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シンヤは自信家の少年レオナードを一蹴した。
ギャラリー達は去っていったので、この場にはシンヤ、ミレア、レオナードの三人だけが残っている。
「悪くない臨時収入になっタ。さすがはシンヤだ」
ミレアはトトカルチョに勝ってほくほく顔である。
奴隷の彼女ではあるが、シンヤの許可により自分のお小遣いをそれなりにもらっているのだ。
それは、そこらの駆け出し冒険者とは比較にならないほどの金額である。
だが殊勝なミレアは、自分の欲だけのために浪費したりはしない。
あくまでシンヤのために使う。
それは自分を強くするためのアイテム、武具、鍛錬器具だったり、自分を美しくするための美容品、洋服、アクセサリーだったり、あるいは怪しい夜のアイテムだったりした。
今回のトトカルチョで増えた資金も、間違いなくシンヤのために使われることになるだろう。
図らずも、シンヤがレオナードを一蹴したことは、ミレアとの幸せな生活に繋がっているのだ。
「くそぉ……。なんでだよぉ……。オレがこんな弱そうな男に負けるなんて……」
一方、レオナードは悔し涙を浮かべながら、地面に突っ伏している。
シンヤは膨大な魔力を持っている。
地球という魔素が極端に薄い世界にいたため魔法の知識こそやや劣っているものの、その代わりに魔力の使い方は卓越している。
いわば、高山トレーニングによって鍛えられた一流のアスリートのようなものだ。
その魔力を活かした魔法攻撃は既に一級品だし、【フィジカルブースト】等の身体強化系魔法を使えば近接戦闘もお手の物だ。
地球にいた頃には一通りの武芸に手を出しており、魔法ほどではないが高い技量を持っていた。
ただし、パッと見の印象においては、シンヤはあまり強そうには見えない。
よく見れば筋肉質で引き締まった体をしているものの、服や装備の上からではそこまで把握できないのだ。
レオナードがシンヤを侮っているのも無理はないことだった。
そして、予想外の敗北を喫し悔し涙を流すのも。
その光景を見て、シンヤは内心ため息をつく。
(レオナードとか言ったか。筋は悪くないんだけどな)
シンヤにあっさり負けた少年ではあるが、決して弱いわけではない。
むしろ、そこそこの強さはあると言える。
ただ、シンヤの足元にも及ばないだけだ。
「お前はもう少し強くなって出直してくるんだな」
「ちくしょう……! くそっ!! くそぉっ!!!」
レオナードが泣き叫ぶ。
「おいおい、そんなに泣くなよ。みっともないぞ?」
「うるせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! オレは、オレはこんなところで負けていられねえんだよ!!」
レオナードは絶叫する。
その声は訓練場の隅々まで響き渡った。
彼のパーティメンバーも、ぎょっとしたような表情を浮かべている。
「そこまで悔しがる気持ちがあるなら、また強くなれるさ。いずれは俺ぐらいになれるかもしれないぞ?」
「いつかじゃダメなんだ!! 今すぐに強くなりたいんだよ!! そしたら、オレだって……」
レオナードはそう言って、再び地面に拳を叩きつけた。
そして、彼は立ち上がるとシンヤを睨む。
「次は絶対に勝つ! それまで首を洗って待っていろよ!」
捨て台詞を残して、レオナードは訓練場を後にしようとする。
だが、シンヤはそれを引き止めた。
「まあ待てよ。強くなる方法を教えてやろうか?」
シンヤは、レオナードに同情し始めていた。
事情は知らないが、ここまで悔しがるのは尋常ではない。
何か、強くならなければならない理由があるのだろう。
「なにぃ? 本当か!?」
「ああ、もちろんだとも」
強くなるためのちょっとしたコツを教えるぐらいなら、特に負担にはならない。
「それなら教えてくれ!」
「いいとも。まずは……そうだな。とりあえず、上半身の服を脱いでみてくれ」
「な、なにっ!?」
レオナードは顔を真っ赤にする。
「別に恥ずかしがるようなことじゃないだろ。男同士じゃないか。ほら、早く脱げって」
「男同士? い、いや……。でも……」
レオナードはチラリとパーティメンバーの方を見る。
男同士なのに何を気にすることがあるのかとシンヤは不思議に思ったが、言葉にはしない。
レオナードの視線を受けた彼らはそっと目を逸した。
それを確認したレオナードは、意を決したようにシャツを脱ぐ。
「よし、脱いだな」
シンヤは、レオナードの上半身を観察する。
まだ少年とはいえ、彼の肉体もなかなかに鍛え上げられている。
「なるほどね。悪くない体をしているじゃないか」
シンヤは感心しながらそう言ったのだった。