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第二章:独占欲と、解けない魔法
1. 遊園地:黒い耳の騎士様
日曜日の遊園地。黒瀬は黒いパーカーに、朱莉とお揃いで買った(と言っても、彼が無理やり選んだ)クロミのカチューシャを気怠げにつけていた。
「おい、離れんな言うてるやろ。迷子のお知らせに『アホの朱莉ちゃん』って放送されたいんか?」
毒を吐きながらも、彼は朱莉の袖口をぎゅっと掴んで離さない。
そんな時、背後から見知らぬ男二人に声をかけられた。
「ねぇ、お姉さん一人? 良かったらあっちのカフェで……」
朱莉が困惑した瞬間、横から伸びてきた腕が、彼女の肩を強く引き寄せた。
「……あ? どこの誰に声かけてんねん。こいつ、俺の所有物(もん)やから。死ぬ気でナンパしとんの?」
黒瀬の低く、地を這うような声。冷徹な瞳で睨みつけると、男たちは顔を青くして逃げ去った。
「……黒瀬、ありがと」
「……チッ。お前がヘラヘラしとるからや。……ええか、今日一日、俺の視界から一歩も出るなよ。分かったな?」
彼は耳元で低く囁くと、今度は袖ではなく、指を絡めて強く手を握りしめた。
遊園地の帰り、急な雨に降られた二人は、一番近かった黒瀬の家へ逃げ込んだ。
「濡れたまま帰ったら風邪引くやろ」という口実に押し切られ、朱莉は彼のTシャツを借りて、並んで宿題をすることに。
「ここ、公式……x の値が逆や。ほんまお前、算数からやり直せ」
「もう、厳しいなぁ……」
朱莉がノートに向き合っていると、ふっと部屋の明かりが瞬き、雨音だけが響く静寂が訪れた。
「……黒瀬?」
顔を上げると、すぐ隣に座っていた黒瀬が、じっと朱莉を見つめていた。いつもより前髪が濡れていて、少しだけ幼く見える。
「朱莉。お前、さっきの男らについて行こうとしてへんかった?」
「そんなわけないでしょ。黒瀬がいてくれたし」
「……当たり前や。お前を泣かせていいのは、俺だけなんやから」
彼は持っていたペンを置くと、朱莉の顎をクイッと持ち上げた。
「……なぁ、朱莉。遊園地の時、『デートにしてやらんこともない』って言うたやろ。あれ、訂正するわ」
吐息がかかる距離。彼の瞳に、赤くなっている自分の顔が映る。
「……今の、もうデートやったことにしとけ。……逃がさへんからな」
そう言って、彼は意地悪く、でも壊れ物を扱うような優しさで、朱莉の唇に自分のそれを重ねようとした――。
寸前で、いつもの悪い笑み
唇が触れるか触れないか、という距離。朱莉は思わず目を閉じ、ぎゅっと肩に力が入った。雨音だけが部屋に響き、心臓の音がうるさいほどに耳に届く。
「…………。」
数秒の沈黙。けれど、いつまで待っても柔らかな感触はやってこない。
代わりに聞こえてきたのは、耳元で響く、意地悪く弾んだ低音だった。
「……ぷっ、ひゃはは! 朱莉、お前今、目ぇ閉じたな?」
「えっ……?」
驚いて目を開けると、そこには数センチ先で、口角をこれ以上ないほど吊り上げてニヤついている黒瀬の顔があった。彼は朱莉の顎を掴んでいた手を離し、お腹を抱えて笑い出す。
「アッハハ! お前、ほんまに分かりやすすぎやろ! もしかして、キスでもされると思ったん?自意識過剰ちゃう?」
「……っ、黒瀬! 最低!!」
顔が火が出るほど熱くなる。朱莉は手近にあったクッションを彼に投げつけたが、黒瀬はそれを片手でひょいと受け止め、またさらに距離を詰めてきた。
「……でも、期待したんは事実やろ?」
今度は笑いを含んだ声ではなく、少しだけ真面目なトーン。彼は朱莉の耳元に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。
「……続き、期待したん? してへんって言っても、その真っ赤な顔が答え合わせになっとるで」
「…………うるさい」
「……しゃあない。今日のところはお預けや。お前がもっと、俺のこと好きすぎて頭おかしなりそうになるまで、待ったるわ」
そう言って、彼は朱莉の頭をポンポンと雑に叩くと、「ほら、宿題の続き。終わらな帰さへんからな」と、何事もなかったかのようにペンを握り直した。
けれど、ノートに向かう彼の横顔――。
朱莉からは見えない角度で、黒瀬もまた、自分の高鳴る鼓動を抑えるように