テラーノベル
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だめですよ、お腹に負担がかかりますから、さぁこちらに座って」
「ひゃぁっ!」
突然お姫様抱っこされて、トスンとベッドに寝かされていた。
「驚かせてしまったのなら、すみません。」
謝罪しながらも、がっちりとホールドした手は緩めない。
私は彼の腕を枕にして、囲い込むように抱きすくめられていた。
優しい手つきでお腹を撫でられて、安心する自分に驚く。
だって、こんな関係はよくない。
私は彼の名前すらしらない。
伯爵家の方だと知って、聞こうとしなかったから。
一夜の関係のつもりだったのに……。
きっと、貴族の矜持として責任を取ろうとしているだけ。彼が欲しいのは自分の血を受け継ぐこの子なのだろう。
こんな、町娘なんかと結婚するメリットなんてない。
婚姻届もフェイクだろう。
愛妾にならないかと言われるよりも、結婚しましょうと言われた方が浮かれて喜ぶとでも思っているのだろう。
庶民だからといって、軽く見られても困る。
愛妾になるくらいなら、一人でこの子を育てる道を選ぶ。
パン屋の給金だけでは正直苦しい。
でもパン屋のご主人も奥さんもとてもよくしてくれている。だからこそ、数年前両親を亡くしてからもなんとか今までやってこれた。
エディとの婚約が破棄されたと知った時は、それこそ殴り込みに行くのではないかというくらいに二人とも本気で怒ってくれた。
これ以上心配をかけたくないのに……
まさか妊娠してしまうなんて。
二人にどうやって説明したものか……。
はちみつ色の髪が顔に当たってくすぐったい。
「はぁ……」
「ふふ、私の顔を見つめてため息をつくなんて、ミア、あなたも罪な人ですね」
「ちがっ……ん⁉︎」
あまりにも突然の出来事で、頭が真っ白になる。
私の口は彼の唇によって塞がれていたから。
「な、な、何するんですか⁉︎」
腕枕をされた状態で、軽く口づけをしてくる彼。
これ以上奪われてなるものかと、彼の口元に手を当てる。
「あぁ、なかなかこれも倒錯的で興奮しますね。ミアの肌は柔らかくて心地いいです」
「そんなはずな……い……」
水仕事で手は荒れている。パン生地をこねるのは力がいるので、腕力もつくし手も固くなっている。
あまり間近で見られたくない。
私の上に覆い被さる姿勢で、妖艶な眼差しでみつめてくる。空色の瞳が徐々に熱を帯びてくる。
あの時と同じく私の体も徐々に火照っていく。
「随分余裕ですね?他のことに気を取られるなんて……妬けますね。あぁ、名乗るのが遅くなりましたが、私の名前はエリオットです、ミア」
「エリオット様……?」
あれ?なんだか聞き覚えがあるような……
あと少しで思い出せそうなのに。
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