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翌、月曜日。鳥のさえずりが聞こえる爽やかな朝に、清心は大慌てで家から飛び出した。
やばい。遅刻だ!!
出勤日に凄まじい寝坊をしてしまった。九時就業開始なのに、現在の時刻はなんと十時。
昨夜は遅くまでセフレと抱き合っていたから……なんて言い訳は口が裂けても上司には言えない。具合が悪くて起き上がれなかったと謝った。それでも連絡が遅くなった為、印象は最悪だ。
電車から降り、走りながらスマホを取り出す。時間を確認する間も時間は過ぎていく。駅前の大きなスクランブル交差点まで辿り着き、小走りに前へ進んだ。
早く、早く……急がなきゃ。
もう十時、……十分。
そのときだった。
「え……っ」
聞いたことのない大きさのクラクション。驚いて立ち止まる。その音が自分に向けられていると分かったのは、車のフロントが眼前に迫ってからだった。
しまった、という言葉が頭に浮かんだ。次いでパッと出てきた予測は「死ぬ」ということ。
身体は金縛りにあったかのように動かなかった。いや、動いたとして間に合うものか。
衝撃。
肉体的にも、精神的にも。 この一言以外に表すことはできないだろう。
しかし痛みは訪れず、むしろ何かに優しく受け止められた。腕を引っ張られ、その後すぐ白い光に包まれる。
目を覚ました時には真っ白な地平線に立っていた。
どこだ、ここ……。
辺りを見回そうとした瞬間、腕を引かれてドキッとする。
「死ぬところだったよ。あの時間で良かった」
心の奥に染み込んでいく声だった。振り返った先には、一人の少年。彼は清心と目が合うと可愛らしく笑った。
「君は……誰?」
「…………」
尋ねると、少年は困ったように頭をかいた。彼が何も答えないから、とりあえず思考を巡らせる。惚けてしまっていたが、彼の死ぬところ、という言葉で我に返る。確かに、自分はたった今死ぬところだった。鞄はしっかり持っているけれど、場所は交差点じゃない。
「ここは……?」
再び四方を見渡す。どこまでも広がる空間。しかし、やはりここには自分と少年以外に何も存在しなかった。
「大丈夫だよ、すぐに帰してあげる。こっちに来るにはタイミングが必要だけど、向こうへ帰るには時間とか関係ないから」
至極落ち着いてそう言う、見た感じは中学生ぐらいの少年。場に不釣り合いな笑顔は妙に心を騒がせた。彼の顔も、初めて見た気はしない。
絶対にどこかで会っている────そんな意味不明な確信があった。