michiruさんの『プロポーズの日』を読んで、発想したおはなし。
静かな夜中に突然目を覚ました。
起きるには早すぎるので、もう一度目を閉じようとする。
しかし、身体は疲れているのに、目だけは何故か異様に冴えてしまい、俺は仕方なしに起き出した。
🖤「おっと」
腕の中には愛しい人。
小さく寝息を立てて、安心しきって眠っている。そのさらさらの前髪に、口付けを落とした。そしてそのまま息を殺して起こさないように用心しながら、俺は寝床を出た。
一度ベランダに出て、まだ闇に横たわっている夜明け前の外の街を眺めてみた。車も通らぬ路地に目を落とす。目の端に映った街灯が、チカチカと消えかけては明滅を繰り返している。それ以外は不穏なものは何もなく、街はひっそりと朝の訪れを待っている。
🖤「静かだ」
あらゆる音を吸い込むような、静寂の朝の訪れを待つポケットのような時間に、俺はわざと抗おうと口に出してそう言ってみた。
暑い昼間に比べ、この時間の空気は湿って、ひんやりとしている。こんな中途半端な時間の独りぼっちの俺の言葉なんて、誰も聞いていなかった。なんだかそれがとても心地いい。
普段は人に囲まれ、人に見られる仕事をしているからだろうか。
そのせいで随分といい思いもしているし、逆に割に合わないような辛い目にも遭ってきた。そしてそんな俺と同じように、苦楽を共にしたメンバーたちがいる。そんな彼等の中に、俺のことを好きだと言ってくれる人が現れた。そしてその人は、今では俺にとってかけがえのない人へと変わっていた。こうして今も、ベッドの中で、可愛らしい寝息を立てて夢の中にいる愛しい人。
そんな彼のことを想い、俺はふと胸に熱を宿した。
どんな寂しい夜にも。今夜のようにはそばにいられない夜でも、俺は彼のことを想っている。
こんな感傷的な気分に浸ってしまうのは、こうして眠る間だけは、夢の中の彼の隣にいられないからだろうか。ここまで愛し、求めた相手は後にも先にも俺の人生に存在したことがなかった。
跪き、愛を誓って指輪を嵌めた時の、彼の驚き、喜ぶ顔を俺は忘れることができない。手を取られ俺を見下ろすその愛らしい瞳は、自然と流れた美しい涙に濡れていた。
🖤「戻ろう」
水を一口飲んでから、ベッドに戻り、さきほどと同じ体勢で眠る彼の髪をそっと撫でた。そして自分の左手の薬指を意識して見つめた。先日、時間差で彼に贈ってもらった指輪。こうして二人でいる時だけは必ず嵌めている俺たちの愛の証。
耳元で愛してるよ、と囁き、後ろから彼を包むと、抱きかかえるようにして、俺は彼の体温を頼りに再び目を閉じた。
おわり。
コメント
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おかわりー。 平和で2人だけの世界のめめあべを摂取して幸せである。
わあーーー素敵すぎる後日談😭✨