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部屋にインターホンの音が鳴り響いた。すぅ、はぁと息を整えてドアを開ける。
「来たよ〜。」
「どもっす。」
目を逸らしながら出迎えた。やはり心臓が勝手に跳ね上がり、体温が上がっていく感覚が全身を駆け巡る。
「今日も何も持って来て無いけど平気だよね。」
「当たり前っすよ、俺が普段どんだけ飲食店巡りしてるか。」
冷蔵庫には様々なお店の飲食物がギュウギュウ詰めになっている。選り取りみどり、バイキング状態だ。
「うーん…あっこれとこれ貰うね。」
「俺はどうしよっかなー…これにすっか。」
それぞれ好みのものをテーブルに置き、まあとりあえずと飲み物で乾杯をする。
「割と久しぶりに来たな、お前ん家。」
「そうでしたっけ。前はー…あーあの時か。」
「てか昨日と打って変わって随分堂々としてない?もうドキドキしなくなった?」
「いや、メチャクチャしてるっす。でもアオセンが目の前にいて逃げられない状況だと覚悟決まるというか。いつまでもウジウジしてらんねぇし。」
そう言いながら未だ1度も目を合わせていない。
「顔ちょっと赤いもんね。無理しないで辛くなったら俺追い出して良いから。」
「追い出すなんてしないっすよw俺をなんだと思ってんすか。」
「いやつぼ浦ならやるだろw」
一定の距離を保ちながら雑談したりテレビを見たりゲームをしたり。何ら変わりない日常を送っているといつの間にか身体は静まっていた。つぼ浦は気付いた。
あれ?これ別に緊張しなくて良くね?前と何にも変わんねーしアオセンもいつものアオセンだし。恋人、ってこんなんで良いのか?これなら楽勝じゃねーか!
どうやら意識し過ぎて自分で自分を苦しめていたらしい。
「アオセン次これやろーぜ、これずっとやりたかったんすよ!」
「えーこれお前が得意なジャンルじゃん。負ける未来しか見えん。」
「良いから良いから!俺が教えてやるっすよ!」
よく分からないがつぼ浦は大分落ち着いたらしい。明らかに挙動不審さが無くなって目も良く合うようになった。慣れたのだろうか、覚悟とやらが決まったのだろうか。何はともあれホッとした。これなら大丈夫かと思い、夕飯を食べ終えそろそろお開きかーという空気の所で提案してみた。
「つぼ浦さぁお願いがあるんだけど。」
「んー?なんすか?」
「手繋ぎたいなって。」
「!?手!?///」
静まっていた心臓がまたドクリと大きく鳴った。顔がどんどん赤くなっていく。
「あーやっぱいいや。ごめん。」
「いっいや!?手ぇぐらいなんともねぇし!」
明らかに見栄を張っている。今の彼は指一本触れただけでも気絶してしまいそうなのに、どこからその威勢は出てくるのか。
「いやいいって、無理すんな。また今度な。」
「いやっ今だ!絶対今だ!今じゃなきゃダメだ!」
緊張して気持ちが昂りすぎたつぼ浦は半分訳が分からないまま、強行しようとした。心の奥底に青井の期待に応えたいという気持ちが芽生えていたのを、この時はまだ気付いていなかった。 しかしその勢いとは裏腹に身体が固まって言う事を聞かない。ソファの端に座り、そっぽを向きながら手を出すので精一杯だった。
「お前倒れそうで怖いんだよ。本当に大丈夫?」
「こんな事で倒れねぇし!」
「…じゃあお言葉に甘えて。」
2人の手が触れ合った。暖かくて大きな手が骨ばった手を優しく包み込む。
「つぼ浦の手、見た目より柔らかいのな。俺の手冷たくない?大丈夫?」
「ぉ、ぉう…」
「はあぁぁ…俺幸せだな…好きだよ、つぼ浦。」
青井の手から伝わって緊張しか無かったつぼ浦の中に幸福感や安心感が流れ込んできた。暫く沈黙が続き青井の方を見てみると、目を閉じてとても穏やかな表情でゆっくり流れる時間に身を任せている。と、その時丁度目が開いてバチッと合ってしまい、慌てて逸らした。青井はそんなつぼ浦がたまらなく愛おしくなって、頭をふんわりと撫でる。
「アオセン!?///…も、もう、良いっすか…」
「んーもうちょっとって言いたい所だけどつぼ浦が持たないか。ありがとね。どうだった?」
「どうって…どう…嬉しかった…」
「そっか、良かった。」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で呟いたのを青井は聞き逃さなかった。照れながらも素直に気持ちを言ってくれるのがとても可愛い。その後沈黙が流れたがもう付き合いたての気まずい雰囲気は無くなり、部屋全体が暖かい空気に包まれていた。
「…よしじゃあ帰るね、お邪魔しました。」
「あ、おぉ。」
余韻が続きまだ真っ赤な顔をしているつぼ浦が心配だ。やっぱりやめとけば良かったかと少し後悔した。
「ゆっくり休めよ。何かあったら連絡しろ?」
「大丈夫っすよ。アオセン心配症?」
「今のお前見てたら誰だってこうなるって。明日は出勤する?」
「するつもりっす。」
「じゃあ俺も。また明日ね。」