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バスロータリーを歩きながら、私はなにげなく後ろを振り返った。
無意識だったけど、もしかしたらお父さんへの気持ちがそうさせたのかもしれない。
『ミオ?』
呼ばれて振り向けば、レイは数歩先でこちらを見ていた。
『ごめん』
曖昧に笑って駆け寄る。
『……レイって、夜遅い日はなにしてるの?
拓海くんと図書館に行った帰りに、駅の向こう側で見かけたこともあって……』
なにか話さなきゃいけない気がして、思いつくままに言ったけど、言った後ではっとした。
もしかして……いや、きっとレイはリオンと会っていたんだろう。
……やっぱり、私は情緒不安定だ。
ほかの女の人と頻繁に会っていたのは、自分のためだったとしても辛い。
(けど、そう思うのは自分勝手だし……)
知らず知らずのうちに目線が落ちる。
レイはそんな私を見つめ、腕時計に目を移した。
『ねぇミオ。
共犯になる気、ある?』
『……え?』
聞き間違えたかと思ったのと、レイが目を細めて笑ったのは同時だった。
(今……なんて言った?)
レイは私の返事を待たずに、線路を挟んで家と反対側へ歩きだした。
『えっ、ま、待ってよレイ……!』
共犯ってなに?
まさか悪いことをしてたの?
『待ってよレイ、共犯ってなんのこと』
駅前から遠ざかっていくうちに、人通りがだんだん少なくなる。
『ねぇ、どこにいくの?』
リオンを見かけた路地を通り過ぎると、レイはある雑居ビルの前で足を止めた。
通りはまるで人の気配がない。
看板には居酒屋、スナック、カラオケなんかが書かれているけど、電気はついておらず、ビルの中も真っ暗だ。
恐るおそるレイを見やれば、彼は前を向いたまま、中に足を踏み入れた。
ビルの中はとても薄暗かった。
それだけで、私は入るのを躊躇してしまう。
だけどこんな場所からひとり帰るのも嫌で、私は慌ててレイの後を追った。
エレベーターは当然動いておらず、レイは突き当りの扉をあけ、外階段をあがりだした。
『ちょ、ちょっとレイ!』
レイは焦る私を一瞥しただけで、どんどん階段をあがっていく。
立ち止まる気配もなく、結局、私は彼に続いて階段の一番上まであがった。
最上階に着くころには、足取りも重く、完全に息があがっていた。
いったい何階まであがったんだろう。
額に流れる汗をぬぐい、荒い息をしながら、私はあたりを見渡した。
すぐ横には、店舗に続くドアがある。
けれどノブを回しても鍵がかかっていて中には入れない。
『ねぇ、なんでこんなところに来たの?
勝手に入っちゃだめなんじゃない?』
だれもいないとはいえ、きっとこれは不法侵入ってやつだ。
だいたい、来たところで中に入れないなら、なにしにここに来たんだろう。
『だから聞いたじゃん。共犯になる気ある?って』
『そんなこと言われても……!』
あの時はなにがなんだかわからなかったし、犯罪が絡んでたらと思うと気が気じゃなかった。
そうじゃないようでほっとした私に、レイは笑って『こっち』とドアとは反対側を指差した。
『え?』
そこにあったのは壁についたハシゴだった。
けどそれは、私の頭くらいの高さから上に続いている。
あがるなら、脚立かなにかでそこまであがるんだろうけど……。
『え、こっちって……』
まさかと思っていると、レイは腕の力を使い、上手にそのハシゴによじのぼった。
『えっ……レイ!』
予想外の行動に驚いたけど、当然私にそんなことできるはずもない。
おろおろしていると、レイはすぐに飛び降りてきた。
『ああやってハシゴをのぼって』
『そんなことできるわけないじゃん!』
私が言うやいなや、レイは私の腰を両手で掴み、大きく上へと抱き上げた。
『……わっ!』
『ほら、あがって』
『えぇ、ちょっとレイ……!』
なんとか足をかけ、ハシゴに掴まったはいいけど、ここから先どうすればいいの。
『そのまま行って。俺ものぼるから』
真下から言われ、飛び降りる選択肢もない私は、上にいくしかなくなった。
なにがなんだかわからないままハシゴをのぼり、なんとか屋上にたどり着くと、肩で息を何度も繰り返した。