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地下の階段を下りて行く。
ふぅと深呼吸をして「STAR」のドアを開ける。
「いらっしゃいませー」
元気の良い蘭子ママさんの声が聞こえた。
「こんばんは!お久しぶりです!」
蘭子ママさん、やっぱり貫禄がすごい。
お化粧も着物も着ているんだけど、体格のせいかとても強そうに見える。
「あらぁ!久し振りね!!今日は一人!?」
「はい、一人で来ました」
笑顔で迎えてくれ、安心する。
カウンターに座らせてもらう。
チラッとお店を見渡し、椿さんの姿を探す。
「椿ね、今、お客様をお迎えに行っているのよ。もうちょっとで帰って来ると思うけど……。ごめんねぇ?」
「いえ。カシスオレンジいただいてもいいですか?」
「もちろん!」
あんまり飲み過ぎないようにしよう。前みたいに迷惑かけちゃう。
「あと、椿さんを指名したいんですけど……!」
蘭子ママさんに伝えたが、恥ずかしくなり顔は真っ赤だ。
蘭子ママさんは
「あら!一緒に暮らしているんじゃないの?指名なんかしなくても、家で会えるじゃない?」
周りの人に配慮して小声で話してくれた。
「あの、給料日だったんで生活費とか渡したかったんですけど、貰ってくれなくて。だから少しでも、蒼さん……じゃなくて椿さんとお店のためになればと思って……。指名したいんです」
私のお給料じゃ高いお酒とかは頼めないから、少しでもできることをしたい。
「まぁっ!!健気な子!蘭子さん、感激したわ!椿、喜ぶわよっ!?じゃあ、帰ってきたらそう伝えるわね?」
蘭子ママさんはご機嫌な様子で
「椿、桜ちゃんの顔見てどんな反応するのかしら?面白そうだわ」
私以上に椿さんの帰りを楽しみにしているようだった。
私はカシスオレンジを飲みながら、椿さんを待った。
その間は、蘭子ママさんや前に話をしてくれた桔梗さんが相手をしてくれた。初めて来た時はとても緊張したけど、今は話すことがとても楽しい。
<カラン>
ドアが開いた。
蒼さんかな?と思ったが、お客さんだった。
男女四人。私よりも少し年上の人たちだった。息抜きに来たのかな。
「いらっしゃい……」
蘭子ママさんの元気な声が途中で止まった。
「いらっしゃいませー。ご案内します」
と言い直し、蘭子ママさんの声に合わせてスタッフさんがテーブル席に案内をした。
蘭子ママさんの表情が変わった。
どうしたんだろう。
「あの、どうしたんですか?」
気になって訊いてみる。
「うーん。あのね、今来たお客さん、椿の例の同級生なのよ。向こうはわかっていないみたいだけど。椿、また具合が悪くなっちゃうんじゃないかと思って。どうしようかしら。お客さんには問題ないから、帰ってとも言えないし……」
「うーん」と悩む蘭子ママさん。
あの男の人が蒼さんの同級生。
蒼さんを虐めてた人。
そう考えるとイライラしてきた。
「蘭子ママ。あの人たち、椿を指名したいんだって。どうする?まだ椿、帰って来てないんだけど……」
えっ?椿さんを指名?
「なんでよりにもよって椿指名なのかしら?」
「この間、すごく綺麗な人が居たんだけど、途中で帰っちゃったみたいだから話をしてみたいんだって。女の子側からの要望よ?」
「でもね……」
そんな会話をしていた時だった。
<カラン>
入口のドアが開き、椿さんと一人のお客さんが入って来た。
「いらっしゃいませ!坂口様、お久しぶりです。ごめんなさいね。お迎えに行けなくて?」
この坂口さんって人は、蘭子ママさんのお客さんなんだ。
「いいよ。椿ちゃんが迎えに来てくれて、嬉しかった。綺麗な人と歩くのは久し振りだったから、緊張しちゃったよ」
柔らかい感じの人。
慣れた様子で坂口さんはカウンターに座った。
坂口さんの上着を椿さんが預かり、カウンターへ視線を向けた。
私と目が合う。
「えっ?桜!?」
「椿さーん!」
嬉しくて手を振ってしまった。
「どうしたの!?何かあった?」
慌てて駈け寄ってくれる椿さん。
あぁ、今日の椿さんも綺麗だな。
「いえ。私、椿さんに何もお礼が出来ていないから、せめてお店の売上に貢献できればと思って」
「桜ちゃんね、椿指名なのよ?」
蘭子ママさんが説明をしてくれる。
「びっくりした。無理しなくていいのに。でも……。会えて嬉しいわ」
椿さんは優しく私の頬に触れた。
あぁぁぁぁ!!ドキドキする。香水の良い匂いがする。
どうしてそんな色っぽいんだろう。
私が椿さんから目を離せないでいると
「ちょっと!こっちのテーブル、誰も来ないんですけど!」
そう大きな声が聞こえてきたのは、蒼さんの同級生が座っているテーブルだった。
「申し訳ございません。今からキャストが伺いますので……」
蘭子さんが声をかける。
椿さんもテーブルを見て気付いたようだった。
顔色が悪くなっている。
「椿さん、大丈夫ですか?顔色が……」
真っ青だ。
また発作とか起きたら……。