この作品はいかがでしたか?
120
この作品はいかがでしたか?
120
『イザナさんが利用されている?』
聞いたばかりの言葉を繰り返し、疑問の息を吐く。
鶴蝶さんは眠るイザナさんの方を悲しそうに見つめ、淡々とその先の言葉を紡ぐ。
「……稀咲鉄太って奴とイザナが妹を殺すって話しているのを偶々聞いた」
『自分の…血の繋がった妹さんを…?』
唖然とした声が口から流れ落ちる。
殺す…というのは命を奪うこと。そんなのあまり学校へ行っていない私の脳でも簡単に理解できた。
『なんで…』
喉に張り付いた声を剥がす様な弱弱しい声が口から出てくる。
「…分からねェんだ。」
あそこまで稀咲に固執する理由も、殺しにまで手を出すのかも。
静かにイザナさんから目を離し、苦しそうに俯く鶴蝶さんの声は微かに震えていた。怒りからなのかそれとも悲しみからなのか。俯いた鶴蝶さんの表情は上手く読み取れなかった
。
「イザナが1番心を許しているアンタになら出来るかもしれない。イザナを変える事が。」
「…もうコイツのこんな姿、見たくねェんだ。」
お願いだ、とまた頭を下げる鶴蝶さんをオロオロとしながら見つめる。
私が出来るのだろうか。イザナさんを変える事なんて。
自信の無い念がむくむくと膨らんでいく。困惑が鎖のように私の心を固く縛りつける。
「○○ちゃんにしか頼めない。一度アイツと話してくれないか。」
そんな私に追い打ちをかけるように頭をより深く下げられ、プレッシャーという名の圧迫感にじわりじわりと身体を押し付けられる。息苦しさに酸欠のような症状まで出てきた。
本当に出来るのだろうか。鶴蝶さんですら出来ないことが。ただの女子高生の私に。
つま先立ちして崖の先に立っているような激しい心細さを誤魔化すように隣で眠っているイザナさんの手を握る。私の体温とイザナさんの体温が重なり合う。
イザナさんのあの優しい笑顔を思い出すとふいに胸がぎゅっと締め付けられるような苦しさに包まる。痛く、心地よい不思議な苦しみ。
ここで止めないと、説得しないと。
もう、イザナさんと本当に会えなくなってしまうかもしれない。
『…分かりました。』
そう考えると勝手に口が動いていた。驚いてしまうほど自然に言葉が紡がれる。
「……」
イザナさんが聞いているなんて知らず。
コメント
2件
毎回表現がわかりやすいのすごい!!