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ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
遠い存在
案の定、高等部2年の女生徒が、狸塚恒介も出演している新ドラマに出ているという話は瞬く間に拡がり、B組の教室には休み時間の度に去年のように多くの生徒が結城咲茉をひと目見ようと押し寄せた。
保育ルームに子どもを預けている親たちも当然そのドラマはチェックしており、録画した分を子どもたちとも鑑賞していた。
「結城さん目当てでB組にいっぱい人が来るの、なんか懐かしい光景だよね」
「本人もB組の連中も絶対迷惑してんだろ」
『何をするにしてもジロジロ見られちゃう。仕方ないんだけどね。でもやっぱり、クラスのみんなに申し訳ない』
子どもたちが元気に保育ルーム内を駆け回る様子を眺めながら、咲茉が小さく溜め息をついた。
「テレビの影響ってすごいよねえ。なんか前にも似たようなこと言った気がするけど。1話目と4話目と最終回の、それぞれほんの少しの出番だったのに、エマちゃんのこと知りたい人の問い合わせがテレビ局に殺到したらしいよ。なんせ“エキストラ”のくくりにされてたから名前も分かんなかっただろうしね」
今日も床にごろりと寝そべったまま、兎田も話に加わる。
「お前も結城が出てる話数チェック済みかよ」
「当たり前でしょー。もちろんエマちゃんが出てるからってのもあるけど、俺は狸塚さんの出演のドラマは毎回全話観てるんだよ」
「なんか追加で出演することになったって言ってたよね?」
『うん。ほんとは1話目だけの予定だったらしいんだけど、監督さんが気に入ってくれて、脚本を少し変えて4話と最終回にも出させてもらうことになったの』
「すげえ〜。…ま、番組の視聴率アップに貢献したと思えばいいんじゃない?自信持ちなよ」
そう言いながら起き上がった兎田が咲茉の頭を軽く撫でた。
『ありがとうございます。…こことお家が私の安らぎの場です』
咲茉がふにゃりと笑った。
咲茉がエキストラとして出演したドラマが放送されたその半月後。
「え、続編?」
話を聞いた兎田が眠そうな目を見開く。
『はい。なんかこの前のドラマが好評だったからって、私も普通に役者としてまた出演させてもらうことになって…』
「へーえ。すごいじゃん。エマちゃんもすっかり芸能人だねえ」
今のうちにサインもらっとこー、と戯ける兎田に、
『サインなんてないですよ』
と困り顔で笑う咲茉。
「でも、結城さん忙しくなるよね。学校行って、吹奏楽部の練習もあって、ここも手伝ってもらって、更にドラマの台詞を覚えて撮影に行って……」
「そりゃ忙しいね」
「体調崩さねえか?」
『うーん。できる限り体調には気を遣うよ』
「身体がいちばん大事だからね。ここにいる時は少しくらいゆっくりても罰は当たらないよ。俺みたいにね」
兎田は今日も床に寝そべった状態で美鳥を寝かしつけている。
「じゃあ結城がここでゆっくりできるように、兎田が倍働きやがれ。大体お前はだらけ過ぎなんだよ」
そう言って、隼が兎田の耳をぎゅむむ…と引っ張った。
『また来週から撮影が始まるので、なかなかこっちに来られなくなると思います。ごめんなさい』
「気にすんな。結城の分まで兎田がチビ共の面倒見るから」
「うんうん、心配しないで。寂しいけど応援してるからね。学校では会えるんだし」
『ありがとう…』
翌週から、咲茉は授業が終わってすぐにドラマの撮影に向かった。子どもたちは夕方、咲茉に会えなくて寂しそうにしていたが、朝と昼休みは一緒に昼食を食べたり遊んだりできるので、彼女と過ごす時間を大いに楽しんでいた。
咲茉がドラマの続編にも出演することになった話は、理事長、犀川、保育ルーム関係者しかまだ知らないので他の人には伏せていた。でも、ベビーシッター部を休んでいる上に吹奏楽部も休んでいるので、何か勘付かれるのは時間の問題かもしれない。
「あれっ、咲茉ちゃん」
『兎田さん、お疲れ様です』
「おねえちゃんだー!」
「エマおねえちゃま!」
「あーぶ!」
久々に、夕方の保育ルームに顔を出した咲茉。子どもたちが大喜びで飛びついてくる。
「今日は現場行かなくていいの?」
『はい。なんか機材のトラブルとかで、今日はお休みになったんです』
「そうなんだ。よかったね…、って言っていいのか分かんねえけど」
「うしゃいだ!きょうはエマねえちゃとあそんでいいのか!?」
「かじゅまもあしょぶ…」
「う」
『うん、今日はいっぱい遊べるよ!』
「「「「やったー!」」」」
昼休みは少し疲れた表情だった咲茉。連日の撮影で疲労もストレスも溜まっているのだろうと思っていたが、今はそんなことを微塵にも感じさせないくらい元気だった。
『鹿島くんと狼谷くんはまだですか?』
「あー、なんか、化学のレポート書いてから来るって」
『そうなんですね。大変だ』
兎田と話しながら、咲茉は2つに結った髪を一旦解き、耳より高い位置にお団子を作った。
『よし、何して遊ぼうかな』
咲茉が気合いを入れたその時。
ガラガラ
『あっ、まりあちゃんに雪ちゃん』
「わっ!エマちゃんがいる!」
「今日はこっちに来てたのね」
「え、エマちゃん2人と仲よかったの?」
A組の猪又まりあとC組の牛丸雪。2人はひょんなことから仲良くなり、子どもたちに会いに保育ルームにも遊びに来るようになったのだが、彼女たちが来る時に限って咲茉が不在だったのだ。もちろん、お互いに避け合っていたわけでもない。学校でよく話す仲にはなっていて、昼休み以外の休み時間や、体育の授業では3人で会話をすることがよくあった。
「初めて結城さんがいる時に来られたわ」
『ほんとね!嬉しい』
咲茉が顔を綻ばせる。
「エマちゃん、最近こっちにいない時は吹部にも顔出してないって聞いたけど、何か別の用事で忙しいの?」
雪の質問に、咲茉と兎田が一瞬固まった。
『えっと……。2人には言っていいかな…』
「何を?」
『あのね。ちょっとお仕事で…』
「お仕事?結城さん、バイトは辞めたんじゃなかったの?」
「まりあちゃん、こないだまであってたドラマ観てない?そこにエマちゃんがちょこっとだけ出演してたんだよ。もしかして、それ関係?」
咲茉がこくんと頷く。
「えっ!?結城さん、芸能のお仕事をしてるってこと?」
『最初はほんのちょっとエキストラとして出ただけだったの。でも続編が作られるとかで普通に私も役者さんとして出演することになって。最近はその撮影で吹部にもベビーシッター部にも出られてなくて』
「そうだったのね…」
「すごい!私あのドラマ全話観たんだよー!エマちゃん演技上手かった!」
『そうかな?ありがとう』
褒められるのは素直に嬉しい。咲茉が照れたように笑った。
「エマちゃんよかったねえ。…じゃ、俺はあっちにいるから〜」
兎田は女子高生3人の会話に混ざるのは野暮だと思い、一旦子どもたちの相手をしに行った。
「続編のことは学校のみんなは知らないんだよね?」
『うん。鹿島くんと狼谷くんと兎田さんと…、あと、理事長先生に犀川さん、ここに子どもさんを預けてる先生たちにしか言ってないの』
「部外者の私たちに言ってよかったの?」
まりあの言葉に雪も少し慌てる。
「あっ、そうだよね。まだ非公開の情報なのに…」
『うん、いいの。まりあちゃんも雪ちゃんも、よくこっちに遊びに来てくれてるし。私とも仲良くしてくれてるから2人にはちゃんと言っておきたいなって。他の人にはわざわざ言わないけど』
「「…!」」
それは、自分たちが咲茉にとって“特別”だと捉えていいのだろうか。まりあと雪の心臓が、とくん…と小さく跳ねる。
「嬉しい!エマちゃん、話してくれてありがと!」
雪が咲茉に抱き着いた。
「もちろん正式に公開されるまで秘密は守るわ!」
まりあも頷く。
『うん!ありがとう。……それとね…、』
「どうしたの?」
雪に解放された咲茉が少しだけ頬を染めた。
『またこれからも仲良くしてくれてると嬉しいな…』
「そっ、そんなの当たり前じゃない!」
「そうだよ!私たち友達なんだから!」
『ありがとう…!』
2人の言葉に、咲茉が目を潤ませて微笑んだ。
「…でも、エマちゃんが私たちと仲よくしたいって思っててくれて嬉しかったなあ。ドラマはほんとに素敵だったし、続編もあるなんて楽しみ過ぎるし、エマちゃんのこと応援したい気持ちはもちろんあるけど、なんか…、エマちゃんがすごく遠い存在になっちゃう感じがして寂しかったから…」
「……実は私も、雪ちゃんと同じように思ってたわ」
『そんな。私は2人のことが大好きだし、保育ルームのみんなのことも大好きだよ。慣れない撮影を頑張れるのもみんなが応援してくれるおかげなの。お仕事が一段落したら、2人とももっといっぱいお話したいし遊びに行ったりしたいって思ってるんだから』
「もちろんだよお!」
「私だって…!結城さんとこれからも仲のいいお…、お友達でいたいって思ってるわ!」
『えへへ…。ありがとう』
子どもたちの相手をしながらうら若き乙女たちの会話を聞いていた兎田は、青春だねえ…、と微笑ましく思うのだった。
雪とまりあも咲茉と一緒に子どもたちと遊ぶことになり、しばらくして竜一と隼も戻ってきて、その日の保育ルーム内はいつにも増して賑やかだった。
つづく
コメント
1件
阿部まりあさん、第15話読みました〜!😭💕 「遠い存在」ってタイトルがもう切なすぎる…!咲茉ちゃんがどんどん輝いていくのは嬉しいけど、同時に「遠くなっちゃうかも」って感じるまりあちゃんと雪ちゃんの気持ち、めっちゃ分かるよ…。でも最後に「友達だよ!」って言い合えるシーンで完全に涙腺崩壊しました😢✨ 兎田さんが「青春だねえ」って微笑んでるところもめちゃくちゃエモかった…!次の話も楽しみにしてます!!🌸