テラーノベル
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8人でゾロゾロとバックヤードを抜けて、一列になって階段を上がった。
俺は、一番最後からみんなについていった。
蓮くんは転ばないようにって、俺の手を引いてくれて、そんなに過保護じゃなくても…とは思ったけれど、蓮くんの優しさと、手のひらの温かさが嬉しくて、そのまま繋いでいた。
七足の靴が玄関に並ぶ。その中に俺の靴も置いて、みんなの分もついでに揃えた。
「狭い所ですが、くつろいでくださいね」
と言って、オーナーは8人分のお茶を淹れてくれた。
「さて、お客さんのお相手は、翔太にお願いするとして、早速だけど、阿部手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
「じゃあ、はい、これ。」
「?エプロンですか??」
「うん、スーツ汚れちゃうといけないから」
「ありがとうございます!」
俺はオーナーが貸してくれた緑色のエプロンを付けて、手を洗った。
オーナーから指示をもらいながら自分にできるお手伝いをしているのだけれど、ずっと背中に違和感がある。
…重い……。
ふと、隣に立ってスープの味付けをしているオーナーの方を見ると、オーナーも少し困った顔をしていた。
オーナーの背中に渡辺さんがへばりついているのだ。
かく言う俺の後ろにも、蓮くんがピッタリとくっついている。
動きづらい。
「……蓮くん?」
「うん?どうしたの?」
「どうしたの?じゃなくて、ちょっと重たいから、どいて欲しいな…って」
「やだ」
「もう…ご飯作れないよー…。」
「だって、エプロンしてる亮平が可愛いんだもん。俺のお嫁さんがそんな可愛い格好してるのが悪い。」
「えぇ…。蓮くんほんとにお願い。ご飯食べるの遅くなっちゃうから、ね?」
「じゃあ、俺と結婚したら、毎日エプロン付けてご飯作ってくれる?」
「けっ!? うん、わかった、わかったから。毎日するから。だから、どいてくれる…?」
これ以上身動きが取れないと、本当に何も出来なさそうだったので、少し驚く言葉も聞こえた気がしたが、一旦流して返事をすると、蓮くんは飛び退いてわかったと言った。
「翔太」
「…もうちょっと」
「……翔太」
一方で、渡辺さんは、オーナーに低く名前を呼ばれるとシュンとして静かにオーナーから離れた。
渡辺さんはトボトボと、蓮くんはぴょんぴょんと跳ねながら、ふっか達の方へ戻っていった。
亮平が俺と結婚してくれるって言ってくれた。
すげぇ嬉しい。
亮平に似合うエプロン探しておかなきゃ。いや、指輪が先か。
どっちも一緒に買おう。
小躍りしそうなほどに昂った気持ちでリビングへ行くと、そこには異様な光景が広がっていた。
「ねぇ、ふっか。今度このタピオカ屋さん行こう」
「んぉ?いいよー」
「やった。今日うち泊まってくでしょ?」
「うん、そうするー」
「んふふ、やったぁ」
…ふっかさん…。流石にくつろぎ過ぎじゃないか…?
ふっかさんは、岩本くんが胡座をかく膝の上に頭を乗せて、寝転がっていた。
「よし、ラウール!おさらいだ!この子の名前は!?」
「江戸川雪男くん!」
「そう!この作品を知っておけば、社会に出ても困らないから覚えておくんだぞ!」
「わかった!」
…覚えておかなくても絶対に困らないだろ。 流石の俺でもわかる。ラウールもラウールで、なんで真面目に捉えるんだ。
佐久間くんはラウールに、アニメ講座を開き、いつの間にか肩を組んで叫ぶほど打ち解けていた。
ふっかさんと岩本くんも、完全に二人の世界に入り込んでしまっていて、しばらく帰ってこなさそうだった。
「…こいつら、マジ早く帰んねぇかな」
俺の隣でそう呟いたしょっぴーの声は、心底うんざりしているといった様子だった。
完成したご飯をお皿に盛れば、達成感に大きく息をついた。
「やっとできたね。手伝ってくれてありがとうね」
「いえいえ!どれも美味しそうですね!すごい!」
「ありがとう、じゃあ、運ぼっか?」
トレーの上いっぱいにお皿を乗せて、オーナーの後に続いてリビングへ向かった。
「お待たせしました」と言いながら、テーブルの上に料理を置いていくと、みんなは「やったー!」と喜びながら、並べるのを手伝ってくれた。
みんなでいただきますと声を揃えて、挨拶をした。
オーナーの作るご飯は、いつでも優しい味がして、いつも幸せを感じる。
みんなで食べ進めながら、改めてと言うようにみんなで簡単に自己紹介をした。
「深澤でーす。こいつらのマネージャーしてます」
「岩本照です。こいつらとアイドルやってます。」
「俺佐久間大介!よろしくピーマンでありまぁぁぁぁす!!」
「ラウールです!普通の大学生です!ここでバイトしてます!」
「渡辺。以下略。全員涼太に手出すなよな」
「目黒っす。しょっぴーに同じく」
「宮舘涼太です。ここのオーナーをしています。翔太がいつもお世話になっています。」
「あ、阿部亮平です…。蓮くんとお付き合いさせていただいております。よろしくお願いいたします!!」
「俺阿部ちゃんに会ってみたかったんだよねー!会えて嬉しい!」
俺まで挨拶が終わると、佐久間くんが俺に話しかけてくれた。彼とは、一度電話をしたことがあるだけだったし、蓮くんと関わりがなければ何者でもない俺なんかに、そう思ってもらえることが嬉しかった。
ご飯も食べ終わって、いよいよ今日の大本命。
ラウールくんの選考結果を見る時が来た。蓮くんもずっと気にかけていてくれたみたいで、2人でラウールくんを挟んで肩を寄せ合い、じっとスマホを見つめる。
「ねぇ、怖いよぉ」
「大丈夫だよ。あれだけ頑張ったんだから。」
「うん、もしこれでダメでもまた挑戦したらいい」
「そうだね、、よし。開くよ!」
液晶をタップし、右から左へスライドしていく画面には、びっしりと文字が並んでいた。
「ない、てい、つうちしょ…?」
「…うかった…、就職、、、決まったよ!ラウールくん!」
「…ぅおおお!すげぇ!やった!!」
「…うかった…?ぼく、ごうかくした…?」
「うん、内定もらえたんだよ!!おめでとう!」
「…やった、やったぁ…っ、やったよぉぉおお!うわぁぁぁんっ!」
ラウールくんは、最初、現実味の無さそうな様子だったが、徐々に追いついて来た嬉しさに大声を上げて泣いた。
俺と蓮くんは、ラウールくんを抱き締めて何度も背中をさすった。
その様子に、周りのみんなも「おめでとう」と拍手してくれていた。
ラウールくんの嗚咽が落ち着いてくると、オーナーがラウールくんのそばまで近づいて来て、声を掛けた。
「さて、ラウール。ここからが本番だよ。」
「うん」
「どんなに苦しいことがこの先起こっても、今日まで頑張って来たこと、こうやってみんなが喜んでくれたこと、忘れずにね。」
「うんっ」
「寂しくなるけど、俺はいつでもここにいるから、何かあったらいつでもおいで?」
「うんっ、オーナーありがとう。お世話になりました!」
「ふふっ、こんなにいい子で、とっても賢い子なんだから、絶対に大丈夫。ラウは、俺の自慢の息子だよ。こちらこそありがとうね。」
「おぉなぁ〜…っ、、寂しいよぉ…」
「もう、甘えたなんだから。ほら、おいで?」
両手を広げたオーナーの腕の中に、また泣きじゃくるラウールくんはまっすぐに飛び込んでいった。
二人の中に生まれた、お互いを大切に思う気持ちに涙が込み上げて来て、俺まで泣いてしまった。
そんな涙なしではいられないこの部屋の中で、オーナーは急にころっと空気を変えるような話をした。
「あ、そうそう。ラウ?せっかく目指した道に進めることになったんだから、ちょっと勉強がてら、出勤して欲しい日があるんだよね。」
「へ?」
「うちの常連さんが、今度結婚することになったんだけど、お店使って前撮りしたいって言っててね。いいですよとは伝えてたんだけど、一応ラウの結果を待ってから言おうと思ってたの。」
「いいの!?行きたい!」
「そう言うと思ってたよ。式場の人に連絡しておくね。」
「ありがとう!目一杯勉強する!」
本当に良かった。
ラウールくんの新しい未来が拓けていくことが、自分のことのように嬉しかった。
俺が目を抑えるたびに、蓮くんは俺の手を握って、頭を撫でてくれた。
この先のこの子に、多くの成功と幸せがありますようにと、ラウールくんを見つめながら、蓮くんの手をぎゅっと握り返した。
「みんな、今日初めて会った人もいるけど、おめでとうって言ってくれてありがとう!阿部ちゃんも目黒くんもたくさん面接の練習してくれてありがとう!オーナーとしょっぴーも僕が大人になるために、今までいろんなこと教えてくれてありがとう!僕 頑張ります!いつか絶対に、オーナーとしょっぴーの結婚式担当するからね!」
ラウールくんの言葉に、一同は大きく盛り上がり、オーナーと渡辺さんは恥ずかしそうに微笑んでいた。ラウールくんの感謝の気持ちと、お世話になった人へ恩を返したいと思う義理堅さに心が温かくなるばかりだった。俺の涙腺は完全にツボに入ってしまって、しばらく泣き止めそうになかった。
しばらくして、感動的な空気を打ち壊すように、ふっかと佐久間くんが口を開いた。
「お祝いにってことでさー」
「買って来たケーキ食べよーぜ!!!」
「もうお前ら帰れよ!!!!!!!!」
夜空に渡辺さんの叫び声が溶けていった。
To Be Continued………………
コメント
2件
ラウよかったー!!! そして次回素敵な予感がする…🧡
ラウール良かったね‼️‼️❤️ いつか、ゆり組の結婚式を挙げて欲しい・・・❤️❤️❤️❤️