テラーノベル
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特に言うことはありません!!!!!!!!どうぞ!!!!!!!!!
国籍がどこにもなくなってから、僕は、当て所なく日本各地を歩いた。
食べる物も飲む物もなかったけれど、飢えも渇きも感じなかった。
焼け野原を進み行き、途中で何人かの朝鮮人とすれ違った。誰も彼も、不安でいっぱいの顔をしていた。
復興を目指す人達が、建物を建て直し、平和だったあの頃と同じ生活をしようと身をすり減らして働いていた。
うつむいて、ところどころ煉瓦の抜けた道を進んでいた時、ふと、目の端に懐かしい風景が見えた。
はっとして顔を上げると、そこは予想通りの場所だった。
川にかかった、一本の太い橋。都の中心。
「日本橋……」
日本橋の前、今立っている、まさにこの場所は、十何年か前に、一度だけ、日帝さんに連れられて来たところだ。その時、日帝さんは、「日本の中心のような場所だ」と、初めて、僕の前で誇らしげな顔を見せた。
その時は、どこが誇らしいのかわからなかったが、今では、なんとなく分かるような気がした。
果てしない荒野の真ん中に、堂々と聳える橋。戦後でも、どこか輝いて見える橋は、僕とは正反対の存在に見えた。
その日本橋の前で、僕はひざまずいた。なんだかもう、なにもかも、どうでもよくなってしまった。
「南韓!!!!」
突然、興奮したような鋭い声が、僕の名を呼んだ。
僕は、振り返りもせずに、声の主が駆け寄って来る音を聞いていた。
「南韓………」
声の主は、やや上擦った声で、僕に話しかけてきた。
「父上……日帝がどうなったか、知りたいか?」
顔を上げると、太平洋で長年刃をふるった、あの彼にそっくりの、赤色の瞳が目に入った。
僕は、初めてこの目で見た、日帝さんの継承者に、無気力で答えた。
「………知れるなら、知りたい……」
熱いコーヒーを手に、僕らは「日本」の家で語った。その場の空気は、想像を絶するほど重かった。
コーヒーの温かみだけが、まだ平和だった。
日本は、日帝さんが一人で家を出て行ってしまったこと、だから生きているのかも死んでいるのかもわからないということを事細かに説明してくれた。
「じゃあ、日帝さんは……」
「そう。きっと、まだ死んでない。でも、どこに行ったのか、わからないんだ。少なくとも、おれにはね。ふらっと、どこかに行っちゃってさ」
日本は、僕に心配をさせたくないのか、辛い心境だろうに、無理に笑顔を作って言った。
こういう無理するところは、まるで日帝さんの生き写しだ。その紅の瞳を、僕は見つめた。
「それでも、日帝さんは、もう死ぬんでしょ……?」
「……うん」
「じゃあ、もう会えない……」
僕は、またうつむいた。日本は、そんな僕を慰めるように、声を上げた。
「何十年か経ったら、また会えるよ。国は終わらないんだからさ。あと、お盆には帰ってくるよ」
「違う……もう、僕は、日帝さんに助けてもらえないでしょ……?僕を助けてくれる日帝さんには、もう会えないんだ……」
日本は、ぐっと詰まった。
日本も、きっと同じことを思っていたんだろう。苦しそうに顔をゆがませていた。
「そうだね。もう、おれも、おれを助けてくれる父に会うことはできないよ……。
それに、おれはもう、朝鮮半島の保有に関わることはないしね。君はもう、“日本”に助けてもらうことはできないんだもんね」
「……勝ってくれればよかったのに。
負けたことは悔しいのに、負けたことが嬉しくて、負けたと思ってるのに、勝ったと思ってて、日本に近づきたいのに、日本から離れたい自分がいるんだ……」
僕の中の気持ちは、いつも対立しているんだ。なにをするにあたっても、思うことと反対のことに、はばまれてしまう。
僕は自分自身に、団結力がないんだ。
だから、どうしようも……どうしようも………
「お前は、どうしたいんだ?」
もう、何度も何度も、自分に問うてきた質問が、唐突に、耳を貫いてきた。
「どうもできないじゃないか……」
「じゃあ、同胞に帰る場所を作ってやらなくていいのか?」
日本の声に初めて、僕に対して、僕の責任を問う響きが加わった。
「………」
「おれには、お前を助けてやれる方法があるぜ。くれてやろうか?おれにはもういらないものだ」
僕の背中を押すように、日本はわざと煽るように言った。
「……いや、いい」
日本の言葉に、ここ何日も、心の中でもやもやしていたものが、日本への衝動的な反感と共に、いきなり吹っ切れた気がした。
僕は、ぱっと立ち上がった。そして、日本の、なにもかも射抜くようなその目を、怯まずに真っ直ぐと見すえた。
「いい。僕一人でなんとかできる。
「おれ」は、もうお前に左右なんてされねぇんだ」
「おれ」は、お前から永遠に離れて、国になる。
日本は、なにも言わなかった。否定しなかった。
無言の微笑みが、おれの言葉を認めてくれたことを、ただそれだけ、示していた。
ふいに、ずきりと、鋭い痛みが、頬に走った。
思わず顔をしかめたが、すぐに片手で顔を拭って、真顔に戻した。
壁に立てかけられた姿見に、頬にあったはずの日の丸の旗の刺青が、綺麗さっぱり消えた自分が写った。
それは、今この瞬間、南韓が実に何十年ぶりに、日本という国から逃れられたことをはっきりと表していた。
コーヒーの香りが、変わらずその場を、唯一無二の温かみで埋め尽くしていた。
「どうする?どれがいい?」
(どれでもいいよ……そんなの)
「おれは、これがいいと思うけど」
(なんだよそれ、お前の眼帯と同じだろうが……)
「はは、冗談だよ」
(お前は、僕を捕まえてなにがしたいんだよ……)
「おれがなにをするのか、気になってるんだろう?」
(心読めんのかよ、気持ち悪い)
「答えてやろう。南下するんだ」
(はぁ?南下?こっちに?本当に自分勝手なやつだな、クソが)
「で、いい加減決めろよ、どれにするんだよ」
(右眼が抉れたからって、眼帯なんてほしかねぇよ)
死んでも当てにしないようにしていたのに、僕の目は、ある一点でピタリと止まった。
それがほしい。なぜかそう思った。それは、ただの運命にしては、この先のことを考えるととても言えない出会いだった。
僕は、静かに口を開いた。
「じゃあ……わかった。 その赤星のやつでいい」
「ふっwお前らしいな……北韓」
恐ろしいほどに美しい、満天の星空の下。またたく星が、見事な星座を創りあげている。
星達が空で遊ぶ、美しさと無邪気に包まれた世界で、彼はたった一人、ため息のような独り言を呟いた。
「なぁ、聞いてくれ、ただの独り言を。どんな世界のどこの誰でもいいからさ」
手放したはずの武器を、彼はもう一度組み立て直した。
カチャカチャと、聞き慣れた金属音が、耳に響いた。
「弟達を死なせてな。散々に失敗してな。そろそろ死ぬんだぜ。一人でだよ」
彼は、その顔に、ふっと、諦めたような笑顔を浮かべた。そうして、静かに天を仰いだ。
「ああ、いい空だ。ここに、海があったら完璧だったな!三兄弟!全員そこにいただろう。
なぁ、今から、ソ連が南下してくるんだって!!!だから、おれがもう一度この手を血に染めることを許せよ、戦勝国ども!!!!!」
晴れやかな顔で、彼は武器を手に取った。その顔は、これから起こることが本当に楽しみな少年のようだった。
「ここで食い止めなきゃ、北海道が終わるんだよ!!北海道を終わらせるぐらいなら、おれは、死んでも食い止める!!!死ぬまで、死ぬまでここでソ連を受け止めるぞ!!!!」
高らかに、だが、酷く悲痛な声で宣言した後で、彼は俯いた。
「ああ、いい気持ちだ。もう、こらえなくて済む。もう死ぬんだからな」
荒野で一人、彼は泣いた。思いっきり泣いた。息が苦しくなるまで泣いた。
ここには、誰もいない。誰も彼を見てなんかいない。植民地も、全部手放した。
もう、誰に涙を見られてもいい。泣け、自分。泣くんだ。
さぁ、最後の戦いだろう?ほら、立ち上がれよ。その泣き面上げてさ。
戦え。戦え。思いっきり戦え。この命尽きるまで。
広く果てしない荒野の向こうに、鎌と槌の眼帯をした、赤い影が見えた。
まあまあ短かった気がしてる。だけ。そんなことないかも。
詳しい解説が見たい方はぜひ↓説明が不十分かもしれませんが。
南韓が、日本各地を巡っていたのは、国籍がなくなって行く場所がなかったからです。
日本の、「助けてやれる」という言葉は、その時、日本に、大韓帝国だったかなんだったかの皇帝一族の李さん(だっけ?)が、まだいたので、「国を作ることができる人材がまだここにいますよ」と、日本政府が呼びかけていたからですね。でも、韓国の初代大統領(多分)が、そんな奴いらねぇよって言ったので、それが南韓が「僕一人でできる」と言ったことに由来しています。
最後の日帝さんの話は、戦後にソビエト連邦が日本に乗り込んで来て、軍力を行使した時に、死ぬまで北海道を守ろうとした兵隊さん達のお話を元にしています。戦争に負けると、敗戦国は武装解除して、もう戦う意志がないことを表明するのですが、ここで戦わないと、北海道がやられる!ということで、もう一度武器を組み立て直して戦ったらしいです。ちなみに、その時南樺太も日本が統治してたのですが、南樺太の郵便局だったかの方は、日本を守るために、敵に殺されるその瞬間まで、日本本部にソ連の南下を電報していたそうです。ひゃ〜、泣ける!!
このお話をまとめた本もあるので、ぜひ読んでみてください。
私の祖父は、国籍がなくて、どうすればいいのかと思っている間に、どんどん日本人が元植民地から逃げ帰って来て、そのごった返しのわちゃわちゃの中にいたくなくて、一人で韓国に帰ったらしいです。多分、父の「我が道を行くスタイル」は、祖父からもらったんだな……(呆
次回は、この祖父の南韓帰りに模して、現韓国さん、南韓に帰ります。頑張れ〜🙃
うみうし@ロシアとカナダ推し
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コメント
1件
うわ、めっちゃ重い……でも、すごく引き込まれた。特に「助けてやれる」って日本が差し出したものを、南韓が「僕一人でできる」って拒むシーン、背筋が伸びる感じがした。あと、最後の日帝の独り言と「死ぬまで食い止める」って叫び、もう泣きそうになったよ……。歴史の傷跡が生々しくて、設定の重みをひしひし感じた。続き、すごく気になる。