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夢を見た。
暗くて広い空間に、俺と、子供の頃の自分がいて、話をする夢。
『いい加減受け止めなよ。母さん達は死んだ。あいつも全てを忘れた。それが今だろ』
子供らしくない、冷めたような口調。
すぐに、こいつは俺の生写しだと思った。
「……知ってる」
『じゃあ、なんで怪盗なんてしてんの? ろくに訓練も何もしてこなかったくせに』
「復讐の為」
『なんで復讐なんてするの?』
「母さん達を救う為」
子供の自分の質問に、淡々と答えていく。
『本当にそれで救われると思ってんの?』
「は……?」
『もしも復讐ができたとして、それでみんなが救われる? ただのエゴじゃないの?』
「っ……!」
『救われるか救われないかなんて、その人にしか分からない。でも、その人達はもういない。じゃあ、俺がやってることに意味ってあるの?』
「意味……?」
そんなこと、考えたことなかった。
あいつの言ってることは、きっと正しい。
俺が……俺達が、怪盗をやってる意味は何なのか……。
『それに……俺が救うものは、もっと別にあると思うんだけど』
「……彩莉のこと?」
まず思い浮かんだのは、彩莉だった。
『はあ……頭は良くても、本当にバカだよな、お前』
呆れたように、ため息を吐かれる。
“バカ”なんて言われたのは、これが初めてだ。
『もっとすぐ近くにいるだろ。……もう、いい加減気づけよ……』
最後は、少し掠れた声でそう言われる。
……まるで、『救ってくれ』とでも言うように。
俺が救うべきものは、一体何なんだ?
「……バカだから分かんねぇよ」
『だろうな。知ってるよ』
夢の中でこいつは、一切笑わなかった。
にこりともせず、ただ無表情。
俺だった。
だけど……明らかな、違和感を感じた。
『そろそろ終わり。じゃあな』
真っ暗なこの空間に、少しだけ光が差してきた。
後ろを振り向いて、俺が去っていく。
「……またな」
さよならも言わずに、“また”と次の約束を一方的に取りつけてしまった。
……この夢は、一体何だったのか。
子供の俺は、何を伝えたかったのか。
真冬が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ぼんやりと考える。
(……救うものは、もっとすぐ近くに……)
思い浮かんだのは、昔の真冬の笑顔。
もう全く見なくなった、あの純粋な笑顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
俺が救うものは、真冬なのか?
……いまいち、しっくりこない。
《もっとすぐ近くにいるだろ》
不意に、夢に出てきたあいつの声が聞こえた気がした。
彩莉よりも、真冬よりも、もっと近く?
(…………分かってる)
本当は誰のことなのか。
でも、知らないふりをしてるんだ。
知りたくないから、気づかないふりをして。
そうしないと、それが壊れてしまう気がした。
(分かってるけどっ……)
胸が締め付けられる感覚がして、思わず、表情を少し歪ませた。
知りたくない、気づきたくない。
……気づいちゃ、いけない。
俺は、誰を救えば良い??
……。
…………。
………………分からない。
分からないなら、救えないよな。
じゃあ、救わなくていいだろ。
救えないんだから、仕方ない。
自分の中で、そう結論づけた。
この胸の痛みも、息苦しさも、知らない。
俺は、別にやることがあるんだ。
「ソラ。次のターゲット、何にする?」
いつも通り、ユキにそう聞かれる。
ほら、俺にはやらなきゃいけないことがある。
「次は……、」
次の俺達のターゲットは、前から目を付けていた宝石だ。
作戦も、大まかなところまで練っているものがある。
それを、伝えないと。
「……っ……」
伝えないと、いけないのに……。
何故か、声が詰まって出ない。
言いたくないわけじゃない。
……はずだ。
「ソラ?」
真冬にそう呼ばれて、はっとする。
「、何でもない。次のターゲットは──」
赤と青の二つの線。
何だか、ユキとソラみたいだ。
『ボクは、“兄さん”を信じるよ』
通信機越しに、真冬の声が聞こえる。
(……あぁ、そうか)
ふと、あの時夢に出てきた俺の正体が、分かった気がした。
子供の姿をした俺も、今の俺も、本当の自分じゃない。
お前の正体は、過去に囚われたままの、『ソラ』だったんだ。
(……なら、切るべきなのはこっちだよな)
元々、赤を切るつもりはなかったけど。
青の線に、ハサミの刃をあてがう。
(やっと分かったよ)
自分の死が迫っているにも関わらず、不思議と怖さはなかった。
(もう、“また”は言わない)
パチンッ
──じゃあな、ソラ。
“俺”に気づかせてくれて、ありがとう。
そよよです。
番外編二話目は、時雨桜の裏方担当である、ソラ(そらるさん)のお話でした。
この話は、本編の『ずっと辛かった』に少しだけ出した、ソラが見たという夢の話で、最後の方は本編に繋げてみました。
元々こっちを先に書いていて、それを本編に少しだけ組み込んだ、って感じですね。
多分、本編の話にこれを合わせて読むと分かりやすいと思います。
ちなみに、途中は番外のユキ編と少し繋がっています。
本編でソラが切った爆弾のコードについて、どちらを切ったのかと、切った理由を深掘りした話にしてみましたが、いかがでしたでしょうか。
次のお話は、ブラッドムーンのウィズ編になります。
それではまた次のお話で。
おつそよ!