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柘榴とAI

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#探偵
橘靖竜
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#闇バイト
るしゅ
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――では、見つかった遺体は一体誰のものなのでしょうか?
カメラのフラッシュが、記者会見場を強く照らした。
中央に座るのは、吾妻グループ副会長、吾妻勇太。
隣には川尻弁護士、榊原秘書室長、その他の側近たちが鋭い目をしたまま並んでいる。
「それについては、私にもわかりません」
勇太は、少しも動揺した様子を見せなかった。
「どうして私の衣服が断崖の下で発見されたのか。なぜ、損傷した遺体が私のものだと判断されたのか。その詳細については、警察の正式な説明を待つべきだと思っています。ただ、こうして私がここにいる以上、何らかの誤認があったことは間違いありません」
――以前に比べ、かなりお痩せになったようですが、事故の後遺症でしょうか?
「先ほど申し上げたように、とある場所で療養しておりました。どこかはお伝えできません。ただ、とにかく私は生きていました」
勇太は淡々と言葉を続けた。
「今でも多少、記憶が曖昧です。感情をコントロールするのに苦労することもあります。しかしこれからは、家族と医療スタッフの力を借りながら回復に努めたいと思っています」
――記憶が曖昧となると、吾妻グループのトップとして業務に支障をきたしませんか?
「これが不思議なことに、職務の遂行においてはまったく問題ありません」
勇太はわずかに口角を上げた。
「むしろ、これまで以上に頭が冴えているとでも言いましょうか。具体的な話は省きますが、今後吾妻グループは大きな変革を迎えることになるでしょう。もちろん未来志向であり、良質な変化です。近いうちに、グループの将来に対する不安を一掃できるような発表をさせていただきます」
――お父さまである吾妻和志会長は現在植物状態であり、長男の勇太副会長も行方不明になっていました。そのため陰謀論だけでなく、吾妻家が悪質な遺伝子を持っているといった説まで流れました。その点についてはどう思われますか。
「父は少しずつではありますが、回復しています。そして私は、このとおり健康な姿で会見の場にいます。何より、弟である吾妻勇信は健康そのものです。陰謀論はさておき、悪性遺伝子説は容易に否定できるでしょう」
勇太は、記者席をゆっくり見渡した。
「まあ、しょせんは我がグループに恨みを持つ誰かが、面白半分にでっち上げた話でしょうね」
――グループ全体の株価が大幅に下落しました。株主の方々に一言お願いします。
「私はこうして生きております。早急にすべてを正常な状態に戻しますので、どうか心配せず、あと少しだけお待ちください」
――昨日行われた就任式で、勇太氏が式場に現れたとの話が流れています。式順からすると、弟である勇信氏がすでに副会長に就任した後ということになりますが、それについてはどう思われますか?
「私と勇信の間に、派閥争いなど一切ございません。単に、私のほうが副会長の職に向いているため就いている。そういうことです」
一瞬、会場の空気がこわばった。
勇太はすぐに言葉を足した。
「ああ……この表現では誤解を招きかねませんね。いずれにせよ、弟と私との信頼関係には一点の曇りもありません。そこはご安心ください」
――遺体が勇太氏のものでないことが明らかになったとなると、警察は大きな汚点を残すことになります。名誉毀損で訴える考えはおありですか? 現警察庁長官の菊田盛一郎氏は、吾妻和志会長の旧友としても知られていますが。
「現時点で何かを判断するのは時期尚早だと思います。まずは警察の公式発表を待ち、弁護士と相談したうえで対応します」
勇太はそう言い終え、川尻弁護士と短いアイコンタクトを取った。
川尻弁護士が立ち上がり、マイクを手に取る。
「弁護士の川尻です。現在、勇太氏はまだ治療中にあります。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっておりますので、本日の記者会見はここまでとさせていただきます。お集まりくださったメディアの皆さまに、深く感謝いたします」
「ああ、川尻弁護士。少しだけ待ってください」
勇太が静かに声をかけた。
「最後に、一言よろしいでしょうか」
川尻弁護士は、わずかに迷ってからマイクを譲った。
「昨夜は緊急の業務があったため、家族にはまだ直接会えていません。今テレビで私の無事を知り、混乱しているかもしれません。だから一言だけ」
勇太はカメラを見つめた。
「私は無事です。心配しないで、夜まで待っていてください」
勇太はそう言って立ち上がり、深々と頭を下げた。
カメラフラッシュが、勇太の全身を燦々と照らした。
*
約20分の短い記者会見だった。
「え……もう終わりなのかい?」
恵はティッシュで鼻をかみながら、CMに入ったテレビを見つめた。
「お母さんと美優ねえさん。会見の内容は、ちゃんと理解できましたか」
会見中、母と義理の姉があまりにすすり泣くため、記者の質問が聞こえないほどだった。
「ふたりとも、もう泣きやんでください。兄さんは夜には帰ってくるんですよ。腫れた顔で迎えるつもりですか」
「勇太さんが生きていたなんて、本当に夢のようです」
「美優ねえさん、これは現実です。これからすべてが元通りになります」
「はい。すごく幸せです」
美優は、娘のさくらを見つめながら言った。
「嬉しすぎて、今すぐ祝杯したいくらいだよ」
「お母さん、まだ療養中ですよ。アルコールなんて飲んだら倒れてしまいます」
「息子が帰ってきたのに、それくらいの自由もくれないのかい?」
「主治医の許可があれば、好きなだけ飲んでください」
「ああ、もう。わかったよ、わかったから」
恵は不満そうに、お粥へ手をつけた。
「お母さま。コーヒーをお飲みになられますか? 今晩のことについて、いろいろと相談もしたいですし」
美優が言った。
「そうしようかね」
ふたりは立ち上がり、リビングルームを離れた。
「勇信おじさん。もうおしごといっちゃうの? さくら、あそびたい」
さくらは、ポジティブマンの手を取って言った。
「ごめんね。今から会社に行かなきゃならないんだ。夜になったら、ちゃんとパパを連れて帰ってくるから待っててね。それと、あとでパパから電話するように言っておくよ」
ポジティブマンの明るい声を聞いた瞬間、さくらの表情が曇った。
「あのね、パパがね……。あ、ううん、なんでもない」
「どうした? 何か心配事があるなら、言ってごらん。何でも聞いてあげるから」
「なにもない……」
「何かあるね。いいから言ってごらん」
さくらの表情が、さらに曇っていく。
「あのね……んとね」
「おじさんが全部聞いてあげる。遠慮しなくていいよ。さあ」
さくらは、うつむいたまま言った。
「さっきテレビにでてた人。あれ……パパじゃない」
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