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文化祭が終わった夜、日菜は部屋でひとり、ぼんやりと天井を見つめていた。
昼間、ついに悠真と付き合っていることが周囲にバレ、心の中では少しほっとした気持ちと、少しの恥ずかしさが混じり合っていた。
周りの反応は予想以上に温かく、クラスメイトたちも特に悪く言う者は少なかった。
だが、それと同時に、日菜は気づいていた。
桐島があの日、あんな風に軽々しく言葉を放ったことが、どこか引っかかっていた。
「あれ、絶対わざとだよね…?」
日菜はつぶやき、顔をしかめる。
あの日、桐島があまりにも冷静で、何もかも見透かしているような顔をしていたのが印象的だった。
彼の無表情な顔には、ちょっとした恐怖すら感じることがあった。
桐島は決して優しくもなく、誰かを気遣うこともなく、ただ自分の思い通りに事を進めるような人物だ。
その桐島が、二人の秘密を暴露したことに、日菜は違和感を覚え始めていた。
一体、彼があんなことを言った理由はなんだろう。
悠真と付き合い始めてから、日菜はどこかで桐島との関係が変わってしまったことに気づいていた。
あれだけ一緒に過ごしてきたのに、突然あんな冷たい態度を取られるようになった桐島。
彼の目が、最近特に冷たく感じるようになっていた。
その日も、昼間に偶然目が合ったとき、桐島は何も言わずにただ無表情でその場を去って行った。
「桐島、どうして…?」
日菜は、無意識に唇を噛んだ。
自分でもわかっていた。桐島が無意識にしていたことは、日菜にとってかなりの痛手になっていた。
そして、桐島の心の中で何が起こっているのか、それを考えると胸が苦しくなる。
その夜、学校の帰り道、日菜は迷わず桐島のところに行くことにした。
ずっと気になっていたことがあったから、どうしても聞きたかった。
「桐島、ちょっと話がある」
日菜が声をかけると、桐島はいつものように立ち止まった。
その顔には一切の感情が見えない。
「お前、今度は何だ?」
桐島は冷たく言うと、足を止めずに歩き出す。
日菜はその後ろをついていきながら、言葉を続けた。
「なんであの日、私たちのことを暴露したの?」
桐島は歩くペースを少しだけ緩め、横目で日菜を見た。
「別に、バレるのが嫌なら最初から隠せばよかったんだろ?」
その言葉に、日菜は驚き、そして一瞬胸が痛んだ。
桐島の冷徹な言い方は、まるで彼が日菜と悠真の関係に全く関心を持っていないかのように聞こえた。
「でも…どうして、そんなこと言ったの?」
「それが気に入らないのか?」
桐島が言ったその一言に、日菜は言葉を失った。
桐島の表情は、いつもと変わらず冷ややかで、どこか見えない壁があるような感じがした。
「別に、お前たちが付き合っていることが問題だとは思わない。ただ、隠すことが面倒だっただけだ」
その言葉に、日菜は呆れを感じ、そして心の中で何かが決定的に崩れた。
「桐島、それって…私たちの関係をただの遊びみたいに言ってるってこと?」
桐島は一瞬、立ち止まり、振り返った。その瞳はいつも通りの冷たい目をしていて、日菜の言葉に対して何も反応を示さなかった。
「違うって言いたいなら、最初から俺に話しかけてくるな」
その言葉は、あまりにも突き刺さった。
桐島の口から出たその一言は、日菜にとって予想外だった。
彼は、日菜と悠真の関係がどれだけ大切かを理解しようとするどころか、無理に切り捨てようとしているようだった。
「お前らが付き合ってることで何が変わるわけじゃない」
桐島はそう言い放ち、そのまま歩き去っていった。
その背中を見送りながら、日菜は胸の中で何かが完全に崩れ落ちたのを感じた。
その後、桐島とは一切話さなくなった。
彼との関係は、もう元には戻らなかった。
日菜と悠真が付き合い始めてから、桐島が見せた冷たい態度が、次第に日菜を傷つけていった。
桐島との絆は、今や完全に切れてしまった。
春が来て、桐島、日菜、悠真はそれぞれ新しい学年のクラスに進級した。
そして、彼らの間にあったかつての友情や、今は完全に崩れてしまった関係が、今年の新しいスタートとともに、ついに決定的に変わってしまう。
桐島は、あの日からずっと日菜と悠真に冷たく、そして無関心な態度を取り続けた。
二人が隠していたことを暴露した時から、彼の心の中では、もう一度その関係を修復しようという気持ちは湧かなかった。
それでも、学校は続き、日菜はクラスメイトたちとの交流を大切にしながらも、桐島と悠真のことが頭から離れなかった。
彼女は進級後、新しいクラスでの生活が始まったとき、思っていたよりも孤独を感じていた。
これまでのクラスの仲間たちとは違う雰囲気、そして桐島と悠真がいないという現実が、どこか切なくて寂しかった。
進級した春の初日、日菜は新しいクラスの中で、どうしても目が覚めなかった。
悠真との関係は、もはや周りには知られた状態で、二人の絆は強くなったものの、過去の影がついて回る日々を送っていた。
その日も、学校が終わり、帰ろうとする日菜に悠真が声をかけた。
「日菜、今日さ、ちょっと話したいことがあるんだ」
日菜は少し驚きながらも、悠真に近づく。
「うん、何?」
悠真は一度立ち止まり、日菜を見つめると、少しだけ表情を曇らせながら言った。
「桐島のことだけど…やっぱり俺たち、彼との関係をちゃんと整理しておかないといけない気がする」
その言葉に、日菜の胸が少し痛んだ。
「うん…私も、最近ずっと考えてた」
日菜は一瞬、過去のことを思い出して胸の中に湧き上がる痛みを感じた。
あの日、桐島が言ったこと、そして冷たく突き放した態度を、今でも忘れられなかった。
悠真はしばらく黙っていたが、やがてその顔を見て言った。
「俺、桐島とまた話すべきだと思う。でも、君と一緒にいたいから、ちょっとでも分かり合いたいんだ。どうしても、あのままで終わらせたくない」
その言葉に日菜は何も言えず、ただうつむいた。
「うん、わかる。でも、あの時の桐島の態度があまりにも冷たすぎて…私はもう彼と話す気になれない」
「でも、そうすると、ずっとお互いに気まずいままだよ。お前も、桐島に対してきっと気持ちがあるだろう?」
悠真の言葉に、日菜は頷くしかなかった。
そして、進級して数日後、桐島がついに一度、二人に会う機会を持った。
「日菜、悠真」
放課後、校庭の隅で三人が顔を合わせた。
桐島はその姿勢に少し驚くほど真剣な顔をしていた。
だが、日菜と悠真は、すでに関係が崩れたことを痛感しており、その場に立ち尽くしていた。
桐島が一言、静かに言った。
「俺はもう、お前らとは関わりたくない」
その冷徹な言葉が、二人の心に刺さった。
日菜の中で何かが溢れ出しそうになったが、もう涙は出なかった。
彼が決めたことに、何も言えなかった。
悠真が少し前に出て、無言で桐島を見つめた。
「俺たち、もう一度やり直したいと思ってる。でも、君がどうしてもそうなら、俺たちの関係を続けるのは難しいよ」
桐島は無表情で答えた。
「俺には関係ない」
その言葉に、日菜も悠真も、完全に打ちのめされた。
桐島との関係はもう何もかもが終わった。
それを理解する瞬間が、今、目の前にあった。
「じゃあ、もういいよ。お前と関わらなくていい」
悠真がつぶやくと、桐島は一度だけ静かに頷き、そのまま足音を立てて歩き去った。
その後、桐島は他のクラスメイトとも関わりを持ち、日菜と悠真の前に現れることはほとんどなかった。
彼との関係は、もはや過去のものとなり、三人はそれぞれ別の道を歩み始める。
そして、数ヶ月後。
日菜と悠真は、進級してから何度も一緒に過ごし、お互いに少しずつ心を開いていった。
桐島とのことで傷つけられた心も、少しずつ癒えていったが、あの冷たい一言が完全に彼との絆を切り裂いてしまった。
桐島との関係は、二度と元には戻らなかった。
彼は冷たいまま、どこか遠い存在になり、日菜と悠真は新たに二人の未来を作り始めていた。
こうして、時間は流れ、彼らの道は完全に別れていった。
桐島、日菜、悠真の関係は、もう二度と交わることなく、それぞれの人生を歩んでいくことになった。