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「僕等の日常法則」前日譚
古本屋黄さんと小説家桃さんの出会い編。
…趣味丸出しで本当申し訳ない!
どうしてもやりたかった某妖怪小説パロディをハイブリッドリサイクル(再)
時代背景は昭和前から中期。
元がお分かりになる方いらっしゃるのだろうか…いらっしゃったらすみませんそして私と握手をしましょう(ぇ
以下遅ればせながら配役設定です。
黄さん
職業:古書店主人他副業諸々
古書店夢幻堂主人。極度の本好きで出不精(引き籠り)。
我が家に入り浸り気味な桃さんに辟易しつつも結局受け入れちゃうあたり桃さんにあまあま。同じ要領で青さんも受け入れてはいるが桃さんと比べると少々扱いはヒドい。なんだかんだと人が寄り付き気付けば暇人の集会場と化している我が家の座敷の現状を嘆いている。
桃さん
職業:小説家。
鬱病気味で人見知り気味。
青さんとともに黄さんの家に入り浸りな生活を続ける。基本的に黄さんと青さんだけいればその他はどうでもいいらしい。生活費を稼ぐ都合上から別のペンネームでも小説を執筆しておりその掲載雑誌の編集赤さんとも懇意にしている。
青さん
職業:探偵。
躁病気味で極度のノーテンキ。
桃さんとともに黄さん宅に押しかけ黄さん宅の猫ちゃんを追っかけ回すか寝てるか誰かに無駄に絡むかを日々繰り返している。度を越したゲラ。
白さん
職業:警察官。
整った顔に見合った繊細で神経質、かと思いきや意外に色々と雑で男らしい一面もある。
赤さんとは幼馴染。同じく腐れ縁の桃黄青さんのお世話をなにかと焼きたくなっちゃう実はオカン体質。
赤さん
職業:出版社編集部社員
掴み所のないふにゃふにゃした愉快な人。
桃さんの担当。小さい会社なので編集も取材もなんでもこなす。桃さんについて行った先で黄青さんと出会い黄さんの知識量の豊富さに感服し勝手に師匠と呼んでいる。
因みに桃黄青さん達は同じ旧制高校出身。学生時代3人してツルんで過ごしていてそんな腐れ縁は今でも絶讃継続中。白赤さんともなんだかんだと繋がって結局みんな仲良し。
原作お好きな方で御気分害されたお方居られましたら申し訳ありません、
今回も何でもOKな方のみお進みを。
旧制高校と硝子玉
旧制高校時代。不穏な空気に国全体が不安定で、教育を受ける事が今よりもずっと難しく貴重だった頃。幸運に恵まれた者同士、御世辞にも広いとは言い難い寮の部屋に、二人一組ずつ詰め込まれた先で出逢ったその友人は、恐ろしく不器用で。
呆れる程、生きる事に執着が薄かった。
「…お早う 佐野君」
向かい側のベットの上。上半身を起こした格好の儘微動だにせず、茫っと見開かれた硝子玉の様な瞳は、窓の外へ何を見るとも無しに向けられている。呼び掛けても返事がないのは何時もの事で、僕は一つ息を着いて自分のベッドから立ち上がり、これ又何時もの様に二人分の授業の準備に取り掛かった。
入学して半年。学校へ通うどころか何かを食べる事さえ促されなければやらない、自発的には何一つ動こうとしないこの同級生の朝の準備から食事の世話は、必然的に同室である僕の役目になっていた。
初対面から今迄、会話は両手で足りる位しか交わしたことがないし、その大抵はあぁとかうぅとか、言葉に成っていないモノばかり。
しかし不思議なもので半年も狭苦しいこの寮の一室という匣の中で顔を突き合わせていると、分かる事もあった。
学食で勧めた定食の、しいたけだけが綺麗に皿へ残って居たことから、どうやら茸類が苦手らしい事。却された学科の答案の点数から、文系より理系が得意らしい事。時折聴こえる楽器の音や歌声に反応する様子から、音楽に興味があるらしい事。
そうやって、同居人についての情報収集ばかりに気を取られている内に、自分の体調管理が疎かになって居たらしい。
或る日、僕の身体はとうとう構ってくれと悲鳴を上げた(まぁ、日常的に本を読み過ぎて睡眠不足だったから其れが祟ったんだろうけれど)。
朝起きたら、身体が全く動かなかったのだ。
学校の事やその他諸々気に掛けなければならないことも在る筈なのに、如何せん身体どころか瞼さえ開けるのが億劫な現状に、僕は早々に考える事を放棄した。
どうせ感冒の類だろうから、今日は休んで死んだように眠っていれば屹度直ぐに治る。同居人には悪いが、一日ぐらい飯を抜いたって死にはしまい。
そう結論づけてベッドの上へ横たわっていると、何かが動く音がして、すぐ側に人の気配がする。目を閉じた儘其れをぼんやりと感じ取りながら、ふっと意識が沈んで行くように深い眠りに落ちていった。
鳥の囀る声が遠くで聞こえ、徐々に意識が覚醒していく。瞼を開いてみれば辺りは薄暗くどうやら早朝の様だ。
まだ怠さが多少残るものの、大分楽になった身体を労わるようにゆっくり起こすと、掛け布団の上にぽとりと何かが落ちる。
摘み上げて見ればそれは濡れたタオルで、どうやら僕の額の上に乗って居たもののようだ。
はっとして隣に視線を走らせると、ベッドの直ぐ側で、椅子の上に膝を抱えて腰掛け此方を伺っている同居人と目がかち合った。
彼の足元には何処から持ってきたのか、洗面器と水差しが無造作に置いてある。
手に持ったタオル、洗面器と水差し、同居人の顔とを順繰りに見て僅かに戸惑う。朧げな記憶の中、確かに水を口に流し込まれた覚えはあったが、それは多分深夜の事で、それなのに洗面器の中の氷はまだ溶け切っていない。真逆、一睡もせずに看病してくれたのだろうか。
「……佐野君、」
済まない有り難うと言葉を紡ぐ前に、同居人は僕の目をあの硝子玉の様な瞳でじっと見つめて、素っ気無く呟いた。
「はやと。」
「え」
聴き慣れない声が部屋内に響き、一瞬誰の声だと辺りを見回したくなったが、確認するまでもなくその発生源は目の前の同居人のもの。
余りの事態に言葉が出ず、ぽかんと口を開けて見つめ返すと、同居人はふんと鼻を鳴らして言葉を続けた。
「…勇斗で良いって言ってんだろ。なに阿呆みたいな顔してんだよ」
「………………ははッ」
これ迄の沈黙は。
あの、あぁやらうぅやら呻いて居たのは一体何だったんだと言いたくなる程の図々しい口振りに一瞬呆気に取られたが、腹が立つよりも寧ろ可笑しさの方が込み上げ、思わず吹き出してしまった。
「うん。解った、解ったよ勇斗」
「………ん」
笑い続ける僕からふぃと視線を逸らした同居人は、場都合が悪そうな、それで居て機嫌の良さそうな、世にも複雑な表情をしている。
如何やったって喋らなかった同居人が突然喋り出した。嗤う事等ないだろうと思って居た自分がこんな風に嗤っている。
硝子玉の瞳は、何時もしているように窓の外へ向けられていて。今だったら、この同居人は其処から何を見ているのか答えてくれそうだなと。
そしてこれからは、僕が骨を折らずとも本人の口から情報収集が出来そうだなと、そう思った。
終