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怪盗時雨桜 〜それぞれの想い〜

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怪盗時雨桜 〜それぞれの想い〜

2 - 「もっと近くに」 時雨桜 ソラ編

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2022年09月17日

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夢を見た。


暗くて広い空間に、俺と、子供の頃の自分がいて、話をする夢。


『いい加減受け止めなよ。母さん達は死んだ。あいつも全てを忘れた。それが今だろ』


子供らしくない、冷めたような口調。


すぐに、こいつは俺の生写しだと思った。


「……知ってる」


『じゃあ、なんで怪盗なんてしてんの? ろくに訓練も何もしてこなかったくせに』


「復讐の為」


『なんで復讐なんてするの?』


「母さん達を救う為」


子供の自分の質問に、淡々と答えていく。


『本当にそれで救われると思ってんの?』


「は……?」


『もしも復讐ができたとして、それでみんなが救われる? ただのエゴじゃないの?』


「っ……!」


『救われるか救われないかなんて、その人にしか分からない。でも、その人達はもういない。じゃあ、俺がやってることに意味ってあるの?』


「意味……?」


そんなこと、考えたことなかった。


あいつの言ってることは、きっと正しい。


俺が……俺達が、怪盗をやってる意味は何なのか……。


『それに……俺が救うものは、もっと別にあると思うんだけど』


「……彩莉のこと?」


まず思い浮かんだのは、彩莉だった。


『はあ……頭は良くても、本当にバカだよな、お前』


呆れたように、ため息を吐かれる。


“バカ”なんて言われたのは、これが初めてだ。


『もっとすぐ近くにいるだろ。……もう、いい加減気づけよ……』


最後は、少し掠れた声でそう言われる。


……まるで、『救ってくれ』とでも言うように。


俺が救うべきものは、一体何なんだ?


「……バカだから分かんねぇよ」


『だろうな。知ってるよ』


夢の中でこいつは、一切笑わなかった。


にこりともせず、ただ無表情。


??だった。


だけど……明らかな、違和感を感じた。


『そろそろ終わり。じゃあな』


真っ暗なこの空間に、少しだけ光が差してきた。


後ろを振り向いて、俺が去っていく。


「……またな」


さよならも言わずに、“また”と次の約束を一方的に取りつけてしまった。




……この夢は、一体何だったのか。


子供の俺は、何を伝えたかったのか。


真冬が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ぼんやりと考える。


(……救うものは、もっとすぐ近くに……)


思い浮かんだのは、昔の真冬の笑顔。


もう全く見なくなった、あの純粋な笑顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。


俺が救うものは、真冬なのか?


……いまいち、しっくりこない。



《もっとすぐ近くにいるだろ》



不意に、夢に出てきたあいつの声が聞こえた気がした。


彩莉よりも、真冬よりも、もっと近く?


(…………分かってる)


本当は誰のことなのか。


でも、知らないふりをしてるんだ。


知りたくないから、気づかないふりをして。


そうしないと、それが壊れてしまう気がした。


(分かってるけどっ……)


胸が締め付けられる感覚がして、思わず、表情を少し歪ませた。


知りたくない、気づきたくない。


……気づいちゃ、いけない。


俺は、誰を救えば良い??


……。


…………。


………………分からない。


分からないなら、救えないよな。


じゃあ、救わなくていいだろ。


救えないんだから、仕方ない。


自分の中で、そう結論づけた。


この胸の痛みも、息苦しさも、知らない。


俺は、別にやることがあるんだ。


「ソラ。次のターゲット、何にする?」


いつも通り、ユキにそう聞かれる。


ほら、俺にはやらなきゃいけないことがある。


「次は……、」


次の俺達のターゲットは、前から目を付けていた宝石だ。


作戦も、大まかなところまで練っているものがある。


それを、伝えないと。


「……っ……」


伝えないと、いけないのに……。


何故か、声が詰まって出ない。


言いたくないわけじゃない。


……はずだ。


「ソラ?」


真冬にそう呼ばれて、はっとする。


「、何でもない。次のターゲットは──」




赤と青の二つの線。


何だか、ユキとソラみたいだ。


『ボクは、“兄さん”を信じるよ』


通信機越しに、真冬の声が聞こえる。


(……あぁ、そうか)


ふと、あの時夢に出てきた俺の正体が、分かった気がした。


子供の姿をした俺も、今の俺も、本当の自分じゃない。


お前の正体は、過去に囚われたままの、『ソラ』だったんだ。


(……なら、切るべきなのはこっちだよな)


元々、真冬を切るつもりはなかったけど。


ソラの線に、ハサミの刃をあてがう。


(やっと分かったよ)


自分の死が迫っているにも関わらず、不思議と怖さはなかった。


(もう、“また”は言わない)



パチンッ





──じゃあな、ソラ。


彼方”に気づかせてくれて、ありがとう。




そよよです。


番外編二話目は、時雨桜の裏方担当である、ソラ(そらるさん)のお話でした。


この話は、本編の『ずっと辛かった』に少しだけ出した、ソラが見たという夢の話で、最後の方は本編に繋げてみました。


元々こっちを先に書いていて、それを本編に少しだけ組み込んだ、って感じですね。


多分、本編の話にこれを合わせて読むと分かりやすいと思います。


ちなみに、途中は番外のユキ編と少し繋がっています。


本編でソラが切った爆弾のコードについて、どちらを切ったのかと、切った理由を深掘りした話にしてみましたが、いかがでしたでしょうか。


次のお話は、ブラッドムーンのウィズ編になります。


それではまた次のお話で。


おつそよ!

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