テラーノベル
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「お、お前!」
京太郎が、秋山男爵へ歩み寄ろうと踏み出した。
とっさに中村がそれを制する。
「これは、秋山男爵様……」
「どうされました?中村支配人。元気がないですなあ」
「……」
秋山男爵の余裕ある態度に中村は押された。言葉なく佇むだけだった。
「何やら、騒ぎが起きているようで。お咲ちゃん?大丈夫なのかな?」
秋山男爵は新聞を突き出してくる。
「……私なら、この騒ぎを収めることができますよ?ただし、お咲ちゃん次第だけどね」
笑みを浮かべたまま咲子へ視線を向けた。
「騒ぎも何も!てめぇが!」
怒る京太郎を中村が押さえる。
「おや、岩崎男爵のご子息じゃないですか。奇遇ですなぁ」
「あの!男爵様!」
咲子がさっと立ち上がり秋山男爵を見据えた。
「私次第とおっしゃいましたね?」
「そうです。誰を選ぶか……いや、誰が守れるか……あなたならわかりますよねぇ」
秋山男爵が、空々しく口角を上げる。
「……わかります……」
「そうでなくちゃ。お咲ちゃん」
静かに答えるお咲へ、秋山男爵は勝ち誇ったように言う。
「まあ、良く考えてください。また来ますから」
ほくそ笑みながら秋山男爵は踵を返すが、
「……君には荷が重すぎたようだね」
京太郎へチクリと嫌味のようなことを言い、勝者は自分だとばかりに高笑いながら去って行った。
「あいつ!!」
「落ち着け!京太郎!」
荒れる京太郎を中村はなだめようとしているが、その瞳は怒りに燃えている。
「中村のおっさん!いいのかよ!」
「わかってる!」
「わかってるなら、なんとかしろよっ!」
京太郎が、腹立ちまぎれに中村へ掴みかかった。
「……それよりもお咲だろ。違うか?」
楽屋口から落ち着いた声がする。
いつの間にか岩崎がそこにいた。
「少し心配になってな。覗きに来た。話は聞かせてもらった」
岩崎は思いつめた様子の咲子をちらりと見た。
「……お咲、余計なことを考えているんじゃないだろうな?」
図星だったのか、咲子は黙り込んだ。
「……どういうことだ……お咲!」
京太郎がせめぎ寄る。
「わ、私が……私が男爵の所へ行ったら……全部解決するんです。劇場だって支配人だって困らない……」
「何言ってる!馬鹿なことを言うな!」
京太郎は、半ば自暴自棄になっている咲子の肩を掴む。我に戻って欲しかったのだ。
「わ、私!」
咲子は、胸の内を吐き出すように、涙を流す。
京太郎の胸は締め付けられた。
「お咲!行くなっ!」
それだけ言って、京太郎は咲子を抱きしめる。
とたんに、咲子の泣き声が漏れ出した。抱きとめられ心の枷が崩れたのか、咲子は京太郎の胸に顔を埋めて大泣きした。
「……どこにも行かせねえ!」
京太郎が呟く。
「……中村」
岩崎が目配せする。
「ああ、わかってる」
中村も承知する。
「……やはりあの男爵を調べる必要があるな」
「岩崎、動くか」
「もともと評判がいい男ではないのだろう?……探れば何か出るはずだ」
岩崎の言葉に、中村は静かに頷いた。
芙月みひろ
280
#普通
野々さくら
57
#女主人公
コメント
1件
井川奎さん、第11話読みました! 秋山男爵の余裕綽々な態度が本当にムカつきますね…。でも咲子が「私が行けば済む」と自暴自棄になるところ、胸が締め付けられました。京太郎が「行くな」って抱きしめるシーン、グッときましたよ。 岩崎と中村が男爵を調べると動き出したのも熱いです。この一触即発の空気感、好きです。続きが気になります!