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久しぶりの娑婆の空気が美味しい、シャーリィ=アーキハクトです。
情報部が主体となった作戦が無事に成功を納めたことを聞いた私は、直ぐに着替えて速やかに現地へ向かうべく用意を開始しました。
港湾エリアまでは徒歩で一時間くらい掛かります。こんな時は『黄昏』の立地条件の悪さを痛感します。普段は往復するために馬車の定期便を運行させていますが、こんな夜にはありません。でも急ぐ必要があるので、虎の子の自動車を投入することにしました。後ろに大きな蒸気機関と排気口を備えており、『帝国の未来』にある自動車に比べたらゴテゴテしていますが、それでも馬よりずっと速いんですよね。もちろん愛馬のダッシュを疎かにするつもりはありませんが。
問題があるとすれば、一度に乗れる人数が少ない点です。運転手を含めて四人ですからね。さてどうしようかな?
「速やかな現地入りを為さるならば、自動車をお使いください。我々も直ぐに追い付きます」
マクベスさんはそう言いますが、さて誰と行こうかな?
「……運転は任せなさい」
悩んでいると、『ライデン社』からレイミが譲り受けてきたアサルトライフルを担いだシスターが駆け付けてくれました。うん、これなら護衛として不安はありません。
「お願いします、シスター」
「安全運転で頼むぞ?シスター」
「……善処します」
私とルイが後部座席、アスカが助手席に座っていざ発進。
「ぬぁああああっ!!!」
うん、シスターの運転はワイルドで刺激的でした。アスカ、立つと危ないですよ。
シスターの素敵な運転で現地に到着した私達。ルイが酔って口からキラキラを吐瀉するハプニングに見舞われましたが、まあ問題はありません。
「代表、報告します!現在海賊衆が中心となって掃討戦を行っています。一部はわざと逃がして我が猟兵が追跡しています」
現地でリナさんと合流して状況の説明を受けました。
「荒波の歌声の指導者であるヤンを捕縛。他にも何人か捕まえたわ。けれど、自分達は堅気だって騒いでいるわね」
マナミアさんからも報告を受けます。
「ヤン代表以外に興味はありません。マナミアさん、処分を。方法はお任せします」
「了解よ、主様」
「ベルモンドの奴も追跡に加わってる。このままリンドバーグ・ファミリーも壊滅させるつもりだ」
ラメルさんからも報告を受けました。ベルも頑張ってくれていますね。
「地下へ逃げられたら困ります。今夜中に終わらせたいので、お願いします」
「まあ任せときな、奴等逃げ場は残さねぇよ。マクベスの旦那も来るんだろ?」
「あまり大人数で乗り込むわけにはいきませんが、この際仕方はありません。どうせ『血塗られた戦旗』が背後に居るのですから」
彼らが三者連合を支援しているのは調査済みです。十五番街へ乗り込む形になりますが、あちらがどんな反応を示すかまだ分からないので、出来れば全面対決は避けたい。少なくとも今は。
「わかった、『血塗られた戦旗』の動きも見張らせる。今は全面衝突を避けたいからな」
「そうです。何れは、遅くとも冬までには十五番街を制圧するつもりで動いてください」
あくまでも敵対するなら、一年掛けて潰すつもりです。
「了解だ。マナミアも良いな?」
「半分を潜ませてあるわ。今は下準備の最中。そうね、一月は貰いたいわね」
「随分と時間が掛かりますね?」
「今回は予めラメルが下準備をしてくれていたから、直ぐに動けたのよ。『血塗られた戦旗』はそこまでバカじゃないでしょう?」
「傭兵上がりの連中だ。人一倍鼻が利くだろうさ」
でなければ傭兵家業で長生きなんて出来ないでしょうからね。
「分かりました。指示があるまで待機を。今回の参加者にも十分な報酬を支払いますからね」
働きには充分な対価を。忠誠心と対価は別だと思うので。
「ありがとう、主様。励みになるわ」
「俺達はどうする?シャーリィ。エレノアの姐さん達の狩りに加わるか?」
「お楽しみを奪うほど無粋になったつもりはありませんよ。第四桟橋の事務所を本部として全体を統括します。私が前に出ると怒られるので」
「……当たり前です。たまにはボスらしくじっとしていなさい」
「はい、シスター」
指揮官先頭をモットーにするマクベスさんやエレノアさんを見習ったら怒られましたからね。
……後ろでじっとしている指導者について来る人なんて居るのかな?
「うちも多くなったんだ。ボスはボスらしく後ろで偉そうに構えてれば良い。そして働き者を労うのが仕事さ」
「そうよ、主様」
ラメルさんとマナミアさんにも窘められてしまいましたね。
……ではお仕事をしましょうか。
「捕えたヤン代表をこちらへ」
水を掛けられて強制的に覚醒させられたヤンは、慌てて周囲を見渡す。そこは燭台に取り付けられた蝋燭が複数あり、レンガ造りの壁に囲まれた小部屋を明るく照らし出していた。
「ここは?」
「ごきげんよう、ヤン代表」
鈴の転がるような可愛らしい声が響き、そちらを向くと真っ白なワンピースを纏った小柄な少女が立っていた。そして周囲には銃を持ったシスター、犬のような耳を頭部に持つ黒いワンピース姿の幼子、バケツを持った翠髪の少年が居た。
「君は……?」
自身が拘束されていない事を確認して、目の前の少女に語り掛けるヤン。
「初めまして。『暁』の代表を務めるシャーリィと申します。以後お知りおきを」
笑顔を浮かべたまま優雅に一礼するシャーリィ。
「君が!?生きていたのかっ!」
「ええ、ご覧のように無傷です。あなた方には少しだけ苦労させられましたよ」
「くっ……私は堅気だ!こんな真似をして、許されると思っているのか!?仕来たりを守らないのか!?」
シェルドハーフェンには極力堅気に手を出さないと言う古い仕来たりがある。
これは別に義侠心などではなく、あまり堅気相手に悪さをし過ぎると政府や貴族に目をつけられて面倒なことになると言う教訓から来ている。
とは言え、貴族なども癒着している現在では有名無実となっているが。
「……これはまた、随分と古い仕来たりを持ち出してきましたね」
珍しくカテリナが苦笑いを浮かべる。
「貴方は堅気なのですか?」
「ああ、そうだ!殺人など犯していない、全うな人間だ!」
「全うな人間がうちから奪った物で遊ぶのかよ?」
「……『海狼の牙』相手に交渉を吹っ掛けたのも知っていますよ。大言壮語も大概にしなさい」
「なっ!それはっ!」
「過程は問題ではありません。あなた方は私達に鞍替えした人達からの勧誘を拒否した。その時点であなた方は私の敵です。堅気かどうかではなく、敵か味方かで判断させて貰います。敵は死あるのみです、」
笑顔を浮かべたまま死刑判決を下すシャーリィ。
それを聞きヤンは絶望したような表情を浮かべて力なく項垂れる。
「くそっ……なんでこんなことに。私は帝都に返り咲きたかっただけなのに……」
「おや?帝都の出身でしたか」
その言葉にシャーリィが反応する。
「これでもそれなりに大きな物流会社に勤務していたんだ。貴族様の屋敷も出入りするくらいにな!それが、あんな仕事を請け負ったばかりにこんな事になるなんて!」
「……へまをして追放されましたか?珍しい話ではありませんね」
「私はヘマなどしていない!ただ、ただ荷物を運び込んでほしいと言われたから指定された場所に納品しただけなんだ!それがまさか爆弾や武器で……そのお屋敷の大貴族一家が皆殺しにされて、疑われるのを嫌った上司は私に全てを被せて追放したんだ!聞いたことがあるだろう!?アーキハクト伯爵家の虐殺事件だ!私は無関係だ!私はなにもしていない!ただ真面目に……?」
やけに静になり、ヤンが顔を上げると至近距離にシャーリィの無表情な顔があった。
「ひぃ!?」
「……その話、詳しく聞かせてください」
それは、シャーリィが探し求めていた情報の一つであった。