テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
先生、勉強したくないんですけどどうしたらいいですか!続編
※生徒と家庭教師
大学生カテキョ黄
中1思春期ざかり桃
時刻は5時35分。
家庭教師がついて1年ほど過ぎた初夏。
小6から中1になった勇斗くんは、算数から数学になった教科書をペラペラとめくりながら、隣の吉田センセイに問いかけました。
「なぁ、吉田センセー」
「あ?」
「なんで勉強ってしなきゃなの?」
勇斗くんの数学の小テストを○つけしていた吉田センセイは、手を止めて勇斗くんの顔を見つめます。
「…なんかそれ、前も聞かれた気するけど」
「うん、小6の時も聞いた。そんで『知らん』っていわれた」
「なははっ、さすが俺だなぁ」
「それ聞いて、めっちゃヤル気なくなったんだよなぁ、俺」
「人のせいにすんなよ。勇斗、やる気なんて元からあんまないだろ」
吉田センセイにそう言われ、勇斗くんは教科書を放り投げて、唇を尖らせます。
「まぁそりゃそうですけどぉ〜。でもだったらさぁ、どうすりゃやる気ってでんの?俺のやる気スイッチどこにあんのかなぁ」
「さぁな、そら自分で探すもんちゃう?」
「うっわ出たよ。まじめんどくせぇわぁ〜」
むくれ顔の勇斗くんに、吉田センセイは思うところがあったのか、腕組みして考え込みました。
「勉強ねぇ…まぁ、真面目に答えると、自分の選択肢を広げてくれるもんだとは思うかなぁ」
「せんたくし?」
「ん。別にさぁ、XやらYやらはオトナになってから多分大体の人が使わないとは思うんだよね」
「だよね?!」
「でも、よ。いつ自分が『やっぱ科学者なりたいわオレ!』ってなるかも分かんないだろ?」
「うん?」
「これ例え話な?そんな風にさ、いざなりたいモンが見つかっても、その時もし単位足りなかったら…」
「たんい?」
「あー、通知表の1から5のこと」
「あー…」
「その数字が少なかったら、どんっなに行きたい学校でも行けないこともあんだよ」
「そうなん?!」
驚く勇斗くんに向かって、吉田センセイは深く頷きます。
「そうだぞぉ。世知辛い世の中なんだって。だからその、いざとなった時に、積み重ねてきたもんは裏切らないんじゃないかな」
「つみかさね…」
吉田センセイのマネをして腕組みしながらつぶやく勇斗くんに、吉田センセイは自分のことを話してあげる事にしました。
「俺も、本当は大学なんか行かないで高校卒業したら働こうと思ってたし」
「え、そうなん?!」
「おん。でも高2の春に方向転換してさぁ」
「吉田センセ科学者なんの!?」
「いやいや科学者じゃないけど、学校の先生になりたいなぁって思ってさ」
「へぇえ!」
「そっからはもう猛勉強よ。それまで全ッ然勉強なんかやってなかったから」
「べんきょーにうらぎられたんだ?積み重ねてねぇから」
「そうそう、めっちゃ裏切られた!んでまぁ、とりあえずやるしか無いなってことで頑張って、なんとか今の大学入れた訳だけど」
「そっかぁ…吉田センセイもがんばったんだな」
しみじみと言う勇斗くんに、吉田センセイはにっこりと笑いかけます。
「おう。だから、別に今じゃなくてもいいんだよ。いつかきっと、勇斗にも来ると思うよ。勉強してみよっかなって思う時が」
笑う吉田センセイの顔をじっと見つめながら、しばらく何かを考えていた勇斗くんは、意を決したように口を開きました。
「…吉田センセー」
「んー?」
「てかじんちゃん」
「おぉ、急にくだけんじゃん」
「俺、マジメにベンキョーするわ」
「…いや、さっきのどこで入ったんだよお前のやる気スイッチ?!」
突然の勇斗くんの言葉に、吉田センセイは持っていた赤ペンをぼとりと取り落としました。
そんな吉田センセイをしりめに、勇斗くんは話を続けます。
「俺さぁ、ベンキョーはキライだけど、じんちゃんとするベンキョーはそんなキライじゃないんだよね」
「は?」
「だから、俺も今からベンキョーがんばって、そんでじんちゃんとおんなじ学校の先生んなるわ。」
高らかに宣言した勇斗くんは、未だにぽかんとしている吉田センセイに向かって、にししと笑顔でピースサインをしてみせました。
「ち……ちょいちょいちょい!なんだそれめっちゃ嬉しいヤツじゃんおまえぇ!」
感極まって、満面の笑みで勇斗くんの髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でまわしながら、一種の教員の醍醐味を早くも味わった吉田センセイ。
そんな彼はまだ知りませんでした。
(…だってそしたら、カテキョ終わってもじんちゃんとの関係って終わんないでしょ?)
頭を撫でられながら、吉田センセイの顔を見つめて、勇斗くんがそんな風に思っていたことを。
→お勉強終了後。
「俺、ベンキョー頑張る事にしたわ」という勇斗くんの言葉に、お母さんが感涙したのは、この約1時間後のこと。
end