テラーノベル
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雑誌の撮影現場。休憩中、向井康二はいつものようにカメラを構え、ソファで仮眠をとろうとしていた渡辺翔太に絡みに行っていた。
「なぁ、しょっぴー! こっち向いてや! ええ顔してるで〜!」
「……お前、うっせぇ……」
「ええやん、一枚だけ! 笑顔ちょーだい!」
「……チッ」
渡辺は大きく舌打ちをすると、バシッと康二のカメラを持つ手を払いのけた。
「しつこい。今は寝かせろって言ってんだろ。空気読めよ」
虫の居所が悪かったのか、いつもより少しトゲのある声が出てしまった。
普段なら「えー、冷たいなぁ!」と笑って流す康二だが、今日は連日の疲れもあってか、その言葉が深く刺さってしまったらしい。
康二の動きがピタリと止まる。
カメラを下ろし、スッと目を伏せた。
「……あ、……ごめん」
いつもの明るい関西弁ではない、小さな標準語。
康二は逃げるようにその場を離れ、部屋の隅にあるパイプ椅子にちょこんと座り込み、膝を抱えて小さくなってしまった。
「…………」
気まずい沈黙。
渡辺は閉じていた目を薄く開け、隅っこで背中を丸めている康二を見た。
(……あ、やべ。言いすぎた……)
背中から漂う「しょぼん……」という効果音が見えるようだ。
あんなに懐いてきていた尻尾が、今は完全に丸まっている。
渡辺の胸に、強烈な罪悪感が込み上げた。
渡辺はガバッと起き上がると、迷わず康二の元へ歩み寄った。
「……おい、康二」
名前を呼ぶと、康二がビクッと肩を震わせ、恐る恐る顔を上げた。
その瞳は潤んでいて、捨てられた子犬そのものだった。
「……しょおた……ごめんなさい……」
「……っ、」
「俺、しつこかったな……休んでるとこ邪魔してごめん……」
消え入りそうな声での謝罪。
それが、渡辺翔太の理性を粉々に砕いた。
「……あーもう、違う!! お前は悪くねぇ!!」
渡辺は叫ぶと同時に、康二の腕を引いて無理やり立ち上がらせ、そのまま力任せに抱きしめた。
「……えっ、しょっぴー……?」
「俺が悪かった。八つ当たりした。……ごめん」
渡辺は康二の背中に腕を回し、これでもかというほど強く抱きしめる。
さっき払いのけた手を、今は愛おしそうに撫でている。
「……お前が静かだと、調子狂うんだよ」
「……でも、うるさいって……」
「うるさくていい。……お前の声が聞こえねーと、寂しいんだよ俺は」
渡辺は康二の肩に顔を埋め、普段なら絶対に言わないような甘い言葉を耳元で囁き続けた。
「……康二、こっち見ろ」
「……ん……」
康二が顔を上げると、渡辺は康二の涙ぐんだ目尻に、優しくキスを落とした。
「……っ!? しょ、しょっぴー!?」
「許せ。……機嫌直してくんねーと、俺が泣くぞ」
「えぇっ……」
目の前にいるのは、いつもの塩対応な渡辺翔太ではない。
ただの、康二のことが大好きでたまらない、甘々な彼氏だ。
「……写真、撮りてぇんだろ?」
「……うん……」
「じゃあ撮れよ。……ほら」
渡辺は康二の頬を手で包み込むと、至近距離で極上の笑顔を見せた。
そして、そのまま康二のおでこに自分のそれをコツンと合わせる。
「……康二のカメラにしか、こんな顔しねーから」
「……ずるい……っ、しょっぴー大好き……!」
「はいはい、知ってる。……俺のほうが好きだけどな」
康二は泣き笑いのような顔で、再び渡辺の胸に飛び込んだ。
塩対応が完全に溶けて、砂糖よりも甘くなった瞬間。
しょぼくれていた子犬は、再び尻尾をブンブン振って、大好きな飼い主にじゃれつくのだった。
next…だてこじ 1/6
コメント
5件
デレになる瞬間が最高すぎる! なべこじ…虜になっちゃうかも…
はぁあっ...💙🧡最高です😭😍