「ごはんできたよー」
高地の声が響く。今日の料理担当は彼だ。
昼まで珍しく出動要請がなく、のんびりできている。
「冷蔵庫に野菜しかなかったから炒めた。誰か買い出し行ってきて」
その誰か、でもめるのだが。
6人で食卓を囲み、楽しいランチタイムの始まり。
だが、北斗は一人眉をひそめた。
「トマトある…」
他の人に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で呟く。彼の苦手な食べ物だ。
いつも自分で料理をするときは入れないものの、高地はトマトが嫌いということを知らない。
意を決し、箸でつまんで目力に集中する。
ほかの5人は談笑していて、気づいていない。
「だからー、だれか買ってきてってば。ナイト暇でしょ」
高地が言う。
「やだ。行かそうものなら洗脳するぞ」
「じゃあ感電させるからな」
黄色と桃色の瞳が交差する間に、ふたりともやめて、と慎太郎が割って入る。
「ラルド行ってくれない?」
「えー、俺忙しい」
「何にもしてねーじゃん。いやほんとに食材ないからさ、ジェットも晩飯困るよ?」
そこでじっとして動かない北斗に気づいた。
「ねえ、どうした?」
隣の樹が振り向き、声を掛ける。
ちょうど魔力がはたらいて、トマトが消えた直後だった。
「何してんの?」
「……別に」
素っ気なく答えるも、大我に見透かされる。
「嫌いなトマト消したんだろ」
「バレたか…」
小声で呟いた。
えぇ、とみんなは驚く。
「まだ一個あるし、そんなことしてたら体力使い切るぞ」
わかってる、と小さく言った。
「俺が食うから」
と大我が取った。
「ったく頭いいはずなのに何してんだか」
樹も呆れ顔だ。「このあと要請あっても使えないんじゃないの」
そしてみんながごちそうさまを終えた直後だった。それぞれの携帯のアラームが鳴り響く。それを聞いた6人は血相を変える。
出動要請だ。
途端に6色の瞳には真剣な光が宿る。
それぞれ護身用のナイフや銃を懐に忍ばせ——この国で拳銃の携帯を許可されているのは、警察とファンタジアだけだ——揃って家を出た。
車の中で、6人はインカムを装着する。
「聞こえてる?」
うん、と答える。そして高地がスマホに届いた情報を読み上げる。
「えーっと、フェイラーは3体出没。体高大きめにつき注意必要、だって」
「もうやだよ帰りたい!」と弱気になる樹に対し、
「俺が最初いくからさ」と大我は自信満々だ。
「ジェット大丈夫か?」
慎太郎が、先ほど魔力を使ってしまった北斗を心配する。
「ああ、ちょっとしかやってないから」
「次はそんなことするなよ」
ジェシーが釘を刺した。
「はいはい」
面倒臭そうな返事をしたところで、ハンドルを握っていた高地が声を上げる。
「いた!」
みんながぱっと前方を見ると、3体ほど道路を渡っていく敵を見つけた。
慌てて車を止め、大我が先に降りて走っていく。が、
「やべえ……」
冷や汗の滴るような声は、インカムを通じて5人にも伝わる。何事かと身を固くした。
路地裏に逃げようとしていたフェイラーが、大我に気づいた。
彼を見つめる目はおよそ10×2。
一番手前のフェイラーの牙が、ぎらりと光る。
足がすくんで踏み出せない。魔力が発せられるはずのピンクの目には、怯えの色が浮かんでいる。
「ナイト? どうした⁉︎」
動きのない大我に呼びかけるが、答えも返ってこない。
5人は一斉に車を降りた。ジェシーは手袋を外し、慎太郎は剣を、北斗は銃を構える。
が、大我の少し手前で立ち止まる。
「え?」
忍び寄ってくるたくさんのフェイラーたち。
彼らファンタジアに敵の情報を与える捜査員から来た情報との違いに、唖然とする。
「増えてる……」
今まで数多くのフェイラーを倒してきて、徐々に減ってきているとのニュースもあった。
しかし、これは史上最多の数。
ファンタジア6人は、史上最悪のピンチに遭遇してしまった。
続く
コメント
1件
まじで最高です! 続き楽しみに待ってます😺😺