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#雪男BL
透子
74
ゆんしょ
950
252
絶対辰哉
675
旅館での夕食。
部屋食の準備が整い、仲居が最後の料理を並べ終える。
「ごゆっくりどうぞ」
襖が閉まる。
広い和室に残されたのは、照とふっかだけだった。
机の端には、監督から渡された一枚のメモ。
『相手に、普段は言わないことを一つ伝えてください。』
────────
💛side
照は箸を手に取る。
けれど、料理よりもメモが気になって仕方ない。
普段言わないこと。
何を言えばいい。
「仕事頑張ってるよな」
そんなことは普段から言える。
「ありがとう」
それも言える。
だから違う。
もっと。
相手が聞いたことのない言葉。
💜「……」
ふっかも同じことを考えているのか、珍しく静かだった。
────────
💜side
「いただきます」
二人同時に手を合わせる。
少しだけ笑って、食事が始まった。
料理の感想を話したり。
旅館の雰囲気を話したり。
会話は弾む。
でも。
お互い、あのメモには触れない。
(先に言った方が楽かな)
そう思っても、言葉が出てこない。
────────
食事が終わる頃。
コンコン、と襖が鳴る。
スタッフが顔だけ覗かせた。
「順調ですか?」
💜「たぶん」
「ちなみに」
スタッフが笑う。
「正解はありません」
💛「ですよね」
「思ったことを、そのまま伝えてください」
それだけ言って、また襖が閉まる。
────────
静かになる。
照が湯のみを持ちながら、小さく息をついた。
💛「……俺からいい?」
💜「うん」
照は少しだけ視線を落とす。
考え込む癖。
ふっかは何度も見てきた。
💛「ふっかって」
💛「周りを見てるじゃん」
💜「まぁ、一応」
💛「その場が回るように動いて」
💛「空気悪くならないようにして」
💛「自分のことは後回しにすること多いよね」
ふっかは驚いたように照を見る。
そんなところまで見られていると思っていなかった。
💛「だから」
💛「もっと人に頼っていいと思う」
💛「一人で何とかしなくても」
💛「俺らいるから」
照は照れ隠しなのか、最後は少し早口だった。
言い終えると、すぐ湯のみへ視線を落とす。
────────
💜side
胸の奥が少し熱くなる。
そんなふうに思われていたんだ。
照は、案外ちゃんと見てる。
ふっかは少し笑った。
💜「ありがと」
💜「なんか照らしいな」
💛「そう?」
💜「うん」
少しだけ間を空ける。
今度は自分の番。
何を言おう。
頭の中で考えていた言葉は、全部違う気がした。
だから。
思ったまま口にする。
💜「照ってさ」
💛「うん」
💜「ちゃんと人のこと見てるくせに」
💜「自分のことは全然見せないよね」
照が少しだけ笑う。
図星だった。
💜「平気そうな顔するけど」
💜「本当は抱え込むタイプじゃん」
💛「……」
💜「だから」
💜「たまには弱音くらい吐いてもいいよ」
💜「俺ならちゃんと聞くから」
照は返事をしなかった。
でも。
ふっかの言葉は、静かに胸へ落ちていった。
────────
その様子を、少し離れた部屋で監督たちがモニター越しに見ていた。
「……今の」
スタッフが小さく呟く。
監督は腕を組みながら笑う。
「恋人らしい言葉じゃない」
「でも」
「二人らしい」
演技で飾った甘い言葉より。
長年一緒にいるからこそ出てきた本音。
その方が、ずっと心に残った。
────────
夜。
撮影は一区切り。
スタッフも別室へ下がり、翌朝まで最低限の撮影だけになった。
和室には布団が二組。
並べて敷かれている。
💜「こういうの久々だな」
💛「修学旅行みたい」
💜「確かに」
電気を消す。
部屋が静かになる。
天井を見つめながら、ふっかがぽつりと呟く。
💜「照」
💛「ん?」
💜「この企画終わったらさ」
💜「ちょっと寂しくなるかも」
何気なく出た一言。
照は暗闇の中で目を閉じた。
💛「……まだ終わってないよ」
💜「そうだった」
💜「あと二か月くらいあるか」
💛「うん」
その返事に安心したように、ふっかは「そっか」とだけ呟いた。
照は天井を見つめたまま思う。
“まだ二か月ある”
そのはずなのに。
なぜか心のどこかで。
“あと二か月しかない”
そう考えている自分がいた。
コメント
3件
「あと2ヶ月しかない」 その通り過ぎる 時間は早く立っちゃうから早くいちゃつけ
距離縮まりすぎてて好き
第8話、じっくり味わいました。旅館の夜の空気感と、メモのお題から生まれる自然な本音のやり取りがとても良かったです。照が「俺らいるから」と言うところ、ふっかが「弱音くらい吐いていいよ」と返すところ、どちらもお互いをよく見ているからこそ出てくる言葉で、こちらの胸がじんわり温かくなりました。最後の「まだ二か月ある」と「あと二か月しかない」の対比にも、言葉にできない気持ちが詰まっていて、切なく響きました。素敵なエピソードをありがとうございます。