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コメント
3件

めっちゃ好き!!お話面白い‥ 涼ちゃんの周りにいい子達が沢山居て安心だ🥺
もう、ぜっぼうしてもらおうよ!涼架(*´▽`*)
第4話:甘いクレープと、震える着信
涼架side
裏門を抜け、学校から少し離れた商店街にあるクレープ屋。
甘い香りが漂う店内に、僕ら男子四人はおよそ似つかわしくない華やかさで陣取っていた。
「うわぁ……すごーい!イチゴが山盛りだ!」
運ばれてきた期間限定クレープを前に、僕は思わず声を弾ませた。
学校を出るまでの恐怖が、生クリームの白さに少しだけ上書きされていく。
「だろ?ここのは生地がモチモチなんだよ。ほら、高氏も口開けてないで食えよ」
「言われなくても食うわ!…んんーっ!脳に糖分が染み渡る…。リーダーとしての重責で疲れた体に最高だぜ」
「高氏、ただ階段から落ちそうになって冷や汗かいただけじゃん。ねー、滉斗も食べなよ。一口あげるから」
元貴が自分のバナナクレープを差し出すと、滉斗は「いらねーよ」と言いつつも、一口だけぱくりと食べた。
「…甘すぎ」
「えー、美味しいのに!滉斗はすぐそうやって猫みたいにツンツンするんだから」
そんな三人のやり取りを見ていると、胸の奥の支えが取れたような気がした。
お兄ちゃんと食べている時の、一言一句を精査されているような緊張感がない。
ただ、クレープが美味しいとか、元貴の食べ方が汚いとか、そんな「どうでもいいこと」を笑い合える。
「……涼架。お前、それ鼻についてんぞ」
滉斗が不意に手を伸ばし、僕の鼻についたクリームを指で拭った。
「えっ、あ、ごめん……。ありがとう」
「…別に。…お前、今すげーいい顔してんの、自覚ある?」
滉斗の少し熱を持った視線に、心臓が跳ねる。
けれど、その幸せな時間は、テーブルの上に置いていた僕のスマホが激しく震えたことで、一瞬にして凍りついた。
ブブブ、ブブブ、ブブブ……
画面に表示されたのは、もちろん。
「…あ、お兄ちゃんだ」
さっき滉斗がメールを送ってくれたはずなのに。僕は震える手でスマホを手に取り、通知画面を見て息が止まった。
『未読メッセージ12件』
『着信履歴8件』
一番上のメッセージを、図らずも目に入れてしまう。
『涼架、嘘は嫌いだよ。生徒会室に君はいなかった。今、どこにいるの?早く答えて。涼架のためを思って言っているんだよ』
「……っ」
僕の顔から血の気が引いていくのが、自分でも分かった。
兄は、僕の学校の生徒会の役員に知り合いがいる。確認なんて、兄にとっては容易なことだったんだ。
「涼ちゃん……?」
元貴が、クレープを食べる手を止めて僕の顔を覗き込む。
「……どうした?またお兄さんか?」
高氏のトーンも、いつもの明るさを潜めて低くなった。
僕はスマホを伏せた。けれど、震えは止まらない。お兄ちゃんは怒っている。でも怒鳴ることはしない。
ただ、家に帰った後、あの静かな部屋で、僕がいかに「愚かな選択をしたか」を何時間も、何時間も優しく論し続けるんだ。
「…帰らなきゃ。お兄ちゃん、もう僕の嘘に気づいてる」
「嘘じゃねーだろ、俺が勝手に送ったんだから。……涼架、お前は悪くない」
滉斗が僕の腕を掴む。その手は力強いけど、僕の恐怖を拭い去るには足りない。
「でも、お兄ちゃんが…僕を待ってるんだ、僕がいないと、お兄ちゃんが怒る…」
「『僕がいないと』じゃないよ」
元貴が、真剣な目で僕を見た。いつもの悪戯っ子の顔じゃない。「大森元貴」という一人の人間としての、鋭い眼差し。
「お兄さんが、涼ちゃんを自分のものにしておきたいだけでしょ。それって、愛情じゃないよ。ただの支配だよ」
「元貴の言う通りだ」
高氏が僕の肩に手を置く。
「涼架。お前、お兄さんのこと尊敬してるかもしれないけど、怯えてるじゃないか。…友達と一緒にクレープ食べて、怒られるなんて絶対おかしいんだ」
三人の言葉が、僕の中にあった「お兄ちゃんは絶対」という壁に、小さな亀裂を入れていく。
「…でも、怖いんだよ。お兄ちゃんに否定されるのが、世界で一番怖いんだ」
僕の声は震えていた。
その時、スマホがまた震えた。今度は着信だ。
兄からの、9回目の着信。
「…出なくていい」
滉斗が、僕のスマホを自分のポケットに放り込んだ。
「えっ、滉斗!?」
「今日はもう、俺がお前のスマホ預かっとく。……何かあったら、全部俺のせいにしろ。若井滉斗っていうガラが悪くて強引な奴に、無理矢理連れ回されて、挙げ句の果てに、スマホも取り上げられたって、そう言え」
「そんなの、滉斗が怒られちゃうよ……!」
「構わねーよ。…涼架。お前を支配してるその檻の鍵、俺が壊してやるから」
滉斗の目は本気だった。
猫のように気まぐれに見えて、一度決めた獲物は絶対に離さない、強い意志。
「…みんな…」
「よし!クレープ食い終わったら、今度はゲーセンだ!涼架にクレーンゲームの極意を叩き込んでやるぜ!」
高氏がわざと明るく振る舞い、元貴が「涼ちゃん、次はなんの味にする?」とメニューを広げる。
兄からの着信が、目に見えない糸のように僕を縛り付けているけれど。
今は、この三人が繋いでくれる手の温かさだけを信じていたかった。
次回予告
[完璧というなの絶望]
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