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第6算話 速さの壁
その日、ローリエは負ける前から少しだけ負けていた。
駄菓子屋の前の坂は、昼を越えると光の向きが変わる。
看板の影が短くなり、木の戸の傷が前よりはっきり見える。
ローリエは店先の箱の横で立ち止まり、かばんの中のそろばんを一度だけ触った。
まだ何も始まっていないのに、指が位置を確かめていた。
戸を開けると、いつものにおいがした。
甘い粉、紙箱、乾いたせんべい、少しだけ鉄っぽい缶のふた。
レジの向こうにはおばあちゃんがいる。
けれど今日は、その前に別の背中があった。
細い背中だった。
薄い灰色の上着が椅子の背にもたれきらず、肩のあたりだけが浮いている。
足は長く投げ出されているのに、落ち着いていない。
右足のつま先が、床の木目に合わせるみたいに小さく鳴っていた。
その音が、妙に速い。
ローリエが戸を閉めると、その背中がすぐ振り向いた。
黄緑寄りの明るい髪が、ふっと揺れる。
目が合ったのはほんの一瞬だったのに、見られたというより、通られた感じがした。
視線が止まる前に次へ行く。
そんな目だった。
「いらっしゃい、じゃないな」
その少年は椅子から立ち上がった。
立つ動きまで速い。
急いでいるわけではないのに、途中がない。
座っていたのが、次の瞬間にはもう立っている。
「この子がローリエ」
おばあちゃんがレジの奥から言う。
「そろばん教室の」
そこまで聞いて、少年が笑った。
「一位の」
ローリエはうなずかなかった。
でも否定もしなかった。
少年はその反応だけで、ふうん、と言った。
そのふうん、がもう少し長かったら嫌味になったかもしれない。
けれど短すぎて、ただの速い音になっていた。
「イオウ」
おばあちゃんが言う。
「今日は菓子じゃないんかい」
「見に来ただけ」
イオウはそう言って、レジの横のカンカンを指先で軽くつついた。
ふたには触れない。
でも触れたみたいに、そのすぐそばで止まる。
「こないだ、下の空き地でちょっと騒がしかったって聞いた」
ローリエの肩がほんの少しだけ固くなる。
「聞いただけ?」
「見てないよ。見てたら入ってる」
イオウはそう言って、笑った。
その笑い方は、明るいのに休まらない。
小石が斜面を先に転がる感じに似ていた。
「勝ったんだって?」
ローリエは、はい、とも言わずに、かばんを下ろした。
「運がよかっただけかも」
「へえ」
イオウはそれを聞くと、なぜか少し楽しそうな顔をした。
「そういう言い方するんだ」
ローリエは答えなかった。
おばあちゃんは黙ったまま、レジの上を布で拭いている。
何も言わない。
止めもしない。
それが少しだけ、嫌だった。
イオウはレジ横のそろばんへ目をやった。
店のそろばんではない。
自分で持ってきたものらしい。
薄い木枠。傷は少ない。珠の色も落ち着いている。
なのに、手がかかった形ではなく、すぐ走り出せるように置いてある。
「やる?」
言い方が軽い。
遊びに誘うみたいだった。
ローリエは、おばあちゃんを見た。
おばあちゃんは布をたたみ、脇へ置いただけだった。
「店の中はやめとき」
「じゃあ外」
イオウはもう戸へ向かっている。
返事を待つ形を残さない。
ローリエは一瞬だけ、断る言葉を探した。
まだ組めるようになったばかりだ。
空き地で一度勝っただけだ。
それに、相手がどういう手かも分からない。
でも、さっきの目を思い出した。
一位の、と言われた時の短い笑いも。
ローリエはかばんを持ち直した。
外へ出ると、坂の途中のひかりが少し傾いていた。
店の前の道は広くない。
下へ行けば石段、その横に少し開いた場所がある。
人は通る。
でも立ち止まれるだけの幅はあった。
イオウはその石段脇へ立った。
無造作に見える立ち方なのに、左右どちらにも流れやすい。
足の置き方がすでに速い。
「ここでいい」
ローリエも向かいに立つ。
店先の風が、看板の紐をひとつだけ鳴らした。
遠くで自転車が坂を上がる音がする。
それでも、ここだけ少し静かだった。
「べつに勝負ってほどじゃないけど」
イオウが言う。
「形だけね」
ローリエは、分かった、と返した。
その一言を出す間にも、頭の中ではもう順番が並び始めている。
相手の立ち位置。
足元の石。
坂の傾き。
風の向き。
自分の袋の中の珠。
何から入れるか。
どこで止めるか。
最上位から右へ。
左ほど構造。
右ほど結果。
イオウはその間に、もう珠を出していた。
軽い数字だ、とローリエは見た瞬間に分かった。
一から三。
速く、軽い。
連続で刻むための並び。
珠を入れる手がほとんど迷わない。
上から滑らせる。
下から押し上げる。
止める。
いや、止めているというより、止まる場所へ最短で届いている。
早い。
ローリエも袋へ手を入れる。
緑の玉、水色の玉、茶色のおはじき。
でも、そこで一瞬だけ迷う。
最初に何を置く。
相手が速いなら受ける形か。
いや、先に浅く押し返すか。
左を厚くするか。
右を軽くするか。
一瞬。
たぶん、それだけだった。
けれど、その一瞬のあいだに、イオウはもう弾いていた。
パチ、パチ、パチ。
短い。
軽い。
でも間がない。
三つの音が別々ではなく、ほとんど一本に聞こえる。
坂の脇の細かい砂が、先に踊った。
次に空気が浅く切れる。
見えるほど大きな現象ではない。
けれど、足元を払うには十分だった。
ローリエは反射で半歩下がる。
石段の端へ靴が触れ、細かい砂利が一粒落ちる。
速い。
速すぎるというより、考える前に来ている。
ローリエは上段へ玉を入れる。
少しだけ浅い。
直す。
下段へおはじき。
止める。
その間に、イオウの二発目。
今度は風のように細い。
でも風だけではない。
肌の表面だけを先に叩くみたいに、乾いた冷たさが制服の袖を鳴らした。
「遅い」
イオウが言う。
挑発ではない。
感想みたいに言う。
ローリエは歯を食いしばった。
弾く。
パチ。
出た。
小さく。
正しく。
石段の前に浅い揺れが立ち、イオウの足元へ向かう線が一本走る。
でも、イオウはもうそこにいなかった。
横へずれている。
一歩ですらない。
体の置き場所がもう変わっている。
「そこ読むの、好きでしょ」
笑いながら言う。
また珠が入る。
上段、下段、下段。
軽い。
速い。
止め方そのものは雑ではない。
むしろ、妙なくらい正確だ。
ローリエは息を整えようとした。
だが整える前に、三発目が来る。
細い衝き。
次に、浅い払い。
遅れて、足元へ砂の跳ね。
別々の現象なのに、全部がひとつの速さでつながっている。
軽い数字を続けているだけのはずなのに、切れ目が見えない。
ローリエは一つ受け、一つ避け、三つ目で肩を持っていかれた。
体勢が崩れる。
かばんが膝へ当たる。
遅れて、店先の箱ががたんと鳴った。
「っ……」
構造は見えている。
何をしているかは、分かる。
軽い数字を短く繋いで、隙を作らせない。
一撃の重さじゃなく、判断のすきまに入ってくる。
分かる。
でも、分かることと間に合うことが、同じじゃない。
ローリエは次の配置を考える。
左へ厚めに置いて流れを受けるか。
右へ浅い衝きを重ねて止めるか。
いや、相手は止まらない。
なら、予測して先へ置くか。
そこで、また一瞬だけ止まる。
止まった。
自分の中の考えが、一番いい形を探してしまう。
その一瞬に、イオウの四発目が入る。
パチパチパチ、と、今度はさらに短い。
音そのものが先に走り、遅れて現象が追ってくるみたいだった。
ローリエの足元の砂が左右へ裂ける。
片方を避ける。
もう片方に足を取られる。
大きなダメージではない。
でも、姿勢が遅れる。
「読むの遅くないんだよね」
イオウが言う。
「決めるのが遅い」
ローリエは返せなかった。
図星だった。
目は追っている。
構造も読める。
軽い数字を重ねて、右へ行く前にもう次を用意していることも分かる。
けれど、それに対して何を置くかを決めるところで、わずかに止まる。
その、わずかが長い。
ローリエは下段へおはじきを二つ入れようとして、一つ目を止め、二つ目の前で迷った。
受ける形を厚くするか、浅く返すか。
そこを選ぶ前に、イオウが前へ出る。
速い。
珠だけじゃない。
歩幅まで速い。
坂の傾きに合わせて、ほんの少しだけ上体を前へ流し、その勢いで珠を弾く。
だから、一歩と一打が同じところに来る。
「そこ、空く」
言葉と同時に、ローリエの右側へ軽い衝きが入る。
避ける。
けれど避けた先へ、次の払いがもう来ている。
肩が持っていかれ、ローリエは片膝をついた。
石段の角が膝へ硬く当たる。
一瞬、視界が揺れた。
店の戸が向こうに見える。
看板の紐が風で鳴る。
おばあちゃんの姿は戸の奥にある。
動かない。
見ている。
イオウはそれ以上追い詰めなかった。
一歩分だけ離れ、そろばんを持ったまま笑う。
「ほら」
軽い声。
「考えたでしょ、今」
ローリエは起き上がろうとした。
でも、膝が思ったよりすぐには立たない。
考えた。
その通りだった。
もっと正しい形がある気がしていた。
もっと無駄のない並びがある気がしていた。
相手の連打を受けきって、そこから押し返せる、きれいな形。
そういうものが頭の中にちらついた。
ちらついた間に、足元を割られた。
「一位ってさ」
イオウが石段の縁をつま先で軽く鳴らす。
「きれいに勝つんだよね」
ローリエは顔を上げた。
茶色の髪が頬にかかり、緑寄りの目が少しだけ細くなる。
イオウは肩をすくめる。
「こっちはさ、勝ってから整えるから」
その言葉に、ローリエの胸の奥が少しだけ冷えた。
勝ってから整える。
順番が逆だ。
逆なのに、目の前ではそれで押し切られている。
ローリエはゆっくり立ち上がった。
膝の土を払う。
そろばんを持ち直す。
まだ終わっていない。
たぶん、形だけなら。
でも、ここから取り返すには、また決めなきゃいけない。
受けるか、押すか、浅く返すか、崩すか。
その全部を考えている自分が、もう遅れている。
イオウはそれを見ている。
「まだやる?」
その聞き方に、ローリエは少しだけ口を開いた。
返事を出す前に、自分の手を見た。
指先は震えていない。
でも、次に何を入れるかで止まっている。
止まっている時点で、負けていた。
ローリエはそろばんを下ろした。
「……負け」
言うと、口の中に乾いた味が残った。
イオウは、あっさりと、そっか、とだけ言った。
嬉しそうでもなく、見下すでもなく、ただ本当に、そういう結果を受け取るみたいに。
それが余計に悔しかった。
「構造読むの、うまいよ」
イオウが言う。
「でも、読むのと殴るの別だから」
殴る、という言葉がこの坂道に似合わなくて、ローリエは少しだけ眉を寄せた。
イオウは気にしない。
「たぶん、考えすぎ」
その一言は、さっきの連打より深く入った。
ローリエは何も言えない。
反論を探した。
でも探すあいだに、その探し方自体がもう図星の証拠みたいで、余計に何も出なくなる。
イオウはそろばんを片手で軽く持ち上げた。
指先だけで扱っているのに、落ちる気配がない。
「軽いやつってさ、強くないんじゃなくて、待たないんだよ」
そう言って、珠をひとつ弾いた。
小さい音。
現象は出ない。
でも、その音の短さだけで十分だった。
待たない。
ローリエはその言葉を胸の中で繰り返した。
今まで、正しい式を組めば勝てる気がしていた。
崩れない構造を作って、処理順を守って、無駄のない形を置ければ、相手はどこかで崩れる。
そう思っていた。
それは間違っていない。
たぶん、間違ってはいない。
でも、その形が立つ前に来る相手がいる。
来てから考えるんじゃ遅い相手がいる。
イオウは戸の方へ向かいかけて、ふと思い出したように振り返った。
「おばあちゃん」
「なんだい」
「この子、次はたぶんもっと遅くなるよ」
ローリエの肩がぴくりと動く。
イオウは笑った。
「負けたあと、正しいの探し直すから」
言ってから、今度こそ店の戸を開けた。
中へ入る前に、風が黄緑寄りの髪をひとつ揺らす。
その背中は細いのに、どこか前へ倒れつづけているみたいに見えた。
戸が閉まる。
坂の音が戻る。
自転車のブレーキ。
遠くの鍋のふた。
どこかの家の戸が閉まる音。
それなのに、ローリエのまわりだけ、まだイオウの短い音が残っていた。
パチ、パチ、パチ。
切れ目のない軽さ。
ローリエは石段へ座った。
かばんを横に置く。
そろばんを膝の上へのせる。
さっき自分が組もうとしていた形を思い出す。
左を厚く。
右を浅く。
いや、その前に受ける流れを作って。
いや、それだと次が遅れて。
じゃあ軽く返して。
でもそれだと——
そこまで考えて、ローリエは手を止めた。
もう始まっている。
始まってもいないのに、次の正解を探し始めている。
それが遅さになる。
分かってしまった。
分かったことが、すぐ助けにならないのも分かってしまった。
戸がまた鳴る。
おばあちゃんが出てきた。
モカ色の割烹着の胸元を軽く押さえ、いつもの速度で石段のそばまで来る。
「ほれ」
紙のコップを差し出す。
中には薄い麦の色の茶が入っていた。
ローリエは受け取る。
まだ少し温かい。
「ありがとうございます」
「膝、打ったかい」
「ちょっと」
おばあちゃんは隣には座らず、一段上に立った。
その位置がちょうどよかった。
見下ろすわけでもなく、背中を押すわけでもない。
「速かったです」
ローリエが言うと、おばあちゃんは、うん、と返した。
「速いね」
「分かってたのに」
「うん」
「何してくるか、見えてたのに」
「うん」
その、うん、が重なるほど、ローリエの胸の内側が少しずつ痛くなる。
「なのに」
言葉の先が出なかった。
おばあちゃんは看板の紐を見たまま、静かに言う。
「見えてても、手が間に合わんことはあるよ」
ローリエはコップを握る。
紙が少しへこむ。
「正しく組めば勝てるって、思ってた」
口にした瞬間、その言葉が少し古く感じた。
今日の昼までの自分が持っていた言葉だ。
おばあちゃんは少しだけ黙ってから、言った。
「正しいのは、強いよ」
ローリエは顔を上げる。
「でも、立つまで待ってくれる相手ばっかじゃない」
風が、坂の下から上へ抜けた。
コップの茶の表面が細く揺れる。
ローリエは膝の上のそろばんを見る。
構造を読むのは嫌いじゃない。
順番を作るのも、処理を整えるのも好きだ。
古い機械へ遊びを移す時だって、合わないところを見つけて、そこを合わせていく時間はむしろ気持ちいい。
でも、戦いは、整うまで待ってくれない。
それが、今、膝の打ち身よりはっきり残っていた。
「ぼく」
ローリエは言う。
「最適解、探してました」
おばあちゃんは頷く。
「そう見えたよ」
「そこまで分かるんですか」
「考える顔しとった」
その言い方に、ローリエは少しだけ力なく笑った。
考える顔。
たぶん、出てしまうのだろう。
どこへ置くか。
どう返すか。
どれが一番崩れないか。
頭の中で並べている時の、自分の遅さが。
「悪いことじゃない」
おばあちゃんが言う。
「でも、選びすぎると空く」
空く。
その一言が、今日の負けをそのまま言っていた。
足元が空いた。
判断が空いた。
手が空いた。
イオウはそこへ入ってきた。
ローリエはコップの茶をひとくち飲んだ。
少しぬるい。
でも、そのぬるさが今はありがたかった。
「また来るかな」
「来るじゃろ」
「また負けるかも」
「そうかもね」
その答えがあまりにあっさりしていて、ローリエは少しだけ息を吐いた。
慰めるでもなく、脅すでもない。
ただ、そうかも、と置かれると、自分で次を考えるしかなくなる。
「でも」
おばあちゃんが言う。
「負け方が見えたなら、まだ進んどるよ」
ローリエはコップを持ったまま、黙った。
負け方。
確かに、ただ押し切られて終わったわけではない。
何が足りなかったか、少し見えている。
見えているから余計に悔しい。
「速さに勝つのって」
ローリエが言う。
「速さですか」
おばあちゃんは少しだけ首をかしげた。
「そうとも限らん」
それだけ言って、店の方へ戻りかける。
けれど、二歩目の前で止まる。
「ただ」
振り向かずに言う。
「正しいだけで勝とうとすると、たぶんまた遅い」
ローリエはその背中を見た。
灰色まじりの髪。
モカ色の割烹着。
小さいのに、動きの終わりが一度も揺れない。
戸が開いて、おばあちゃんは店へ戻る。
鳴った音が、すぐ静けさへまざる。
ローリエはしばらく石段に座ったまま、そろばんを見ていた。
珠は何も言わない。
でも、今日の負けはそのまま残っている気がした。
どこへ止めるかだけじゃ足りない。
何を捨てるかも決めなきゃいけない。
最適解を探しすぎる。
その言葉が、坂の風みたいに何度も戻ってくる。
ローリエはゆっくり立ち上がった。
かばんを持つ。
そろばんをしまう。
店の戸はすぐそこにある。
でも今日は、もう入らずに坂を下りた。
負けたあとの町は、少しだけ知らない形をしていた。
石段の幅。
用水路の音。
家と家のあいだの影。
全部見えているのに、前より少し速く動いて見える。
イオウのせいだ、と思った。
あの短い音が、まだ頭のどこかで刻んでいる。
パチ、パチ、パチ。
軽くて、早くて、待たない。
ローリエは坂を下りながら、自分の指を見た。
長い指。
止めるのは得意だ。
読むのも得意だ。
でも、決めるのが遅い。
それを認めた瞬間、胸の中で何かが少しだけずれた。
痛いほどではない。
でも、今まで真ん中だと思っていた場所が、少しだけ端へ寄る感じだった。
正しい式を組めば勝てる。
その言葉は、まだ完全には消えない。
消えないけれど、今日の坂の上では、それだけでは足りなかった。
だからたぶん、次はそこから始まる。
正しいより先に、置く。
きれいより先に、通す。
あるいは、正しいの形そのものを、もっと短くする。
まだ分からない。
分からないまま、ローリエは歩いた。
坂の下で、子どもたちの声が遠く聞こえる。
誰かが笑って、誰かが言い返す。
町はいつも通りなのに、自分の中の順番だけが少し変わってしまった気がした。
それでも、かばんの中のそろばんは静かだった。
静かなまま、次を待っていた。