土人形に襲われもう駄目だっぽかった善悪は、突入として響いた声のお蔭で無傷であった。
具体的には守護の光り、白銀の守りの力が全身を包み込んであらゆる攻撃を無効化してくれたのであった。
声と共に本堂から姿を現したのは、日本人なら大概の人は知っている、かの超人気アニメ、七つのボールを集めて願いを叶えて貰う、野菜の星出身の元低級戦士、ニンジンっぽい名前の主人公、スーシンチュウの事を『じっちゃん』とか言ってしまう、金色の戦士(初出時)の姿をした(サイズは極小)、一体の悪魔であった。
彼は小さな体に似合わぬ馬鹿みたいに巨大な鎌、デスサイズを掲げていた。
金色の髪を逆立て捲って怒れる戦士 (ソフビサイズ)は堂々と口にしたのである。
「オイ、ババア! ナニ、シテンダッ! オマエッ、モイチド、コロシテヤロウ、カァッ!!」
そう、前回の観察、悪魔たちの円舞曲(ロンド)と名付けた観察記録から、確り(しっかり)とお付き合い頂いている、コアなオーディエンスなら勿論御存知の、本作における影の主役とも呼ばれる存在、オルクスが、いいやオルクス君が参戦したのであった。
そう言えば、まだまだ本気とは言い難い、凄く『馬鹿』状態の黒々とした不完全オルクス、所謂(いわゆる)『ヤギ頭』状態の時に、家族揃って簡単に倒されてしまったのが茶糖家の面々であった、これは余裕なんじゃないだろうか?
だと言うのに、婆(ババア)トシ子は根拠も無いだろうにイキって見せたのである。
ハゲ(バーバラ)(ガープ)が戦線離脱した事でインフルっぽい症状から回復したトシ子婆ちゃんが、病み上がりの不調もなんのその、元気一杯で宣言したのであった。
「ああ、アン時のヤギちゃんかい? こりゃぁ良いね! 室内で戦ってアタシに勝ったつもりとは…… 地面の上や開けた場所だったならね、アタシは愚か、リエ、いいやあの優しいリョウコであっても、アンタなんかにゃ負けていなかっただろうよ! それを証明してあげるよ、ヤギ頭、かかって来な!」 (ニヤリ)
「コ、コノ、ババアッ! クラエッコノ! コノ! コノ! コノ! コノ! コノ、コノォッ!」
頑張ったオルクスは、『コノ』と言う負けん気の発声に合わせて七回の『飛刃(リエピダ)』を飛ばして、残った土人形の全てを切り刻んで見せたのである。
「フゥフゥ、バッ、ババア、フゥフゥ、ツギハオマエダ、コ、コロスッ!」
「へぇ? アタシを殺すの? あはは、ヤギちゃんがぁ? やってみなよ! 返り討ちにしてくれるからさっ!」
「ムムゥゥゥ!」
小さな体に似合わぬ大鎌を軽々と振り回したオルクスの純白な魔力が高められていく。
トシ子も油断無く小さな悪魔の一挙手一投足に集中している様だ。
次の一手で、どちらかが死ぬ、的なムードが周囲に漂い緊張が数段階高められた。
その時、野太い、割と渋めのカッコイイ声が境内に響き渡ったのである。
「やめよっ! 仲間割れは敵を利するのみっ! この喧嘩、我の名の元に預かるとしよう! 我の名はアスタロト、コユキと善悪の弟にして、地獄の第一層、暴虐と爆炎に君臨せし者、ディアボロス、ポセイドゥヌスの名に於(お)いて請願(せいがん)する、美しく年若き聖女、トシ子よ、わが兄にして全ての魔を統(す)べる魔神たるコユキ、善悪よ! 加えて、兄の長子たるグリゴリのオルクス卿! 我の名に免じて、戦いの矛(ほこ)をおさめよ」
「え? 年若き? アタイが? やだよう、もおぅ!」
最初に反応したのは、トシワカイ? 九十になるババア、トシ子であった、やれやれ……
頬を赤らめモジモジしながら声の主、ハンサムな青年姿の大魔王、アスタ、アスタロトをチラチラ見ている。
乙女心(九十歳)に火が灯ったのだろう、先程まで周囲に漂わせていた殺気や狂気はなりを潜め、代わりに何やら乙女チックな気配を放出させるのであった。
幾つになっても女は女、そう言う事だろうか? 難しい……
兎も角、血で血を洗う殺し合いは一旦回避されたのであった、やれやれ。
トシ子の様子が変わった事を確認し、大きな息を吐いた善悪が言う。
「アスタ、助かったでござるよ、んんん、死ぬかと思ったでござる……」
続けてコユキが不満そうに口にしたのである。
「でもね、でもね! アスタ! このクソババアってね? アタシ達が一緒に行動するのダメだとか? 訳ワカメなんだけど? どうすりゃ良いんだろうね? この頑固頭の分からず屋はぁ~?」
「ふん、成程な…… それもこれも、人間の言葉の不確かさ、あとは、先入観、所謂(いわゆる)ドグマってやつが原因じゃぁないだろうか? 先ずは本堂でお茶でも飲みながら今後の話をする事が肝要であろうと思うが、違うか? コユキよ」
コユキはうんざりした顔で言った。
「んまぁ、難しい事はもう良いわよ…… んねぇ善悪、お茶頂戴!」
流石は静岡人である。
「りょ! ささトシ子殿も上がるでござるよ」
言いながら善悪はグッタリとしているガープを拾い上げ、コユキも近くの植え込みに隠していたアカベコ『ウトゥック』を両手で持ち上げて庫裏(くり)に向かうのであった。
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