気にしないのに、不思議だな。
溜まった洗濯物をカゴに放り込んで、空いた缶や食器をシンクへ置く。勉強するためのテキストやノートは重ねてテーブルの足元へ。ご飯が食べられるように、テーブルを拭くと、目黒くんが買ってきたものを並べてくれる。お礼を言うと、いつの間にかマスクと帽子を取っていた目黒くんが「いえいえ」と嬉しそうに微笑む。俺が片付けに必死になっている間、何かできることはないかと様子を伺ってくれていたようだ。
片付けもひと段落して、目黒くんと並んでソファーに腰掛け、先ほど奢ってもらったご飯を開ける。
「いただきます。目黒くん、ありがとう」
「いただきます。どういたしまして、阿部ちゃん。」
ご飯を食べながら先ほどの話について尋ねた。
「それで、お嫁さんってどういうことなの?」
「阿部ちゃんのこと好きなんだ、一目惚れした。だから一緒にいて欲しいって伝えたくて、あのパーティーに阿部ちゃんのこと招待した人をマネージャーに教えてもらって、その人に会って、阿部ちゃんがどこで働いてるのか教えてもらったんだ。でもいつ行ってみても阿部ちゃん会社から出てこなくて、こうなったら、オフィスの電気が消えるまで待ってみようって思って今日はずっと待ってたんだ。会えるかもしれないって。そしたら会えた。嬉しくて、いろんなことすっ飛ばしちゃったんだけど、ずっと会って告白したかったんだ。俺と付き合って欲しいです。」
…あいつ、、なんで俺に職場聞かれたって言わないんだ。今度会った時文句言ってやる。
……ん?ちょっと待って?これ本当に告白だった?「お嫁さん」なんて言うし、好きって言うのもどこかで冗談だろうなんて思っていた。こんな格好いい子に好きって言ってもらえたことなんて今まで無いから正直驚いているけれど、素直に嬉しい。すごく嬉しい。でも、付き合うって、、俺、できるかわからない。今まで誰とも付き合ったことないし、興味もなかった。誰とも関わらないまま生きていくんだと思っていた。うまくできる自信がない、どうしよう。
どう返事をしていいかわからず下を向いてしまう。
付き合うってことがわからない。まず、俺は目黒くんのことが好きなんだろうか?そんな中途半端な状態で受け入れるのはとても失礼じゃないか?
断った方がいいのかな、でも傷付けたくない。なんて伝えたらいいんだろう。
言葉に詰まる俺を見かねたのか、目黒くんが言葉を紡いでくれる。
「今すぐ返事が欲しいわけじゃないんだ。もし、阿部ちゃんの心の中に俺を受け入れてくれる可能性があったら、ゆっくりでもいいから考えてもらえたら嬉しい。」
そう言って頭を撫でてくれる。
「じゃあ、急に押しかけちゃってごめんね。そろそろ帰るよ。聞いてくれてありがとう。」
「…ぁっ、ま、待って…!」
思わず引き止めてしまった。帰ってしまうということに少し寂しさを覚えた。
もっと一緒にいたかった。でも、なんて言ったらいいんだろう、お友達として?恋人として?俺はどういうつもりで目黒くんと一緒にいたいの?わからない。
引き止めたのに言葉に詰まってしまう。何か言わないと……あ、
「…あれから、眠れてる……?」
きょとんとする目黒くん。そりゃそうだ。なんの脈絡もない会話、絞り出した感がすごい。我ながら酷い切り出し方だと思う。
「うーん、どうかな。あんまりかもね。」目黒くんが答える。
「そっか、、こんな時間に帰るのも危ないし、よければうちに泊まって行かない?」
「!!ほんとに言ってる…?」
「うん、夜も遅いし、もう電車ない時間だし。男性とはいえ何かあるかもしれないし。」
「…阿部ちゃん、それ無意識でやってるの?他の人にもそうなの?」
「え??何が?」
「俺、阿部ちゃんのこと好きって言ったよね?自分に好意持ってる相手をそんな簡単に家に入れて、泊まらせるなんて、誘ってるの?」
耳元で囁かれる、顔に熱が溜まっていくのがわかる。
「っ!!!ちが、違うよ!!ほんとに心配で…っ!!」
「ふはっ、ごめんごめん、からかいたくなっちゃった。そんなこと思ってないよ。そういう天然で小悪魔なことしてくるところも好きだよ。」
もうすごい…。息をするように好きだと言われる。恥ずかしくて、くすぐったくて泣き出してしまいそう。からかわれているのに苦しくなくて、むしろこんなやり取りを目黒くんとずっと続けていたいと思う。変だ、なんだか変だ。
自分がわからなくなっていく感覚に眩暈がするかのうように、その場にへたり込んでしまう。
「ぅぅ…、目黒くんが心配で、また手握ってあげられたらって思ったのに…。」
顔を手で覆いながら目黒くんを見上げると、額に手を当てて天を仰いでいた。
「可愛い…マジ可愛い……天使か。あぁぁ、手出したい。いや我慢しろ目黒蓮。」
「目黒くん?どうしたの?体調悪い?」
「んんっ…大丈夫。じゃあ、今日はお世話になります。」
「もちろん、こんなところでよければゆっくりしてね。あ、そうだ、目黒くんお風呂入る?」
「いいの?」
「うん、寝る前はお風呂入りたいでしょ?案内するね。」
「ありがとう」
「下着とか部屋着、俺のでよければだけど出しておくね。」
「え!?阿部ちゃんの下着!?」
「嫌だった?一応新品の一回も使ってないやつなんだけど。」
「あ、あぁ、全然大丈夫…。じゃあ、お風呂いただきます。」
「うん、行ってらっしゃい。ごゆっくり。」
「使ってるやつでもよかったんだけどな…」という目黒くんの呟きは聞かなかった事にした。
「…はぁぁぁぁぁ〜、俺今日大丈夫かな。」
阿部ちゃんに案内され、お言葉に甘えてお風呂に入る。
突然押しかけたのは俺だが、まさか、また夜を一緒に過ごす事になるとは想像もしていなかった。
出会った瞬間から可愛い人だとは思っていたが、あそこまで天然で可愛い仕草ばかりするなんて…。押し倒してキスしなかった俺を誰か褒めて欲しい。
誘惑と理性の戦いを予感しながら阿部ちゃんのシャンプーを1プッシュした。
To Be Continued…………