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「ねえ、あいちゃん」「怖がらないでって言ったよね?」

あいの手は無一郎の手の中で捕まれたまま、逃げられずに震えていた。

力なんて込めてないのに、抗うことはできない。

無一郎の手は細くて白くて美しい──だけど、その支配力はまるで鎖だった。

「あいちゃんの肌……すごくあったかいね」

「ここ、もしかして……敏感?」

無一郎の指が、あいの二の腕をそっとなぞる。

撫でるような、でもどこか距離のない触れ方。

そしてそのまま手は、鎖骨のあたりまで滑ってくる。

「こんなに柔らかいのに、どうしてそんなに震えてるの?」

「優しくしてるのに……怖いの? 僕が?」

耳元に息がかかる。

無一郎の唇が首筋すれすれに近づいて、そっと囁く。

「じゃあ、もっと優しくするね──あいちゃんが、もっと泣けるように」

彼の手が今度は太ももへ降りていく。

あいの呼吸が一瞬止まったのを、無一郎は見逃さない。

「あ……ここ、触られたの、初めて?」

「だいじょうぶ。僕、乱暴なことしないよ」

「ゆっくり、優しく──追い詰めてあげるから」

その言葉と同時に、太ももの内側をなぞる指先。

肌に触れるたび、あいの心が何かに削られていくようだった。

無一郎の目が細くなる。

甘く、穏やかな声。けれどその瞳は、完全に“おもちゃ”を見るものと同じだった。

「ほら、もう泣いてる」

「えらいね……すごく、きれいに泣けてる」

「壊れるのが楽しみだな……全部、僕のせいで」

あいは、逃げられなかった。

冷たくて優しい声が、肌の上を這う指とともに、心の奥を侵していく。

もしかしたら──優しい言葉ほど、恐ろしいものはないのかもしれない。

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