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「ネクト」と呼んだ自分の記憶をさらっていくような風だった。初めから何も無かったかのように、優しく。
僕が彼の背に、語りかけることはなかった。
「それでそれで、それってどういう事なの? 」
「さっきから説明してるだろ?だから…」
僕は朝食を取りに行く途中、廊下で話すネイと会った。
「お、やっと起きたか!おはよ!」
彼は、何事も無かったかのように声を掛けてきた。
「あぁ、おはよ。ネイ」
彼の表情はいつも通り、明るかった。昨日のことなんて、まるで嘘みたいだ。
「あ、君が最近入った子か。ネイから聞いてるよ」
彼の隣で話していた男性だ。物腰の柔らかそうな印象だ。
「初めまして」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。俺は、ネクトって言うんだ」
ネクト…?僕は、朝のぼやけたな脳内の中に、鋭いイナズマでも走ったようだった。
「ネクト」
その響きに、昨日の記憶に引き戻される。僕が、口から発した名前のはずだった。それも、ネイに向けて言ったはずの…。
「おーい、どうした?」
視界で何かが揺れていた。気付くと、僕の焦点を戻そうと、手を振るネイがいた。
「自分、何か変なことでも言ったかな」
ネクトと呼ばれる男性は、困った表情で笑った。
「あ、いえ、その…なんだか似ているなと思って」
「何が?」
ネイの問いかけに、うっかり素直に答えそうになる。しかし、彼の顔は余裕のない顔をしているのに気が付いた。それは、僕の言葉から余計なものが出てこないか、見張るような目付きだった。
「名前が。名前が、似ているなと思って…」
恐る恐る答えてみる。ネイの気迫に圧倒され、声も自然と小さくなっていった。まるで、僕だけこの空間に埋もれていくように。
「あぁ、そういう事か。ネイと似ているなんて言われるのは心外だから、びっくりしたよ」
「なんだよ、それ!酷くないか!」
二人は、まるで兄弟のような空気感だった。兄弟…。そうだ、本当は名前が似ていると言いたかった訳じゃない。たぶん、この二人は本当の兄弟なんだ。
「もう、ネクトってばいっつも俺を見下してるんだから」
「いやいや、そんな事は無いよ。同一ではないって言いたかったんだよ」
ネイもネクトさんも、同じ銀髪だ。心做しか、表情も顔立ちも似ている気がする。
「まあ、よろしく頼むよ。俺は、ネクトだから。似ているかもしれないけど、間違えないように」
まるで、僕の心を見透かすように言う、ネクトさん。笑っているように見えるが、冷たい眼差しを感じるのは気のせいではないはず。きっと、ネイと同じ、僕が余計な事を言わないための釘さしだろう。
二人には、何か隠し事がある。僕は、そう感じた。