ミルシェの言うとおり、壁面に埋め込まれている魔石が進むにつれ減ってきた。しかし魔石から発せられている光のせいで、昼か夜かの感覚が分からなくなっている。
少なくともレイウルムに来た時点では昼間だった。そこからの距離を考えれば外はすでに夜と考えるのが妥当。
そうだとして、まだ遺跡にすら到達しないのは妙な感じを受ける。いずれにしても油断は禁物だ。
「……ウニャ、光が消えたのだ?」
「消えてはいないぞ。でもだいぶマシになった」
「アックの先から音が聞こえるのだ。早くそこに行くのだ!」
腰に張り付いていたシーニャが魔石が減った気配を感じたのかようやく声を出した。どうやらこの先の通路から何かの音を感じるようで、耳をぴくぴくと動かし始めながら。
「アックさま。何か気になることでも?」
「いや……とにかく、先に進もう」
「あら? 光を失った魔石……というより、ただの魔石が落ちていますわね。拾っておけば何かの役に立ちそうな気もしますわ」
ミルシェの言葉通り、光を放たない魔石が通路の端の方にいくつか転がっている。普通ならレアな魔物を倒して手に入れる魔石がだ。
もしこの先で使うことになった時に役に立つかもしれない。ここはミルシェの言葉を信じて拾っておくことにする。
「それじゃあ、何個か拾っておいてくれ」
「分かりましたわ! フフッ、宝石じゃないのは残念ですけれど、光を注げば代用出来そうですわね」
「魔力を直接注げればの話だな」
「アックさまなら出来ますわ」
とにかく先に進むことにすると、通路の壁面がようやく途切れて違う空間に出た。
「ウニャッ!? う、うるさいのだ! 何の音なのだ?」
「人工通路の次は無人の作業場かしらね……」
そこは部屋では無く何かの作業場だった。足を進めてみるとそこかしこに石が転がっていて、無人の人型機械が勝手に動いている光景。
そこにトロッコがあるということは、石が運ばれる場所があるということになる。
「採石場……か?」
「もしかして、ここで魔石が加工されているのでは?」
「……それは違うと思うぞ。転がっている石からは魔力を感じない。魔力が込められるとしたら運ばれた先だな」
文明遺跡という時点で勝手に動く機械がいても不思議じゃない。イデアベルクも魔力を使って、半永久的に動いていた魔導兵がいたくらいだからだ。
無人で動く人型機械がいても驚くことでも無い――のだが、シーニャにとっては脅威に映るようだ。
「ウウウゥ!! アック、破壊していいのだ? 石を砕いた後に攻撃してくるかもしれないのだ!!」
「シーニャ、ここに敵はいないぞ。何もしなくてもいい」
「本当なのだ? ウニャ、機械は信じられないのだ!!」
イデアベルクの魔導兵のことがあったし無理も無いか。しかしミルシェもおれと同じ考えのようで、採石場自体に危なさを感じていない。
そうなるとここでは特に気にすることなく進むべきか。だが人型機械をよくよく見ると、固有名と識別番号のようなものが付いている。
【ディルア IX-00】
【ディルア XII-00】
何もしなければ攻撃される心配は無さそうだが、人型機械というのが引っかかる。
「アックさま。人型機械が何か?」
「ん-……人型機械それぞれに名前と識別番号が付いているのは、何でだろうな……と」
「何でしょうね……」
ミルシェも首をかしげているし、深く考えることじゃないか。
「ウニャ! アック、アック!! 次に進むのだ!」
気付くとシーニャだけが奥の方に見える出口に進んでいたようで、おれを促している。何だかんだでおれとミルシェだけが人型機械を気にして眺めていたらしい。
「シーニャ!! そこで待っててくれ! 今すぐ向かうから」
声を張り上げないと届かない位置にいるシーニャに対し、おれは大声を出した。すぐ隣にいるミルシェが耳を塞ぐと同時に、何故か突然地面が揺れ出し始める。
もしかして大声を出したことが原因じゃないだろうな?
「あ、あら? 振動……? これって、アックさまの声に反応して?」
「ははは、そんなはず無いだろ」
「――アックさまっ! 後ろですわ!!」
「うっ!?」
地面が揺れ出したかと思えば、おれたちの後ろには人型機械が迫っていた。
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