力の強さでは太刀打ち出来ない類《たぐい》だ。
今まで神族だろうと悪魔であろうとも恐怖を感じることはなかった。しかし今回は精神にきそうな相手とのこと。そう聞くと、何だか思い悩んでしまいそうになる。
「あんた、国主の……イスティだろ?」
表情に出ていたのか、男のエルフが声をかけてきた。サンフィア以外のエルフとはこれまで話したことがなかったのだが、なぜ急に話しかけられるのか。
「おれはアック・イスティだ。イスティと名の付くのは他にもいるからアックと呼んでくれ。で、お前は?」
「ロクシュ・ウインド。ロクシュでいい」
「……おれに何か用でも?」
「ククッ、フィアが好むタイプのようだな! 人間にしては強気な所とか」
サンフィアも大概な言葉遣いではあるが、エルフは全般的にこうなのか?
「文句があるなら聞く。それとも何てことのない用か?」
「あんたは悪じゃなさそうだけど、これから向かう森域《しんいき》は人間がこれまでしてきた業《ごう》を味わうことになる場所だ。浮かない顔をして行くと必ず痛い目に遭う」
「貴族がしたことに関係することか?」
「いや、人間全てだ。あんたはまだ大人でもない。なのに――」
エルフは長命と聞いたことがあるとはいえ、見た目だけで判断すれば大して差は感じられない。それに男のエルフというより、サンフィア以外のエルフは魔法を使うことがないとみえる。彼らは特有の攻撃手段である弓と矢を使うはずだ。
その割には態度が大きいが。
「歳は関係無い。弱ければそれまでだ」
「へぇ……達観しているな。ここにいた他の貴族とはまるで違うみたいだな!」
「傲慢だったか?」
「滅亡させる程度には」
虐げられていたエルフに当時を知りもしないおれがどうこう言えることはない。どうやら直に話をしているだけで試しているらしいが、この男も悪い者ではないように思える。
「ウニャ! アック、明かりが近くなってきたのだ!」
「ふむ……もうすぐってことか」
張り切って前を歩くシーニャには、サンフィアがついている。シーニャが獣人ということもあってか、他のエルフも特に気にしてはいないようだ。
「あんた、魔法も剣もあらゆる強さを兼ね備えているんだってな?」
「悪いか?」
「いや、あんたは国主だからな。文句などつけようもない」
「じゃあ何が問題だ?」
「脆《もろ》さは見えないものだからな! 人間ってのは脆いって聞くぜ。あんたもそうなら、森域から出られ無いんじゃないかと心配してるだけだ」
遠回しの心配と試されのように聞こえる。エルフの長《おさ》からの洗礼が待っているのか、あるいは……。
とはいえ、何が出てくるかを心配しても仕方がない。明かりの先で判断すればいいだけのことだろう。
「我が夫、アック! 獣人の安全は我らが保証する! キサマは、自らの業に耐えてみせろ! そうすれば、我らは道を開くぞ!」
だいぶ近付いたのか、サンフィアが声を張り上げた。そして、どうやらおれだけがエルフの洗礼を受けるらしい。何が出てきても恐れはないが、何となくの想像は出来る。果たして思った通りのものが現れるかどうか、だ。
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